第456話 簡易料理魔具の試用結果

 今頃はウァラクで『救出大作戦』が展開中なのであろうが、俺の方はいたって平和である。

 今日のランチはシシ肉で、葱をたっくさん使った辛味ソースが美味しい逸品。

 なので、スイーツは甘さ重視にしたいところだが、甘いより冷たい……がいいかな?


 どぉしよおかなぁーなんて考えながら、ランチタイムを手伝っていたらビィクティアムさんがやってきた。

 はいはい、VIPルームへどうぞー。

 あ、そうだ。

『レシピ&簡単クッキングセット』を見てもらおう。

 父さんに使ってもらったデータも一緒に。


 俺は工房にいる父さんに、今朝作ってくれた料理をビィクティアムさんに食べてもらっていいか確認した。

 今日の朝食は、簡易調理魔具で父さんが作ってくれたものだったのだ。

 結構美味しかったんだよなー。


「何っ? ビィクティアムに……か?」

「凄く美味しかったしさ。あの『簡易調理魔具』の説明にもいいかと思うんだよね」

 やっぱり……嫌かな?


「なら、今もう一度作ってやる! 熱々のを食わせてやらにゃ」

 ……やる気満々でした。

 父さん、料理に目覚めちゃったかな?

 ニヤリと笑って、早速二階の台所へと駆け上がっていく。


 俺は応接室へ。

 本日は特別メニューですとお伝えする。

 料理人は……まだ秘密だ。


「特別?」

「勿論、本日の昼食もお出しいたしますが、試していただきたい料理があるのですよ」

「それは楽しみだな」


 母さんか俺が作る新メニューだと思っているはず……だがしかし、今回は予想を覆す『お試し』企画。


「おう、待たせたか?」

「……!」

 あ、運んできたのが父さんってだけで、吃驚されてしまった。

 種明かしをしたらどんな顔をしてくれるだろうか……わくわくっ!


「こちらが本日の通常献立『焼きシシ肉の辛味ダレかけ』で、こっちが特別献立『鶏と赤茄子の香草蒸し焼き』です」


 ビィクティアムさんが大好きなシシ肉焼きは、辛味ダレに葱味噌を使っているので旨味と黄色属性アップ。

 鶏肉と赤茄子を蒸したものは香草で緑属性が上がってて、ビィクティアムさんと同じ加護神の父さんの魔法が入っているから蒼のキラキラが出ている。


 味覚的に好きなシシ肉プラス魔力的に必要属性を満たした料理、そして加護属性の方を美味しいと感じ易いという傾向がある料理……どちらをより美味しいと感じるかっていう実験にもなる。


「うん、シシ肉の方はいつも通り旨い」

 ビィクティアムさん、本当に美味しい時の笑顔だ。

 父さんが、めっちゃどきどきしているのが解る。


「……うん、こっちも旨い! 香りがよくて、いくらでも入る」

 おーっ!

 父さん、思いっきり破顔したぞ。

 相好が崩れまくりである。


「この鶏の料理、保存食にして欲しいな。父上も好きそうだ」

 これは、最大の賛辞では?

 おおおっと、父さんがとてつもないドヤ顔だ。


 それではここでネタばらし。

「実は……その鶏料理の方は、父さんが作ったんですよ」

 ビィクティアムさんが無言で固まった。

 油の切れかかったロボットみたいに、ゆっくりと首だけ回して俺と父さんを見上げる。


「は……?」

「はっはっはーっ! どうだ、ビィクティアム! 旨かっただろうっ!」

「ほ、本当に……?」


 俺に向かって、何が起きたか解らないといった表情で聞いてくるので、思わず笑ってしまいながら頷く。


 「……先生が料理をなさるとは……」

 ん?

 ビィクティアムさんの呟きは、父さんの笑い声ですぐにかき消された。


「タクトが作った『簡易料理魔具』を使って作ったんだよ!」

「簡易……あ、前に少し言っていた『料理の手本帳』と一緒に……っていう魔具か?」

「材料と簡単な手順だけを書いた小冊子の通りに、俺が作った『簡易料理魔具』を使って調理してもらったんです。実際に食べて味を覚えて、必要な材料を揃えてからこの道具を使って仕上げてもらったんですよ」


 ビィクティアムさんは、あんぐりと口を開けたままだ。

 そんなに驚いていただけるとは……

 まぁ、父さんはもともと母さんと俺の料理を毎日食べていて、食材の記憶がしっかりしていたからね。

 調味料もうちには全て揃っているから、同じ味に辿り着きやすかったんだとは思う。


「それにしたって……全く料理など、なさったことはなかったでしょうに……」

「この『簡易調理魔具』を使ってもらえたら、マリティエラさんだって特定の料理であれば作れるようになりますよ」

「そんな奇蹟が起こせるのかっ!」


 ビィクティアムさんが、本日一番の驚きよう……

 ……奇蹟ミラクル、なのか。

 マリティエラさんの料理って。


「面白いぞー。何度も同じ物を作っていると、その内魔具がなくてもその料理だけならある程度ちゃんと作れるようになれる。味はやっぱり、魔具を使った方がいいけどなぁ」

「え? そんなに試したの? 父さん」

「五回ほど魔具で作った後に、魔具なしでやってみたんだよ。最初はわかんなくなっちまって途中から魔具を着けたりしたが、今朝のは……魔具なしで作ったやつだ」


 えええーーっ?

 美味しかったよ、あれっ!

 そうか、それで作り直すなんて言ったのか……

 普通に父さんの料理スキルが上がったってことだな!

 流石父さんだなー。


「で、父さんって、ビィクティアムさんのなんの『先生』だったの?」


 多分、これは爆弾発言。

 ふたりの動きが止まって、表情が硬くなったのがその証拠ですな。

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