第720話 遊文館地下ツアー
「おはようございます!」
朝の元気なご挨拶から、本日の遊文館秘密プラントツアーは開始でございますよ!
テルウェスト神司祭を筆頭に、神官さん達も神務士トリオもやる気満々の笑顔です。
皆さん、しっかりと朝食はお召し上がりですね?
魔力チャージ、大丈夫ですね?
……なんだか、修学旅行の引率みたいだな。
似たようなものか?
いや、社会科見学だな。
「では、皆さん、この移動の方陣鋼を……えっと、アトネストさんはガルーレン神官と、シュレミスさんはアルフアス神官、レトリノさんはラトリエンス神官と手を繋いでいただいていいですか?」
皆さんが大きく頷いてくださったので、手を繋いだ神務士トリオに魔力の補助的に水晶の徽章を付ける。
俺の魔力がみっちり入っているから、神務士トリオの魔力は全く使わずに移動できるはず。
アーメルサスからの緊急避難用にウァラク衛兵隊に渡した、乳幼児でも魔力なしで動ける『移動の方陣』なんだけど、大人の体軀に耐えられるようにしたんだが魔力千五百以下はやっぱり不安なんだよね。
「タクト様、方陣の起動は……?」
「いいえ、皆さんが起動しなくて平気です。今回の移動は、石板使用で一括起動による移動をします。ちょっと特殊な場所なので、個別には入れないのですよ」
遊文館内の魔法での移動は、必ず俺が介入しないと動けないんですよねー。
ここは移動に関してガチガチに制限しちゃっているから、地下であっても簡単に移動できない。
もしできるとしたら……とんでもない魔力が必要になっちゃうか、飛んだ途端に昏倒するか、だな。
境域結界レベルだから、俺の『許可』が石板で指示されているんだよね。
「では、参りますっ!」
皆様ー、目を開けてくださーい。
てか、どうして目を瞑ったのですか皆様。
「……ここは、屋上……ですか?」
目を開きキョロキョロと見回すテルウェスト神司祭が、不思議そうに問いかけてくる。
「いいえ、ここは地下……大体三階くらいの深さですね」
天井高めにしているから、実際には地下三階半くらいかな?
「地下なのに、なぜこんなにも光が暖かいのです? まるで、天光の光のように……」
「これは俺の加護神である賢神一位の加護だと思うんですけど、俺は『光』に『特定の性質』を持たせることができるんですよ」
ガルーレン神官が疑問に思うのも尤もで、周囲を明るくする【採光魔法】とか【閃光魔法】だと明るくはなるが『熱』は発生しない。
いや、厳密には発生しているのかもしれないが、LEDライトや発光ダイオードみたいに『感じない程度』なのだろう。
自覚できる熱が感じられるのは【雷光魔法】などのエネルギー値が高く一瞬だけ光るものか、炎系の『炎焼』するような魔法だけだ。
「なるほど……神聖魔法、ですね。天光の再現ができる魔法なのですか……」
「完全再現ではありませんよ、ラトリエンス神官。一部の恩恵を分けていただける……ということですね」
これは俺が『光りは粒子であり波である』と『知っている』からできるという、あの殲滅光と同じ要領で『熱』を付与しているということに近い。
いや、知っているってより、そうだと理解してることを信じてるってことかもしれない。
俺に見えている光の粒の循環と振動が、あちらの世界の物理的な光子と一致しているとは限らないもんな。
科学は決して万能ではなく、人はその全てが解明できてはいないのにそうであると信じている……というのは、俺としては信仰に近しいものでもあると思っている。
「ここここここれはっ! 甘藍でございますかっ!」
「はい、ミオトレールス神官。こういう入れ物でも甘藍とか黄花清白は作れるのですよ。ただ、やはり環境を整えるのが必要ですから、それぞれの作物に合わせて魔法で調節しているのです」
ミオトレールス神官は、プランター栽培に興味津々のご様子だ。
シュレミスさん、ヨシュルス神官と一緒になってぺったりと見学通路の硝子に張り付いている。
他の方々もそこまでではないが、プランターのキャベツやルッコラに釘付けである。
植物プラントに、そのまま外部から人を入れたりはしない。
これらは、次代様達の学習サミット時に対応するために用意したものだ。
