第336話 視界共有

【文字魔法】で『俺の見たものと同じものを共有』っていう魔法を、メイリーンさんにかけることはできると思う。

 だが、できる限り『人』には、魔法をかけたくないのだ。

 ……まぁ、今更っちゃ、今更なんだけど……

 物品を介する加護や、治癒とか以外のことには抵抗がある。

 俺の気分の問題なのだが。


 となると、やはり道具を作る方がいい。

 当然、必要なのは『顕微鏡』だよな。

 魔法があって『できる人』が調薬などをしているから、そういう『魔法を使えない人が必要な道具』がないんだよな。

 俺だって【顕微魔法】があれば、要らないって思うもん。

 だけど『肉眼で見えない世界』を見たことがないから、知らないから分析が進まないってこともあるはずだ。


 普通の顕微鏡でもクルクリンは見えるのかもしれないけれど、俺が知っているのは小学生の理科実験レベルの物だけだ。

 より詳細に、鮮明に……ということならば、やはり電子顕微鏡クラスでなくてはダメなんじゃないだろうか。


 電子顕微鏡という物があることを知ってはいても、それに触ったこともない俺にはそのものを出すことはできない。

 作りも理解できていないから、【文字魔法】であっても作れない。


 電子顕微鏡は複雑すぎて、構造が全然公開されていなくって解らなかったんだよなぁ。

 まぁ、そりゃそうだよな。

 独自技術や特許が満載だもん。


 ならば、【文字魔法】とその他の魔法も駆使して『魔道具として』顕微鏡を作ればいいのではないか?


 試しに魔道具としての顕微鏡を作ってみる。

 複雑な構造が解らなくても、【文字魔法】で倍率を指定すれば……

 見えるけど、どれがどれかイマイチよく解らん。

 そもそも、タンパク質ってものの知識がないと分析も時間がかかりそうだ。


 ここから気長に分析しつつ施行していけば判明するのだが、そんな悠長なことしてたらメイリーンさんが倒れるかもしれん。

 やり出すととことん没頭するのは研究者としては頼もしいのだろうが、俺が心配だからダメ。

 今だって、会う度にお疲れモードなんだから。


 この顕微鏡では、覗いたものが見えるのは魔法を発動させている人だけ。

 その起動と維持には、見ている人の魔力を使い続ける。

 研究室で彼女ひとりの時に魔力切れでぶっ倒れられたりしたら、俺、もうやめろって言っちゃいそうだもん。

 そんな非道いこと、言いたくない。


 ……クリクリンに色をつけて、他と区別すればすぐに判るかな。

 あ、タンパク質そのものに色をつけると、加工を加えたことになっちゃうか?

 そうすると『色をつけていないクルクリン』とは違うものとして認識してしまって、メイリーンさんの魔法での分析ができなくなっちゃう?


【調薬魔法】は『見て』調薬する魔法ではない。

 認識し記憶しているものを分けたり調合したりする魔法で、見ながらやるわけではない。

 その認識が形なのか、なんなのかが解らなければ、色つけを含めて加工は一切しない方がいい。


 俺が採りだしたものだけを見せる?

 単体で見せて記憶できたら、どこにあっても取り出せるのかな?

 どういう状態で存在しているか、ってのが解らなくても平気なのかな?

 うーむ……自分の魔法じゃないから、検証ができない。


 やっぱ、俺が見たものを説明しながら共有できるのが一番早いか?

 でも一応、この魔法顕微鏡で大丈夫かもしれないから、これはこれで試してもらおう。



 もうひとつ、視界共有という方でも道具を作っておこう。

【文字魔法】でも、俺の視界そのものを加工する魔法はかけられない。

 そして、俺が視ているものと『まったく同じに見えるように』出力できなければいけない。


 試しに俺は録画機を取りだし【顕微魔法】で視たものを録画させてみた。

 ……だめだ。

 全然、記録できていない。

『いろいろなもの』が映り込んでたり、真っ黒になったり、真っ白になったり。


 そっか、目で見たものは、一度脳内に入ってから知覚される。

 脳は『見る』事に特化しているわけではないから、余分な情報が入ってしまうんだ。

 そして、きっと『主観』が混ざる。

 では『俺の網膜に映ったものを投影』……あ、ダメ。

 今、見ている全部が映る。

 しかも目を閉じたら真っ暗になるだけ。

【顕微魔法】で視てるのは、俺の『目』じゃないのかも。


 なら、別の『目』を……遠見の魔眼みたいに、青い石で『目』を作って、それに『俺の【顕微魔法】が知覚したもの』を転送したら……?

