第6話 ニホンからの転移者サクラバ・ユキト① sideヒューゴ・ヴェルスター

俺はその時、妙に頭ん中が静かになって、自分の終わりを納得しちまった。


敵の基地の中でミスして見付かって、フォトンブラスター粒子光線銃をモロに喰らっちまったんだ。

助かる筈が無かった。即死でおかしくなかったのに、まだ意識がある事の方が驚きだった。


・・・まあでも、16からずっと戦い続けてたんだ。もう休んでもいいだろ。

ダチには悪いけどな・・・


すぐに何も見えなくなって、視界が黒く塗り潰され、音が消え、体の感覚が消え、何もかもが消える筈だったんだが・・・


気が付くと、再び視界が、音が、俺の体の感覚が戻っていた。


「な・・・!?」


滅茶苦茶になっていた俺の胸には何の痕跡もなく、手足の欠損すら無かったかように五体満足で、おまけにたっぷり寝て起きた後みたいな充足感すらあった。


しかも、さっきまで居た基地の中じゃない。どことも知れない、何もかもが真っ白な空間に居た。

そして驚いている俺に、声を掛けて来るやつがいたんだ。


「ヒューゴ=ヴェルスターくん。よく来てくれたね!」


「なっ・・・誰だ!?」


そいつは、銀色の髪の毛に金色の目なんていう、俺の世界じゃ見た事ないような色合いの男だった。人形みたいに整った顔をしているが、そのせいで猶更なおさら、人じゃないように見えた。


俺はすぐに距離を取ったが、素っ裸なのと、何も武器を持っていない事に内心焦っていた。


だが、そいつは警戒する俺に構わず、のんきにベラベラ喋り出した。


自分は世界を管理する神で、自分の世界の異物を排除できる人間を色んな世界から連れて来ている事、俺の魂がそいつの世界にマッチするから死に掛けてた俺を回復してここに連れて来た事。


そして、俺に拒否権は無く、そいつの世界の異物―――魔王を倒すまで死ねない体にした、とも言われた。


俺は唖然としてその傲岸不遜な男の話を聞いていた。


まあ、死に掛けてた俺を助けてくれた、って所は少しは感謝した。戦闘で死ぬ事は仕方ないとは思っていたけど、死なないに越したことはないからな。


それに魔王を倒せば、あとは俺の自由にしていい、行きたい所に行って、好きなように生きて良い、って言われた事にも、心が浮き立った。


ずっと生まれてから戦争ばかりの世界だったから、そうじゃない世界もある、もっと楽しい世界に行けると言われて、心が踊っちまった。


その、魔王とやらを倒す為に、必要なスキルっていうのをありったけ俺に付けて強くしてくれるって話だったし、それなら簡単に倒せるんじゃないかと思ったって事もある。


だからいきなり訳の分からない状況に放り込まれたわけだが、俺は割とあっさりそれに順応して、受け入れた。


ま、そうじゃないと戦場でやっていけないからな。


それで、その男の世界ってやつに送り込まれた訳だが、俺の居たエクシリアは長年の戦争で荒廃して緑のない世界だったんだが、ここには手付かずの大自然が広がっていて、俺はテンションが上がっちまった。


送り込まれたジルヴィアって街も、綺麗な海に面した雰囲気の明るい凄くいい街で、そこに住む人も皆、俺が魔王を倒す為に遣わされた勇者だ、って歓迎してくれて、俺はこの世界がめちゃくちゃ気に入った。


俺のエクシリアよりもずっと平和だし、自然は豊かだし、綺麗だし、人も幸せそうだし、別にここにずっと居てもいいかなって思うくらいに気に入ってた。


最初の数か月は浮かれ過ぎて、魔王の事は後回しにしてつい、あちこち遊び回ってしまった。


戦い以外の事を知らなかった俺に、街の人も色々教えてくれて、それがまた楽しくてな。


魔王は同じ場所から動かずに、攻めてくる様子も無かったのがまた、浮かれた気持ちに拍車を掛けた。


でも、街の人達の不安の種になっている事は間違いないし、魔王を倒すって約束はあるから、そろそろ倒そうかって行ってみたんだ。魔王の居場所に。


探索と転移ってスキルが物凄く便利で、これがあればレドルレーダークイール飛行機サーブも要らない。


魔王は猛吹雪の中に居た。気持ち悪いぶよぶよした塊に見えたが、動かないから楽に倒せると思って、一番強い炎系の魔術スキルの『フレアサーヴァント』ってやつを使ってみたんだ。


エクシリアには魔法なんて無かったから、実は魔法を使うのはワクワクしていた。


スキルを発動すると、俺の目の前に巨大なアニマ伝説上の龍のような劫火が出現した。そして、物凄い轟音と共に魔王に激突して、大爆発した。


滅茶苦茶な威力に俺はテンションが上がったけど、魔王には傷一つ付いてない。


唖然として他のスキルを使おうとしたところで、魔王から黒い光線が発射されて、絶対防御で守られてる筈の俺を貫いて来た。


久しぶりに感じる激痛に思わず膝を付きそうになったが、それでもスキルを駆使して光線を避けながら、スキル、マジックブラスターってやつも使って攻撃した。


エクシリアでも使っていたブラスターに似た武器だから、使いやすい。だが、威力は段違いで、一発発射するだけで、さっきのフレアサーヴァント並みの威力を打ち出して来る。


こんなの、エクシリアで使ったらあっという間に戦争終わるだろ。


だが、それなのに魔王にはかすり傷程度のダメージしか与えられず、俺はだんだん追い詰められていた。


黒い光線の乱射が始まり、とうとう耐え切れずに地面に蹲ってしまった所に、極大の光線を浴びて、意識が飛んだ。


気が付くと、ジルヴィアの街の噴水広場に蹲っていた。


驚いて身体を確認したが、五体満足でどこにも何の傷もない。


さっきのあれは、間違いなく体全部吹き飛ばされたような攻撃だったのに、本当に死なないんだ。


これにはさすがに驚いた。いつも死を覚悟し、どこかで生を諦めていたような人生だったから、死なない、という事に俺は高揚してしまった。


次は、こういう戦略で行こう、やっぱダメだったか、じゃあ今度はこういう戦略で・・・


しばらくはそうやって、作戦を考えては魔王に戦いを挑み、そして敗れて死んで、またジルヴィアに戻って来る、って事を繰り返してた。


どこか遊戯のように捉えていたんだ。死なない事で、気持ちに余裕があった。


でもさすがに10回以上それを繰り返したら、やっぱり心が疲れて来た。


「もう、しばらく魔王のとこ、行くの控えようかと思うんだよな」


俺が世話になってる神殿の神官長にそう言うと、神官長も


「それでいいと思いますよ。ヒューゴ様はここ最近ずっと魔王との戦いに疲弊されていましたから、お休みになられて下さい。気分転換にまた街へ出掛けられますか?」


と微笑んで労わってくれたから、


「そうだなー!最近行ってなかったから行くか!」


と、街へ出掛ける事にしたあの日。


俺は、初めて他の転移者に会ったんだ。

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