ちゃーんと、見学用に通路を造って実際の作物には触れられないようにしてある。
昔、某ビール工場を見学した時の順路などを参考にしてみました。
真横からじゃなく、ちょっと上から見下ろす感じね。
「広い、ですね……」
「遊文館の全体の大きさとほぼ同じ広さですから、畑にすると……中規模くらいですかね?」
「元々、地下にこの畑をお作りになるおつもりだったのですか?」
「そうですねー。ここなら季節も大雨も大雪も関係なく、俺の魔法で安定して野菜や茸が作れますから。遊文館の自販機と保存食は、災害時も切らしたくありませんしね」
ラトリエンス神官とテルウェスト神司祭は、広さと栽培している種類に驚いていらっしゃるようだ。
まぁ……ここまで大きくするつもりは当初はなかったのですけどね。
でもさー、折角広ーく地下を造れるんだし……野菜はいくらでも使うから、欲が出ちゃったんだよねぇ。
さてさて、では野菜プラントからちょこっと移動しまして、階段を少しばかり下りたところにございます茸部屋もご案内ー。
こちらも当然遊文館の地下に移設した時に、硝子張りにして見学用回廊も造りましたからマスクなどは不要です。
マスクしてくださいって渡したら、神具になるから賢魔器具統括管理省院に登録しろって言われそうだもん。
使うアイテムを少なくするには、見学路を作った方が早かったのだ。
皆さん、口が開きっぱなしですが喉渇きませんかね、そのままだと。
「どうして、明るさが違うのですか? 茸も天光が必要でしょう?」
「茸は野菜ではありませんし、生育条件が全く違うのですよ。確かにある程度の天光も必要ですが、温度、湿度の条件が全然違いますから個別に管理しないと……」
「「「野菜じゃないんですかっ?」」」
ヒューエルテ神官、アルフアス神官、ガルーレン神官の声が揃った。
厳密には茸は『菌類』であって、畑で栽培できる野菜のように草本性ではない。
そして食べているのは『実』ではないし『茎』や『葉』でもなく、子実体という土中の菌糸から飛び出した部分のこと。
本体は、土の中の菌糸なのだ。
ざっくり言うと『畑で作れる草由来のもの』が野菜。
森や林で採れる茸や山菜は、俺は『特用林産物』と教えられたので別物という認識なのだ……と説明した。
ま、野菜みたいに食べるしスーパーでは野菜コーナーに置かれているから、野菜という括りでもいいのかもしれないが。
だけど、俺としては生でも食べられる草本性植物が野菜、火を通さないと危険な菌類が茸なので野菜とは言い難いとは思っている。
菌類を植物とは言えないので、茸は野菜ではない……という判断なのだ。
「な、なるほど……そのような成り立ちの違いがあるのですか」
「そういった学問もあるのですか?」
「ええ、植物学とか菌類の学問は専門的になってしまうと相当難しいので、俺も本当に初歩しか知りませんけど。そのうち、俺の解る範囲のものは本にしたいですね」
子供達だけでなく、こういう研究も進めて欲しいから大人達にも読んでもらえる本にしたい。
だが、菌類の特性があちらの世界とかーなり違うものも多いし、あの粘菌くんのような事例もあるから日本の本をそのまま翻訳するだけでは駄目なのだ。
その本を参考にして、見つけられた菌を実際に検証しなくてはならないから……なかなか大変だと思う。
どういう感じのものがどの辺にいるよ、くらいの情報なら出せるかなぁ。
俺としては食べられる茸類の研究と鑑定が広まってくれれば、それが一番なんだけどね。
てか、むしろそれだけでもいいくらいなんだが。
顕微鏡はちゃんと作って……【顕微魔法】がなくても観察ができるアイテムは提供したいと思っている。
では、お次は……まだ表に出せていない本のストックルーム。
こちらも『移動の方陣』でないと入れない場所ですよ。
はーい、また手を繋いでくださいねー!
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『アカツキ』爽籟に舞う編・36▷三十二歳 繊月二十日 - 朝食後とリンクしております
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