第920話 困ったことに気付いてしまった

 桜が……めちゃくちゃ元気に根付きましたよ、たった二日で。

 なんかもう、凄いね、神聖魔法。

 改めて【聖生充育】さんのぶっちぎり具合がよく解りましたよ。


 蕾まで出ちゃたんですよ、この枝。

 花が咲いたりするだろうか……そしたら、ちょっと嬉しい。

 この枝が、木として生きようと頑張ってくれているってことだよね。

 しっかりお育て致しますよ。


 あの後、錆山裏のもう一箇所にも行ってみたら、そちらには別の『種』が保管されていた。

 勿論、少しだけ分けていただいたので、謎の種ふたつと玲桜の栽培スタートだ。

 遊文館地下に、それぞれのお部屋も作りましたからね。

 だけど、種の方はどんな環境が相応しいか解らないから、ちょっと探り探りだなぁ。


 さて、今日は朴樹の林と亜麻の群生地での祠確認ですよ。

 こっちは衛兵隊に『目標設置場所』として届け出している場所なので、昼間に堂々と。

 南門でそこに行きますってお知らせして、衛兵さんの目の前で移動先を示してから移動しました。


 朴樹の祠は予想通り、崖側の奥の方。

 ちょっと距離があったけど、なんとか転移マーキングができたので入ってみた。


 入った途端に、祠が崩れてビビった……あっぶねーー!

 ここ、一番劣化している気がする。

 大丈夫ですよ、直しちゃいますからね。


 この石、錆山裏のものと違う?

 そういえば、この辺の玄武岩、ちょっと種類が違ったっけ。


 祠の上に書かれていた文字は『蒲葡』……『えびぞめ』でいいのかな?

 この石の色だろうか?

 確かに暗い色だけど、ちょっと赤紫っぽい。


 それにしても、こんなにもあちこちに『水を巡らせるシステム』が作られているなんて、思ってもいなかったな。

 だけど……これ、シュリィイーレの町を作る時に気付かなかったものだとしたら、皇国ができあがる前に『別文明』が存在していたということになるんだよな?


 空にニファレントがあった時代に、陸に栄えていた文明ってどんなものだったんだろう。

 それが神話に描かれていた英傑と扶翼の時代で、その頃はまだ『イスグロリエスト皇国』すら、なかったのかもしれない。


 前文明の血統を継いでいる人達が現在の皇国貴族なのは想像通りなんだけど、だとしたら……皇国貴族全員がどこかでニファレントとも繋がっていそうだよな。

 だって、レイエルスがニファレントの血筋であるのだから、皇国の建国は『間違いなくニファレント滅亡の後』だ。

 そしてそのレイエルスとの婚姻関係であっても、血統が維持されるということは……あれ?


 それって……俺がニファレントだと思われるの……まずくね?

 なんらかのタイミングで『レイエルスは『絶対遵守魔法』を持っているニファレントの貴族ですよ』って解ったとする。


 すると、今までレイエルスと結んで、皇国の貴族が『金証』『血統魔法保持』ができていると確認されているのだから……『ニファレントの血統魔法を持っている金証のタクト』も、皇国の貴族と結んだとしてもその子供は血統魔法を保持できる……ってことになるんだよな?


 駄目でしょ、それっ!

 メイリーンさんは、家系魔法を持っているから従者家門の血を引いている。

 実際に、ライリクスさん達が『コレイルの元従者家門だ』と言っていたのだから、間違いあるまい。


 だとすると……俺とメイリーンさんの間には、子供ができない……と、皇国の貴族達は考えるだろう。

 そうなったら、魔法至上主義のこの皇国で『絶対に魔法を失うと解っている婚姻』を……認めないなんて言い出すかもしれない。


 いや、貴族達がいいよって言ってくれたとしても、教会側が渋ったら婚姻を承認しないとか、メイリーンさんと結婚したかったら『血統を保つ婚姻もしろ』なんて……言われてしまって、メイリーンさん以外の人とまで……?


 やだやだやだやだっ!

 それは絶対、絶ーーーー対っ、防がなくてはいかんっ!

 うぇぇーー?

 でもでもだけど、どぉやってぇぇぇ?

 うわー、うわわーー……


 ……


 ……そうだ。

 ここでも鍵は『文字』だ。


 ニファレントで使われていた文字と、日本語が明らかに違うこと、全く違う文明を持っていたこと、端々の要素がちょっと似てはいても……別の国だと証明できればいい。


 日本が『この星にない』ということまでの説明は、どんな言葉を駆使したところで納得はしてもらえまい。

 だが、全く違う時代にあったかもしれない国……ならば、まだ信じてもらえるだろう。


 証明すべきは『ニファレントが空にあった帝国』ということと、俺の生まれた『日本が海に浮かぶ島国』であると言えれば地理的に別であると言える。

 それだけでは弱いから、文化的文明的な相違を提示……


 魔力があるなしは、現在俺が魔法を使えていて魔力があるから『日本には魔法がない』ということは残念ながら証明できない。

 日本の昔話には魔法っぽい表現満載だから、実は魔法も魔力もあったのになくしちゃったから信じられていないだけってことも……ないとは、言えないんだよ。


 タイムリミットは『レイエルスがニファレントの家門だった』と言うことが貴族の皆さんに判明するまで。

 それまでに、なんとか『スズヤ家門は、ニファレントと無関係』と証明しなくてはならない。

 もしくは、適性年齢までレイエルスの皆さんには黙ってもらってて……


 いや、それは……強要できない。

 彼等はもうずっとずっと苦しい想いを抱えてきたのだから、俺の都合で何も言わないでくれなんて言えない。


 ならば、俺にできることは『天空の魔導帝国ニファレント』がどんな国で、どのようにこの『大陸』に降りたのかを早急に証明するしかない。

 ぐぁーっ!

 のんびりまったりなんて、言っていられなくなっちゃったぞーーっ!

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