第1話 侍女見習い


「えっ、私が……宮廷に?」

 雪がまだ解ききれない頃、田舎にあるスコット男爵家では一人の少女・ミラが決して若くはない男性こと彼女の父親であるスコット男爵と話をしていた。

「ああ、次期皇帝のエミリオ様が妃候補を探しておいでらしい」

「それと私に何が関係があるのですか?」

「そ、それは……」

 しどろもどろに彼は何かを話すと「王命なんだ……」と呟いたのだった。

「でもお父様っ、無理です! 私あの姿になってしまうかもしれません!」

「大丈夫よ、私もなんとかなっているんだもの」

「お母様……でも私」

 全力拒否したミラだが、お母様の押しの強さに負けてしまい宮殿に行くことになってしまった。



 ***


「ミラ、こっちもお願いー」

「は、はい!」

  私、男爵令嬢であるミラ・スコットは宮殿で侍女見習いとして働いている。と言ってもまだ一週間しかたっていない。

「シーツ一緒にやってくれる?」

「はい」

 侍女見習いとして働いているのは伯爵家次女と公爵家四女の身分が高い人もいれば私みたいな下級貴族もいる。ここにいる共通点といえば、未婚で婚約者がいない女子だ。なぜ集められたかというと……

「そうだ、私エミリオ様見ちゃったのよ!」

「え、エミリオ様?」

「そう、もうカッコ良かったわ〜」

 この子は同じ男爵令嬢のエマ。言い方からにして彼女は本気で宮殿ここへやってきたらしい。

「ミラは、興味ないの?」

「ええ……私は目立つことなく帰りたいわ」

 理由は簡単。

 次期皇帝のお妃さま候補を決めるためだ。

「変わってるわね〜そういうとこも好きだけど」

「それはありがとう」

 私は剥がしたシーツを洗濯場に持っていくと洗濯係の侍女に渡した。その帰り道も「エミリオ様が」「エミリオ様に」などエミリオ様の話題で尽きない。

 私は早く帰りたいとため息を吐きながら来た道を戻った。

「……はあ、本当にツいてないな」

「ミラ、これ替えの服よ。大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

 帰り道、水が全身にぶっかかり服はビショビショになってしまった。だから部屋に戻り着替えをするために自分の部屋へと戻ってきた。

「ふぅ……戻ろう」

 そう思って部屋から出ると「帰りたい」と本日何回目かのため息を吐く。それと同時に、私の体は小さくなってもふもふした姿になってしまった。

 これはヤバい。本当にヤバい……この地に来て初めてこの姿になってしまった。慣れない生活で疲労していたのだろうか。でも、誰も見ていないことが不幸中の幸いだが。今の私はモフモフで耳と尻尾が生えていてウサギの姿……これじゃあ戻れないよ。

「ミラ? ミラ〜?」

 この声はエマの声だ。隠れなきゃ……そう思いベットの下に隠れる。こんな姿見られたら捕まっちゃう。そう思ってしばらく大人しくしていれば元の姿に戻ることができたけど、体調が悪いと言って休ませてもらった。



 そして侍女の仕事が慣れてきた頃、私は侍女長に命じられ第一皇子の専属侍女に指名された。運が良かったのか悪いのかわからないけど……まあ、専属秘書のその五くらいの価値だと思う。

「ミラさん、雑巾掛けしてもらっていい?」

「はい。わかりました」

「ピカピカにお願いします」

 そう言われて桶に水を組み部屋の中の雑巾掛けを始めた。

 

 

 

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ワケあり令嬢ですが、次期皇帝陛下に寵愛されてます。 伊桜らな @koto_yuki

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