第334話 初めての冒険者組合

 さてさて、本日は良いお天気で、錆山採掘日和でございます。

 この間、鉄はたんまり採ってきたものの、その他の銅やアルミ、鉛なども補充しておかねばならないのである。

 銅と鉛は父さん達に、俺は亜鉛とアルミとチタンを効率的に採取するのだ。


 身分証に使われている金属がないかなーと思って【探知魔法】でサーチしてみたところ、立ち入り禁止地区に反応が出た。

 ……デスヨネー。


 簡単に身分証と同じ物を作られちゃったら、偽造証ができちゃうもんなー。

 加工にはかなり特殊な魔法が使われているらしいので、貨幣と同じで絶対にできないのだろうとは思うけど。

 素材が出回るのも、確かに宜しくはなかろう。


「ガイハックのとタクトの靴ぁ、新しいものだなぁ」

 おっと、デルフィーさん、気付きましたか。

「へへへっ、いいだろぉ? こいつぁ滑らなくって、オマケに足が疲れなくって、すげーいいぞぅ」

「そうなんだー。こういう山道や、ちょっと滑りやすい地面でも歩きやすいように作ってもらった靴なんですよー」


 父さんとふたりで、ここぞとばかりにご自慢である。

 魔法では強化や、摩擦を強くするような効果の付与もできる。

 でも、靴自体がそもそもそういうものに強ければ、【付与魔法】をかけるともっと効果が高くなるのである。

 そして、快適さも格段に違う。


「俺もそろそろ新しいのが欲しいと思っていたんだ。こういうの、作ってもらおう」

「そうだな。『特化』したものってのは、なくってもどうにかなっちまうがあると便利だ」

 ルドラムさんもデルフィーさんも、森や山を歩くことが多いから『専用』があった方がいいと思う。


 エトーデルさんの靴は、そういう『特化型』の靴なのだ。

 普段履き、というより『専門職向け』……玄人用。

 うわ、一気に格好いいな!

 今は衛兵隊の靴作りで忙しいかもしれないけど、このふたりにはエトーデルさんを紹介しよう。


 その日の夕食、みんなで食堂に来た時に、たまたま食事に来ていたエトーデルさんを紹介した。


「う、嬉しいなぁ! タクトと、ガイハックさんに、作った靴は、つ、作るのが、楽しいんだ。石畳、以外の場所、歩くものは……楽しいんだ」

「おお、そうかい? じゃあ、頼むぜ! 山歩きと、沢……あとは石切場もよく行くからよ」

「俺も頼むよ! 俺は、森で狩りもするし岩場も歩くけど、あんまり濡れた所じゃなくって、固くてごつごつしてる所ばっかなんだ。今の靴だと、足の裏が痛くて」


 おお、エトーデルさんのやる気スイッチが入ったぞ!

 あ、でも、ここはごはんを食べる所だからね?

 お靴の話は、エトーデルさんちで、ね。


 夕食後、三人はいそいそとエトーデルさんの工房へ。

 ……絶対に、今日は徹夜しちゃうぞ、エトーデルさん……

 後でお菓子でも持っていってあげよう。

 半分くらいは、俺のせいだしね。



 そしてその翌日、教会経由で無事にガイエスがセレステで帰化できたという報せが届いた。

 どうやら、俺の推薦状はちゃんと仕事をしてくれたようだ。

 あれだけ恩着せがましく押しつけて、ダメでしたーってんじゃなくて本当によかったよ。


 さて、それならば『皇国の冒険者』への依頼であるのだから、冒険者組合にも連絡して一部の報酬を組合に預けておいた方がいいような気がするね。

 正直、直接送ってしまってもいいのだが、組合を通した方があいつの実績になるんじゃないかと思ったのだ。


 まぁ、菓子とか保存食なんかは直接送っちゃうんだけど。

 しかし、もし他国に行ったとしても入金されてるとかって解るのだろうか?


 俺は西門の冒険者組合に、初めて訪れた。

 ……うわー……寂れてるなぁ……

 ここの従業員って、ちゃんと給料を貰えているのかなぁ。


「あれ? お客さん? あ、タクトくんじゃん」

「こんにちは。指名依頼をしたんでその報告です」

 受付にいたは、うちの自販機常連客であるヤハウェスさんだった。

 冒険者組合の人だったのか……知らなかったぜ。


 俺がガイエスのことを話して、依頼を受諾してもらった契約書を見せるとヤハウェスさんが突然、だばだば涙を流し始めた。

 ええっ?

 なんでっ?


「ありがとーーーう! 金段一位の冒険者の帰化ってだけでもありがたいのに、継続依頼だなんて! しかも、一等位魔法師からの依頼で特別称号付きの指名……!」

「そ、そんなに泣くほどです?」

「泣くよっ! 誰だって! この国じゃ、冒険者はまっっっったくってほど、やりがいのあるような仕事がないし! てか、銀段二位以下しかいなかったし! 段位高い人達は、全員引退しちゃっていたからねっ!」


 ただの鉱石拾い、なんだけどなぁ……

 なんだか、申し訳ない気分になってきたぞ。


「俺、冒険者への依頼料とかよく解らないんですけど、俺のこの依頼だと相場はいくらくらいなんですか?」


 教えてもらったところによると、制約が多ければ多いほど依頼料は上がるらしい。

 指定した場所に指定した方法で行き、指定した仕事を指定した品質で行う……など、危険度は勿論だが、冒険者が自分の判断で選択できないことがどれくらいあるかによって、依頼料も必要になるのだそうだ。

