第十二章 むすんでひらいて
第658話 聖教会認定日
この日は、シュリィイーレにとって記念すべき日だ。
『第二位・聖シュリィイーレ教会』
その正式な階位が示され、複数の神司祭様所属である皇国における町教会の最高位と改めて発表がされたのだ。
だが、改装後主神像が設置されれば『第一位同等』となるので、聖神司祭様常駐ということもあり実質『第一位聖教会』と認められたことになる。
ま、王都中央聖教会に気遣ってか『表向きは第二位』だけどね。
衛兵隊員達の手により朝早くから町中の各所に触書が貼られ、教会前では三椏紙になんと金文字で題字の書かれた触書と同じものが無料で配られる。
勿論、最初の一枚は俺が書かせてもらった。
それを衛兵隊員で【複写魔法】持ちの方々が、ガンガンにコピーしてくださったものである。
……昔も、羊皮紙に俺の書いた銃の絵(?)が配られた黒歴史を思いだしたが、今回は自信たっぷりの『
新しく教会前に掲げられる『聖シュリィイーレ教会』の表札も、書かせてもらえることになっているのだ。
俺としては、最高の幕開けである。
そのチラシを手にしたうちの常連さん達は、教会と司祭様の昇位を心から祝福し、俺が書いた文字を喜んでくれている。
なんともありがたいことだ。
うちにはオリジナルが、既に額縁に入って壁に掛けてある。
母さんがノリノリで、かなり目立つ場所に飾ってくれたのだ。
「まぁま! タクトの文字だねぇ!」
「金文字とは……素晴らしい。こりゃ、うちでも飾っておきたいのぅ」
「額縁は、シュレデリットの店で作っていたよな。そこに行けば、いいのが買えそうだ」
シュレデリットさんは、昔うちの隣に住んでいたイルレッテさんの息子さんである。
彫金師であり木工師でもあるので、一点ものの額縁のオーダーメイドをしている。
様々な種類の木製フレームだけでなく、金属フレームも作っている多才な人だ。
昔は王都で仕事をしていたので、絵画のコンクールなどに出品された受賞作のフレームを作ったりもしていたらしい。
第一回絵本コンクール受賞作の展示用額縁も、シュレデリットさんに作ってもらったのだ。
勿論、第二回の分もお願い済みである。
もうすぐふたり目のお子さんも生まれる、イルレッテさん自慢の息子さんなのだ。
今日は教会でも式典続きで大変だろう。
リンディエン神司祭とレイエルス神司祭もいらっしゃっているし、神務士トリオは緊張してカチコチかもしれない。
ビィクティアムさん達衛兵隊も、警備とサポートで大忙しだ。
身分を隠している適性年齢前の民間輔祭は、なるべく皆様のお邪魔にならないように今日は外出しないでおうちの手伝いをしていることに決めたのだ。
だってね、なんだかんだ言っても、俺ってうっかり結構な身分な訳ですから、衛兵隊のみんなが方々で見守ってくれたりしている訳ですよ。
こんな大変な日に『要警護者』である俺までチョロチョロしていると、何人かの衛兵さん達のお手を煩わせてしまうのです。
……これが終わったら、どうせまた振り回すことになりそうだからね。
今日は食堂に交代で来て、俺の居場所確認だけしててくださいよってことで。
そこへガイエスがやってきた。
うーむ、うちは事前にはランチメニューのお知らせを出していないのに、卵の時は必ず来る……凄い嗅覚だな。
今日は『腕白カツ丼ランチ』なのだ。
イノブタカツは勿論、なんとチキンカツも載っちゃっている。
ちょっとだけ小さめにしてあるのだが、黄身の味が濃い黒鶏の卵とじで二種のお肉を楽しんでもらえる。
保存食だと一種ずつだし、卵も黒鶏は使えないからね。
聖教会昇位おめでとうの大奮発赤字メニューだ。
水菜と玉葱、そして甘藍のサラダに使っているドレッシングは、マヨネーズベースでちょっと枸櫞が入っているから酸味が強めだ。
ほんの少し入れている山葵が好評、我が食堂で一番人気のオリジナルドレッシングである。
商人組合にレシピ登録しているから、今年から自販機で夏場だけ売ろうと思っている。
「……今はまだ買えないのか?」
ガイエスは随分気に入ってくれたみたいだ。
「ごめん、まだ容器ができあがっていないんだよ。来月終わりにはできると思うよ。あ、卵黄垂れだけはもう今年の卵で新しいものができたから、用意できるぞ」
イイ感じのが思いついてはいるのだが、硝子職人さんに作ってもらうとなるとちょっと作りづらい形状で……レンドルクスさんに相談中なのだ。
自販機に入れたいから、制約がいろいろあってね。
「二瓶、いや、三瓶買えるか? ベルレアードさんとタルァナストさんにも渡したい」
「了ー解っ!」
知り合いや大家さんに『お土産』か。
ガイエスが『地元』の人達といい関係を築けているってことだな。
よきよき。
おや、ガイエスもチラシを貰ったみたいだな。
アトネストさんがずっと居るってことは知っているのかな?
「あ? ああ、アトネストから聞いた。よかったよ……あいつ、この町が好きみたいだったから」
本当にね、シュリィイーレを好きになってもらえてよかったよ。
どうしてもマントリエルに戻りたいって言われていたら、手続きすっげー大変だったと思う。
その時は、責任取らせるつもりでセインさんにゴリ押ししようって思っていたのは、多分俺だけではあるまい。
「で? おまえはいつまでシュリィイーレに居られそう?」
「……予定通り、明日発とうとは思っているんだけど……カバロをどうしようかと思ってなぁ」
「他国に行く予定なのか?」
「うーん……他国……と言えば、他国なんだけど……」
あ、衛兵達が聞き耳を立てているから、言いづらいのかもしれない。
俺は、ちょっと混んできたからあっちで話そう、とガイエスを小会議室の方へと引っ張って行った。
なんだろう、もの凄く嫌な予感がする。
こういうの……変に当たるんだよなぁ……
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『緑炎の方陣魔剣士・続』肆第1話とリンクしています。
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