第915話 やることリスト

 ここのところ新発見ラッシュで、正直いって俺の脳内もパンク寸前である。

 なので整理しておこうと机に向かった。


 まず……特異日に確認した、魔効素吸収ポイントの現場確認。

 錆山の裏っ側は後回しとしても、朴樹ほおじゅ林と亜麻の群生地は早期に行かねばならない。


 紅花群生地で見つけた祠の石板魔法に関する情報の整理と、ビィクティアムさんと飛んでしまったルビー部屋前室の方陣の件も併せて進めないとな。

 これは、ビィクティアムさん次第だなー。

 今は婚姻式の準備で忙しいから、後回しになっちゃうかなー。


 で、ガイエスと一緒に行った洞窟の再調査だが、衛兵隊に動いてもらいたいことだから紅花の祠から『移動の方陣』が見つかってしまったことで後回しになりそう。

 だがインパクトは大きいだろうから、できればビィクティアムさんの婚姻式後の方がいいかもしれない。


 そっちの調査の前に、俺としてはガイエスと見つけた『はっきりと目的の解らなかった方陣』を解析する方が先かも。

 あの方陣……俺はニファレントというより、少数民族のものではないかと考えているんだよね。

 いや、まだ少数民族がニファレントと関連がないと決まった訳じゃないか。


 だけど、今まで全く見たことのない文字だから、ニファレントと考えづらい……と思っているんだ。

 あの『ニファレントを思う詩歌のような日記』が、神約文字だったことを考えるとどうしても『ニファレントの文字は神約文字』なんじゃないかって。


 だから、全く文法も系統も違う文字であるあの方陣の『表音文字』は、むしろ『古代マウヤーエートの神約文字』じゃなかったかと思っている。


 そう『三津の大地』の『五つの国』には、それぞれに『全く違う神約文字』を神々が渡していたのではないか……ということ。

 皇国では魔導帝国ニファレントからの民と、元々皇国にいた人々が国名を『イスグロリエスト』として新たに建国した時に、神約文字をニファレントのものと皇国のものを合わせた文字にしたのではないか……と考えている。


 以前、神約文字を『音で表してみよう』と試みて挫折したのは『発音ができないから』だった。

 だけど【文字魔法】に『片仮名で読みを表示して』と指示した時に……音が表示されたということは、皇国の人が発音ができなかった『ニファレントの音』と皇国人が発音できるように『後から定めて当て嵌めた音』があったからじゃないのか?


 日本がかつて漢字を使い出した時に、元々の読みだけでなく『訓読み』を作って当て嵌めたように。

 そして、独自の『国字』を作りだしてすっかりと漢字の中に馴染ませてしまい『日本語』としたように、皇国はニファレントの神約文字を『皇国の神約文字と混ぜ合わせて完成させた』って、ね。

 ……まぁ……この辺は、今年の冬ごもりの時にじっくりと考えていこうと思っている。


 さて、TO・DOリストに戻ろうか。

 冬になる前までにやること……魔効素吸収場所の確認の他は、ショウリョウさんとトアンさんが持ってきたあの本とメモ用紙の翻訳。


 これはすぐにできるけど、ビィクティアムさん達への報告はレイエルス侯やレイエルス神司祭の判断待ちだ。

 訳文を渡した後は、動いてはいけない。


 ガイエスから貰った本の訳文などは仕上げて、ビィクティアムさん監修の後にティエルロードさんに渡す感じだな。

 あの辺はヘストールとディエルティという『過去にあった国々の記録』で、皇国としても貴族達としても大きく心が動くものではない。


 となれば、冬場の個人的な楽しみとして研究してからでも、報告には問題ない。

 あまりいっぺんに渡してしまうと、賢魔器具統括管理省院の皆さんが倒れるってビィクティアムさんが言っていたし。


 あっ、そーだ!

 そろそろ、リシュレア婆ちゃんの生誕日だっ!

 お祝いの準備しなくちゃっ!

 今回の俺の担当は『お誕生日ケーキ』なのだ。

 うん、まだ三日あるからだいじょーぶっ!


 それと、ガイエスがいっぱい送ってくれた剝離式硬皮用紙の使い道を考えよう。

 子供達に遊んでもらえるものにしたいよねー。

 その後にビィクティアムさんの婚姻式の演出映像を二種類作って、お祝いも一緒に作って……あ、乾燥具合確認しておかなくっちゃ。


 だがしかし、何よりも優先されるのは、市場での食料品調達だな!

 明日から全力買い備蓄チャレンジ復活だ。



 ……あっという間に、必要量の買い付けが終わってしまった……

 保管庫が充分にあったお陰もあるが、キラキラ食材の選別速度が上がった気がする。

 しかも、ハズレなしを確信しているし。


 ガイエスにもあの感動のお礼に、どっかりとあいつの好物の保存食やスイーツを送り終わった。

 自販機も在庫充分だし、遊文館でも欠品、品薄はない。

 完璧過ぎるぞ、食糧確保。


 それでは、リシュレア婆ちゃんの誕生日ケーキの試作をしよう。

 えーと、婆ちゃんはフルーツが好きなんだよな。

 昔、婆ちゃんがカタエレリエラに刺草麻を買い付けに行った時に食べた果物が美味しかったって、話をしてくれたことがある。


 よくよく聞いてみたら、どうやら無花果いちじくだったんだよね。

 カタエレリエラのものはセラフィラントのものより大粒で、甘味が強いらしいんだよ。

 残念ながらそれは調達ができなかったので、第一候補だった無花果タルトは諦めた。


 だけど、ガイエスが見つけてくれたリバレーラの橙杏とうあんがあるのだ。

 それを使った、完熟アプリコットの『ぷるぷるケーキ』にしようと思っているのですよ。


 セルクルの中に、土台となるしっとりタイプのスポンジ。

 これには、甘めのジャムを緩めに溶いたシロップを染み込ませて、さっぱり目のパンナを載せる。


 そして、薄めのスポンジを載せたら今度は酸味のあるジャムを薄く塗りまして、甘く煮込んだアプリコットを並べていく。

 その上から杏仁豆腐のチャンク、杏仁ジュレのチャンクを載せたら少しずつ魔法で固めながらゼリーで形を整えましょう……


 でーきたっと。

 父さんと母さんに試食してもらおうとお皿に出したら、ふたり共揃って皿を持ち上げて『ぷるぷる』加減を目で見て楽しんでいた。

 味を見てください、味を。


「あら、だって絶対美味しいもの。まずは食べる前に、見て楽しまないと」

「そーだな。うんうん、香りもいいなぁ」


 ふたり共、楽しみ方にバリエーションが出てきた……グルメレポーターのライリクスさんみたいだ。

 でもその後食べ始めたら、無言でソッコー食べきってしまったので、やはり安定の食いしん坊夫婦だった。

 流石、俺の父さんと母さんだぜ。

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