 言われてみれば、そうだよな。


 俺の依頼はあまりに冒険者側の自由度が高いせいか、成功報酬という形になるので採ってきたものを買い取るという程度なのだそうだ。

 好きなところに行って好きなことしていいから、たまに鉱石送れ……だもんな。


 期限もないし、規定数量や品質の指定もないので、俺次第ってことらしい。

 そーか、冒険者に固定給制度はないもんなぁ。


「んー……じゃあ、鉱石は俺の手元に直接送られてくるので、毎月決まった日に査定額を組合に渡す……って感じがいいんですか?」

「いいのかい? そこまでしてもらっちゃって……本当ならうちで受け取ってからタクトくんに届けに行かないといけないんだけど」


 そんなことしてたら多分、何ヶ月もかかっちゃうよね。

 折角作った『転送の方陣』があるんだから、無駄な待ち時間は要らないだろう。

 まぁ、そんなものがあるとは言いませんけれどね。


「俺は早めに手元に欲しいから、直接送ってもらった方がいいし。あ、俺の査定で平気です? 一度こっちにも見せた方がいいのかな?」

「いや、タクトくんの査定なら、絶対に間違いないから平気! 僕達『鉱石鑑定』とか持ってないし!」


 本当ならそういう鑑定系の組合員が大勢いるらしいのだが、ここでは……ゼロである。

 仕事は『留守番』くらいのものらしく、ヤハウェスさんももうひとりの人も他に仕事を持っているのだとか。


 そして冒険者組合に入金すると当然実績となるだけでなく、組合で各個人の銀行口座のような物があり、どの国でも組合にさえ行けば預けている金額を知ることができるらしい。


 引き出すのも、皇国貨でなくてもいいのだとか。

 スゲェ組織なんだな、冒険者組合って。

 ……ここでは、こんなに寂れているけど。


「でも、直接本人に支払ったとしても役所に預けても、支払い証明書をこちらに出してくれれば、冒険者としての実績にはなるからね」

「そうなんですか。じゃあ、金額が少ない時はその方がいいのかな」

「そうだね。皇国貨の使える国では、役所に預ける方が手数料安いからその方が喜ぶかもしれないよ」


 皇国貨の使える国ってのは、基本的に『国交』のある国だもんな。

 役所での引き出しや、換金もできる訳だ。


 だけど、組合に両替手数料が入らない方法まで、教えちゃっていいのかな。

 在籍国では元々手数料はかからないし、他国の組合から引き出す手数料で儲かるのはその国だけだから構わないよ、とヤハウェスさんは笑う。


 なるほど、他国を儲けさせてやる義理はないということですな。

 じゃあ、現金の場合はあいつにどっちがいいか確認して支払いをしよう。


 勿論、物品を報酬として渡した場合でも『支払い証明』を出せば、実績になるらしい。

 ……でも、物品を送ったってのは『どーやって?』って思われちゃうだろうなぁ……

 その辺は……金額換算で支払い証明を出すか。

 だけど、発送も受け取りも馬車便なんかの記録がないからなー。


 直接会った時だけ……って、いつ来るんだか解んねーな。

 だいたい決まった額を『手間賃』的に振り込んで、物品代は会った時に受け取りましたってことにすっか。

 一年に一度くらいは来いって、連絡しておこう。


 冒険者組合って全世界共通組織なのかなと思ったが、どうもそういうこともないらしい。

 似たような組織はいくつかあるみたいだが、このシィリータヴェリル大陸では冒険者組合が一番大きいというだけのようだ。

 東の小大陸とか、西のオルフェルエル諸島の国々だと、別組織の方がメジャーなようである。


「大陸以外の場所にも冒険者はいるけど、連団じゃなければ冒険者組合である必要もないみたいでね。でも、冒険者組合を辞めちゃうと、組合に預けていた金は全部没収されちゃうし、もう一度入り直しても以前の段位は継げない。だから在籍だけはしてて、別組織の仕事ばかりしているって人も多いって聞くよ」


 競合組織と冒険者組合の仕事を、質とか金額とかで比べてどっちがいいかを決めるのかもなぁ。


『連団』ってのは、所謂『パーティ』とか『クラン』とかってやつですかね?

 よく解らんが、多分あいつは『ぼっち系』な気がするんだよな。

 ま、俺の依頼はダブルワークでも可能だから、どっちでもいいけど。


「冒険者組合の仕事をしなくても、冒険者の段位って変わらないの?」

「半年以上仕事を受けていないと下がることもある。一年以上だと確実に下がるし、五年以上何もないと『死んだ』ことにされるから、全部没収かな。仕事を受けていなかったとしても組合事務所に登録確認すれば、没収はないけど……段位はどんどん下がるね」


 ……いろいろあるんだなぁ。

 命の危険がある職業だから、小まめに『生存報告』をさせるためでもあるのだろうな。


「タクトくんが冒険者になったら……絶対に『金段一位』になれると思うけど」

「絶対、ならないよ」


 俺は文字魔法師カリグラファーなんですよ。

 ……それ系の仕事は……まだ、少ないけどね!

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