第2話 出会い
確かこの後は急遽王と面会することになったんだっけ。ここは王都の教会。ぐずぐずしていてはすぐに憲兵団に連れていかれてしまう。
「あたまが…痛いです…」
ちょっとよろめいて見せるとすぐに教会の一室で休むことになった。今は目新しい『賢者』という職業のおかげで周りが『丁寧』に扱ってくれる。だがそれも長くは続かないがな。
部屋の窓からこっそり抜け出し辺境へ向かう馬車の荷台に隠れ乗った。前の人生では孤児院で育ち、王立学校でも型にはめられた息苦しい生活を送っていた。今はとてもすがすがしい。
このまま田舎で適当にクエストをこなしながらスローライフを送ろう。魔王?そんなん知ったことじゃない。俺の目標は老衰で死ぬことだ。そんなことを考えているうちに目的地に着いたらしい。ばれないようにそっと降りる。
まず宿代を稼がないといけないな。10歳の子供がいきなりギルドに行ってもなめられて終わるだろうから先にそこそこ強いモンスターを狩っておこう。何よりせっかく与えられた特別職のスキルをためしたくてしょうがない。
手始めに周りを探知する。半径1km範囲。いない。半径2km。いない。思い切って10km圏内を探知する。とてつもなく強いモンスターが大量にいる。前世の俺なら間違いなく勝てない強さだ。でも今の俺なら余裕で勝てる。
周りに人がいないことを確認して自分に付与魔法をかける。これで10kmくらいすぐにいける。はやる気持ちを抑えられずに急いで向かった。
しばらくしてオーガの群れが見えてきた。いや、本当にゴブリンか?体長は2倍以上あるし動きも速い。まぁいいか。どうせ倒すんだし。
「サンダープリズン!!」
詠唱とともに視界一面を電撃がおおう。ゴブリンらしきものの群れは数秒硬直したあと、電撃に耐えきれずに次々と倒れていく。
すごい威力だ…雷属性の中級魔法をうってみただけなのに…そりゃ特別職が思い上がるわけだ。
前世の俺では一生、いや、五生くらいしたって倒せない数のゴブリンの死体が目の前に転がっている。ゴブリンは耳を切り取って討伐の証明をするんだっけ。これだけの数のゴブリンから耳を切り取る作業だけで数日はかかるな。げんなりしながらも粛々と作業を行っていく。
視界の端に震えてしゃがみ込む少女の姿が目に入る。危なかった。ゴブリンと一緒に殺してしまうところだった。魔法を使うときは気を付けないと。
「驚かせちゃったよね。大丈夫?」
「王子……様……?」
熱っぽい目で見つめてくる。体調でも悪いのだろうか。
「どうしたんだ?怪我とかしてないか?」
膝に切り傷がある。これに関しては完全に俺に非がある。治すぐらいのことはしよう。
「ハイ・ヒール!!」
詠唱と同時に手をかざす。少女の傷がみるみるうちに癒えていく。
「ほかに怪我とかはしてない?」
「あの……今日うちでご飯食べていきませんか……?お礼もしたいし……」
ゴブリンの耳を換金するにも時間がかかるだろう。今日はお世話になるか。そう思いながら少女の案内に従って後をついていった。
しばらく歩いているうちに王都でもそう類をみない豪邸が見えてくる。こんな田舎にも金持ちはいるんだな。周りには家屋の類はない。そういえばこの少女の着ているものも庶民のそれとは少し違う気がする。
「あの……お名前を聞いてもよろしいですか……?」
丁寧な言葉遣い。やはりそこそこの身分の貴族の娘といったところか。
「アランです。あなたのお名前を聞いてもいいですか?」
長いものには巻かれておけと前世の記憶が叫んでいた。できる限り失礼のないようにしよう。
「アラン……アラン……アラン様……素敵なお名前……」
会話にならない。何歳かわからないが俺とそう歳が変わらなさそうなのから考えるに10歳くらいか。10歳は会話できない年齢だっけか?
そうこうしているうちに門までついた。執事と思しき白髪の老年紳士が出迎えてくれる。
「おかえりなさいませルージュお嬢様、して、隣のお方はどなたでしょうか?」
「アラン様ですの!!わたし、すこしとおくまでおさんぽしようとおもったのですが、そこをたすけられて……」
「お嬢様の恩人ですか。それは失礼いたしました。中へどうぞ。お客人の分もディナーを作らせます。それまで客間でおくつろぎください。」
執事というのはすごいな。こんな支離滅裂な発言でもちゃんと意味が分かるのか。感心しながら案内されるがままに屋敷に踏み入った。
客間ではルージュと二人きりだった。というか豪邸のわりに執事以外の人を見ていない。明らかに人が少なすぎる。
「ルージュさん、このお屋敷にはほかには誰もいないんですか?」
「まぁルージュさんだなんて。ルージュとお呼びください。アラン様。」
ダメだ。やっぱり会話になってない。
「お父さんとお母さんは今どこにいますか?」
「父と母は……私が物心つく前殺されてしまって……」
最悪だ。一発で地雷を引き当てた。前世では王国の南端の都市はいくつか陥とされていた。もしかしてここも危ないのだろうか。
「それは、悪いこと聞いちゃいましたね。ごめんなさい。」
「いえ、私は覚えていませんし、いまは姉と執事のパトリックがいるから十分ですの。それにアラン様にも……」
パトリック?さっきの執事か。名前くらい覚えておいたほうが今後の役に立ちそうだな。なぜかルージュは顔を赤らめている。本当に体調が悪いんじゃないかなあ。
玄関から大きな鐘の音が聞こえてくる。
「姉が帰ってきました。今連れてきますね。」
そう言われてついに部屋に一人で置いていかれる。こんなことあるのか?
「お食事の準備ができました。」
執事が部屋に入ってくる。
「ルージュお嬢様はどちらへいかれました?」
「お姉さんが帰ってきたということで玄関まで迎えに行きました。」
「ところで……お客人はどこにお住まいですかな?」
「以前は王都にいたんですけど田舎に住むのも悪くないかなって。実はいま住むところを探してるところなんですよね。どこかいい物件知りませんか?」
軽い雑談のつもりだった。しかし突然剣を抜かれ剣先をのどにむけられる。
「やはり匂いはしていたが……やはり貴様、人間か!!」
あまりの出来事にただ両手を挙げて反抗の意がないことを示すことしかできない。
「パトリック!おやめなさい!」
部屋の入り口から声がする。
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