第319話 成果確認

「いやぁー、とんでもなく楽だったぜー」

「すげぇ軽くていいなぁ! 流石、いい魔法だよ、タクト!」

 デルフィーさんとルドラムさんから絶賛された『軽量化楽々背負子』は、大活躍であった。


「この竹細工ってのも、見た目は綺麗だし木工より水を吸わねぇのがいいな」

「これ、組み立てに鉄釘を使っていないんだな。これだと錆びた所から割れたりしないよな」

「釘もかすがいも全部、竹だけで作ってるからね。魔法で強化してるからできることだけど」


 探掘終わりにうちで夕食を食べながら、みんなで今日の成果を確認する。

 鉄を中心に採ってきたんだが、俺は勿論目に付いたあらゆる素材を集めていた。

 そして今回行った東側でなんと、タンザナイトを見つけたのだ。


 原石が赤茶色で知らない人が見たら全く魅力的には見えないが、俺の『貴石看破』にもの凄く反応があったので掘り返してみて初めて判ったのだ。

 これはあとで加熱処理すれば、めっちゃ綺麗な深い青から青紫の宝石になるのである。


 サファイアとは少し違う、多色性の輝きが美しい石なのだ。

 大きめのものでいくつか採れたので、いろいろ作れそうだぞ。

 今年のメイリーンさんへの誕生日プレゼントは、こいつで決まりかな!


 そして『背負子カモフラージュ改札』も大成功であった。

 手にするそばから鉄だけを抽出してガンガン背負子に入れ、半分くらいまで溜まった所で魔力を通して改札オープン。

 背負子の中は空になり、中身は全て地下四階の資材置き場へ。


 みんなが取った分も休憩の度に俺が、分解しちゃうからと預かって、いらない部分はその場でお山にお返しして、鉄だけを俺の背負子へ。


 そんなことを繰り返し、俺の背負子から地下四階に転送させた分だけで、セラフィラント行きの不銹鋼三回分くらいの鉄が積み上がっていた。

 なのでみんなが持ってきた採掘分の素材は、全て父さんの修理用に使ってもらえる。

 そちらも鉄だけを抽出済みなので、使わない部分は持って来ていないからいつもの三倍近い量を運んでこられた。


「今回はこの軽量化背負子で随分と楽に沢山運べたから、暫くは大丈夫だな」

 父さんも安心したようだ。

 在庫が少なくなると、いざという時に困るもんね。


「タクト、本当にこの背負子、もらっちまっていいのか?」

「うん、勿論だよ。うちでお願いする時には必ず使ってもらうんだし、他の仕事でも使えると思うから」

「ありがてぇな。今年は山開きが遅かったから、大量の運搬が多くてよ。夏場の探掘や荷運びにも汗をかきにくくて助かるし、冬場の街道修理でも石を運ぶ時に使わせてもらうぜ」


 デルフィーさんには、一年中使ってもらえそうだ。

 ルドラムさんも猟師組合の人からの狩った獣の荷運び依頼があるから、背負子は結構使うみたいなので有効活用してくれるだろう。


「そうだ、タクト、前に話していた青シシの肉、明日くらいに持ってくるってバルトークスさんが言ってたよ」

 やったーっ!

 美味しいと噂の青シシさん、お待ちしていましたよ!


「あの閃光仗、もの凄く良いよ。全然傷つけずに捕まえられるから、肉質がもの凄く良いらしい」

「そういや、革細工組合の連中が喜んでいたな。青シシの皮は、良い靴になるからな」


 へぇ……靴になるのか。

 父さんの靴は、どうやら青シシ製らしい。

 確かに長持ちだよな。

 新しい靴、そういえば買い忘れていたなぁ。

 是非ともその青シシ製、買ってみよう。



 そして俺達は早めの夕食を終え、俺はそのまま食堂の手伝いに入った。

 父さん達は地下一階の鉱物部屋で、今日採ってきたものを整理するらしい。

 俺は食堂が閉まってから不銹鋼作りだな、と思っていたところにビィクティアムさんがやってきた。


 最近はもう『英傑見物客』も全くいなくなったので、食堂で食べてもらえますが……食事ではないのかな?

「タクト、これをちょっと見てもらえるか? おまえが欲しがっていたものかどうか、確認したいんだが」


 ビィクティアムさんの手には、いくつかの種子。

 おっ、これはーーっ!


 待ちに待っていた、ヘーゼルナッツとピスタチオ!

「ええ! これです、これです! うわー嬉しい! 見つかったんですね」

「そうか、良かった。榛果はしばみかは、すぐにでも中箱で三箱だが入れられる。こっちの緑楷樹りょくかいじゅの種子が去年のものは、中箱で一箱だけしかない。今年の秋には、どちらも新しいものが手配できる」


「勿論、今あるだけで充分です! どちらも秋にならないと無理だと思っていたので、今の時期にあるのは嬉しいですよ!」

「もう一種の勾漆まがうるしの種は、もうすぐ収穫が終わる。それと一緒に運ばせるから。少し待っててくれ」

「はいっ!」


 やったーーーーっ!

 まだ外門工事が終わっていないのに、ご褒美を先にもらっちゃっていいのかなぁ。

 めっちゃ嬉しいけど!

 何、作ろうかなぁ!

 レシピ本、コレクションから買っておかなくっちゃ!


「ああ、次の不銹鋼は冬の前と同じ量を頼みたいのだが、大丈夫か?」

「今日、沢山材料を採ってきましたから大丈夫ですよ。増産でもするんですか?」

「匙と突き匙の生産を、本格的に始めるらしいからな。ああ、これをおまえに渡してくれと頼まれた」


 平べったい化粧箱に入っていたのは、ステンレス製のスプーンとフォークのセットだ。

 真っ青な天鵞絨ビロードのような布に映えて、もの凄い高級感!


「あ、セラフィラントの印章と、セレステの印章が付けられているんですね。綺麗だなぁ」

 型押しのようにレリーフのように、柄の部分に二つの印章が並んで刻印されている。

 そうそう、まさにこういう使い方を想定していたのですよ。

 同じ亀甲だから、統一感と一体感があって良いよね。


 自分の提供した物が形になって、こうして使われているのを改めて知ると本当に嬉しくなる。

 この仕事、やらせてもらえて本当によかったなぁ。

『成果確認』って、やっぱりモチベーション上がるよね。


 このセット、うちで使う分以外は額装して食堂に飾ろうっと!

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