第21回 賽(さい)の河原の物語にゃん
冥土にあるとされるその河原では今日も親に先立った不孝な子供達が獄卒の鬼に虐められていた。
「ほれほれ、石を積み上げろ~」
「十個積んだら極楽に連れて行ってやるぞ~」
ここにはゲームも玩具もない。
釘バットよりも痛い鬼の金棒で叩かれない為に子供達は必死で石を積み上げる。
「あ、あと、一つ……」
慎重に積み上げていた子供の一人がリーチをかける。
実父から全身に熱湯を掛けられる虐待を受け、悶死したという九歳の女の子だ。
ただ親に先立つ不孝。
それだけの罪でその子はここに連れてこられていた。
「おっと、そこまでだ」
獄卒が駆け寄り、女の子の積み上げていた石を崩す。
「ああっ……」
無残にクズされた石を見て女の子が泣き崩れる。
「幼女を虐める快感! たまんねぇぜ!」
獄卒は地獄のから昇格した者だった。
幼女ばかりを狙ってわいせつな行為を繰り返した性犯罪者。
地獄の鬼を買収して罪を逃れた男は、かわいい女の子をみて舌なめずりする。
「よし、近くに他の獄卒はいねぇな。今日の獲物はおまえにすっか……」
獄卒は金棒を捨て、鬼のパンツに手を掛けようとした。
その時だった。
どこからともなく
「坊さん……?」
獄卒が音のする方を見ると、そこには一人の坊主が立っていた。
坊主はかぶっていた編み笠を上に上げ、その奥にある目で鬼を鋭く射貫く。
ただならぬ雰囲気に獄卒は捨てた金棒を慌てて拾った。
「誰だ、てめぇ……」
「最近の獄卒は畜生でもつとまるのか。あいにくと畜生に名乗る名はもちあわせておらぬ」
「ふざけやがって。地獄に落ちた坊主
獄卒は持っていた金棒を坊主に向けてすごんだ。
「言っておくが私は亡者ではないぞ」
「なんだと?」
「私は生きて地獄を
「旅人だと? ふかしこいてんじゃねぇぞ! あー、もう、いらいらする。決めたわ。今日はおまえをミンチにして遊ぶわ! つーことで、まぶだちの獄卒のみなさんよろしくぅー!」
獄卒が口笛を鳴らすと、他の獄卒がわらわらと集まってきた。
「なんか、脱獄した亡者発見したんでみなさんで狩っちまいましょー!」
ノリノリの獄卒だったが、集まってきた他の獄卒は坊主の姿を見てガクガクと震え始めた。
「おい…あれって……」
「まさか…うそだろ……」
他の獄卒がためらうなら最初の獄卒が大きくため息を吐いた。
「あー、もうしらけるなぁ。たかが亡者っしょ。亡者の何倍も強い鬼になった俺らならあんなのワンパンですよ。ったく、先輩達はほんとびびりっすね。ここはいっちょ俺が手本を見せてやりますよ」
亡者上がりの獄卒は、風俗の客引きをするチンピラだった。
元ヤンキーなので
彼は何のためらいもなく金棒を坊主に振り下ろした。
「おらぁ!」
しかし、坊主はそれをよけることなく片手で軽々と受け止めて見せた。
瞬間、坊主の体が膨れ上がり、
極限まで鍛え上げられたその体はまさに鋼のそれである。
「幼子を虐め、汚そうとした畜生よ! 貴様には深い地獄の底が似合いだ!」
坊主は金棒を押し戻すと、錫杖を捨て、編み笠を脱いだ。
「地蔵
後から来た鬼が呟き、あとずさる。
それを見て他の獄卒達も一斉に距離を取った。
ただ一人、あの最低な獄卒を除いては……。
「心せよ、畜生! 我が拳は全ての
一瞬で間合いを詰めた坊主が獄卒の腹に拳を打ち込む。
「なんだ、大したことねぇじゃねぇか。おどかしやがって……」
獄卒がよろけながら一歩下がった。
ただそれだけのように思えた。
「こんなの…あで…おがじい……こえが…ぐるじい…あで……」
獄卒は知らなかった。
拳を打ち込まれた直後、風船のように膨れ上がったことに。
そして、獄卒はその状況を把握することなく、風船のように割れてはじけ飛んだ。
バンッと汚らしい音と共に賽の河原が血に染まった。
「逃げろ!」
「殺されるぞ!」
獄卒達が散り散りになって逃げていく。
そして、
坊主、いや、地蔵菩薩は女の子を抱きかかえると、優しく微笑んだ。
「さあ、私が極楽浄土に連れて行ってやろう。他の皆もついてくるがいい」
子供達は石積みをやめると、一人、また一人と地蔵菩薩について行く。
こうして
めでたし、めでたし。
「一斉衆生済度の請願を果たさずば、我、菩薩界に戻らじ」
これはお地蔵様として有名な地蔵菩薩が言ったとされる言葉にゃん。
菩薩というのは仏教で如来に次ぐ地位にゃん。
要するにとても偉いってことにゃん。
この言葉を現代風に意訳するとこうなるにゃんよ。
「この世界にはまだまだ苦しんでる人が大勢おります。その人達を救わずして誰が菩薩を名乗れるでしょうか? 彼らがその苦しみから解き放たれる時まで菩薩の地位は辞退したく存じます」
こう言って天界から地獄まで全ての世界を旅しているのがお地蔵さんにゃん。
お地蔵さんは最も弱い立場の人々を最優先で救済する存在にゃんね。
弱い人、苦しんでいる人のもとに現れ、優しく救いの手を差し伸べてくれるありがたい存在にゃんよ。
そして、人を虐げる者、苦しめる者を決して許さない存在でもあるにゃん。
イメージ的には、北斗の拳のケンシロウと小公女セーラを足して二で割ったような存在にゃん。
とても身近だけどとてもありがたいお地蔵さん。
道ばたで見かけたらたまには拝んでおくといいかもしれないにゃんね。
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