 魔眼で石から情報を得るのではなく、俺の知覚したものをその石を通して転送する装置を作る。

 まずはそれが可能かやってみよう。


 俺はいくつかの青い石で試してみるが、顕微状態の視界を転送……まではなんとかできるのだが……画像が不鮮明な上に小さい。

 ルリーゴの実のサイズのままなのである。


 これじゃ全然、なんだか解らない。

 くっそー、カルティオラ神司祭みたいな『拡大投影』の魔眼だったら見せてあげられたのになぁ。

 いや【顕微魔法】と一緒には使えないか。


 俺の神眼で『真実の姿』を【顕微魔法】を使って視る。

 それを映し出す……うん、さっきよりはクリアにはなったけど、まだ小さい。

 石の大きさに比例するのかと思い、大きな石にしてみたがあまり良い効果は得られない。


 使っているのはサファイアだが、俺の瞳の色と完全に同じとは言い難い。

 この間見つけたタンザナイトも『青灰色』で、少し色が暗い。

 でもそんなに都合よく、同じ色の石なんかないし。

 ……ないなら、作るか。


 そうだ、コバルトがあるんだから、青硝子にしてみよう。

 ケイ酸コバルトだったよな、確か。

 含有量を変えていけば……うん、透明度と発色を保ちながら、俺の瞳の色に限りなく近い物ができる。


 投影を試してみると、確かに若干は大きくなったが、やはりこれでは『どれ』がお目当てのものか解らない。

 俺が魔法で指定して別の色に見えるようにしても、全く……『点』にしか見えないくらいだ。

 しかも、画像が安定しない。

『硝子』では魔法の保持力が足りないのだ。


 以前の監視カメラでは、画像を安定させて録画するために……磁石を使ったよな?

 磁力がある石で、加護を支えるようにこの魔法を『支える』ことができないか?

 試しに青硝子プレートに磁石をプレート上にしたものを重ね、映像を送ってみる。


 おおっ!

 クリアでぶれないし、歪まないぞ!

 磁性体、すげぇ!


 ぱんっ!


 え?

「割れた……」


 磁力が弱くて、大きな魔力を使う顕微と神斎術の映像を支えきれなかったんだ。

 神斎術で作ったものであっても、元々の保持力アップは無理なのか。

【顕微魔法】は独自魔法で、かなり魔力の使用量が大きいからなぁ。

 しかも、神眼も使っているから、魔力量は相当のはずだ。

 でも、一番強い緋色金は磁性体ではないし、これ以上強い磁力のものなんて……


 ある。

 作れる。

 そうだよ、この間、ガイエスにもらったあの『レアアースの塊』の中にあったじゃないか!

 ネオジムが!

 永久磁石の内で最も強力な『ネオジム磁石』なら、映像を安定させた上に石より金属である鉄の合金なら魔力の支えとしても強いはず!



 結果、大成功である。

 ネオジム磁石は青硝子を支え、魔力をより強く循環させて映像の鮮明化と安定をもたらした。

 良し、次は『拡大』だな。


 これも、『顕微』状態の俺自身に魔法をかけることはできない。

『視界そのもの』を大きくはできないのだ。

『視て』から『映像にしたもの』を拡大するしかない。

 だが……スクリーンに映すように拡大するのでなく、メイリーンさんに『情報として視せる』のだ。


 なにか投影したら、壁や布などの情報まで『見せて』しまうことになる。

 それでは駄目だ。

 正しい分析には『ルリーゴだけ』を見せなくてはいけない。

 電子顕微鏡を覗いた時のように、それ以外は見えてはいけないのだ。

 もしかしたら、ここまでしなくても大丈夫かもしれないが精度は高い方がいい。


 理想は目を瞑ったメイリーンさんの脳内、若しくは網膜に、青硝子に送った情報を送ることだ。

 それも、ある程度拡大してから。

【文字魔法】で拡大の指示をしてみたけど、やっぱり倍率の調整をいちいち書き直さなくてはいけなくなる。

 これでは効率が悪すぎる。


 拡大……望遠……レンズ……高性能な、望遠レンズって蛍石だって聞いたことがあったな。

 蛍石って確か顕微鏡のレンズにも使われていたよな?

 持ってはいるけど、大きい物はなかったはず。

 よし、不純物を除去しつつ、再結晶化させて大きさを整えよう。

 これを拡大できる様にレンズ加工。


 おおっ!

 よしよし!

 青硝子を支えているネオジム磁石の裏側にこいつを貼り付けると、かなり大きく、歪み無く視界が映せた。


 そしてメイリーンさんの『目』に見せるためには、彼女の瞳の色の石を使う方がよりクリアに見えるはず。

 メイリーンさんの瞳の色、薄紫の色をつけたら彼女の『瞳』に映せる『人工魔眼擬き』になるのではないだろうか。


 失敗。

 映像にも全体に色が付いちゃった。

 余計になんだか解らなくなっちゃったよ。


 青硝子みたいに『冶金』で反応させて色を付ければ大丈夫かも。

 でも、蛍石と反応して紫になるなんて……あっ!


『蛍石は『希土類元素』を含むものに紫外線を照射すると紫の光を放つ』と、俺の持っている鉱物図鑑に記されている。

 希土類元素、そう、レアアースのことである。

 イットリウム、ランタンなどを合成すればいいのだ!


 不純物を全部取り除いてしまったから、解らなかったんだな。

 イットリウムを配合したあとに紫外線を当て、紫色がメイリーンさんの瞳の色に近くなった割合で『状態を固定』する。

【臨界魔法】便利。

 うん、映像はクリアなままでいい感じだ。


 ホントに、ありがとう、ガイエスくん!

 君から貰ったレアアースは大活躍だよ!

 今度、プラリネ五十個入りを送ってあげよう!

 リクエストも聞くよ!


 魔法顕微鏡と視界共有レンズ、どちらかは使えるのではないだろうか。

 このルリーゴの実を持って、明日にでもマリティエラさんの病院に行ってみよう!

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