第220話 飛行訓練とルビー探掘
海産物と醤油造りが一段落した頃、俺は気に掛かっていながら放置していた作業を始めることにした。
コレクションの中にしまい込んでいた、旧教会の隠し部屋から持ってきた『ゴミや埃』の入った袋の件である。
多分、ここには崩れてしまった羊皮紙が含まれている。
その羊皮紙と、そこに書かれている文字が復活できないか試すのである。
ここまで細かくバラバラになったものが、果たして復元できるものなのだろうか。
【顕微魔法】と【探知魔法】を使い、かつて羊皮紙であったものを取り出す。
そして【文字魔法】で指示を与え、羊皮紙の状態に戻してみる。
うーん……完全には戻らないか。
虫食い状態で、半分以上の面積が穴だらけのものもあるが、七枚分の用紙になった。
強化と文字色復活の魔法をかけると、浮かび上がってくる文字は全部赤く見える。
『前・古代文字』だ。
聖典の一部ではないかと思ったのだが、七枚のうち六枚はどうも日記というか、覚書っぽい。
形を留めていた五枚の聖典の一部と繋がるものはなく、残りの一枚には地図のようなものが書かれているみたいだ。
この図は一体何処の地図で、何を表しているものなんだろう?
考えても判らないものはとりあえず放置して、俺は形が元々残っていた一枚の方を先に片付けようと取り出した。
先ずは『外典』と呼ばれていた『聖典第一巻』である八枚の文書の合わせに使われていた記号と同じものが記された一枚を、記号の向きを揃えて八枚分の文書を転写していたものに上書きする。
思った通り、文が全て繋がった。
『朔月七の氷星から西の織星の下』
『森の水瓶にて紅の貴石に神力を満たせ』
『瓶の南より貴石を翳し導きの光を得ん』
『朔月七』……
『氷星』はシリウスみたいに明るい、北側に見える青い星だ。
青というか白っぽい青の星を総じてそう呼ぶのだが、一番輝くもののことをそう呼ぶことが多い。
その星の西側に見える『
これは基準地によって、赤い星がどれなのかが変わってしまいそうだ。
……旧教会かな?
あの池の隠し部屋が、基点かもしれない。
基点を態と書いていないのは、この文章だけで場所を特定させないためだろう。
だとすれば、ヒントが発見された場所が基点と考えるべきだ。
うーん……旧教会へは転移できるけど、その『織星の下』へはどうやって行けばいいんだ?
これは本格的に『飛行』することを、考えた方がいいのかもしれない。
星を目指して歩いても真っ直ぐ歩ける訳じゃないし、朝になったら方向を見失う。
日付が変わってしまったら、星の位置がずれてしまう。
まぁ、めちゃくちゃ昔のことだから、もしかしたら既にその『織星』自体がなくなっていたり、場所がずれている可能性もあるが。
探すべきは次の行の『森の水瓶』だろう。
『飛行』して上から見れば、多少ずれていたとしても見つけられるかもしれない。
この『紅の貴石』はどう考えてもルビーではないだろうか。
ルビーは『織星の欠片』と呼ばれている貴石でもある。
それに魔力を注ぐわけだ。
そして『森の水瓶』の南側に持っていけばどこかへの『導きの光』が現れる……と言うことかな?
これを……誰かに教えてやってもらうか、自分でやってみるかと問われればやはり自分でやってみたいと思うのだ。
好奇心には逆らえない。
教えた人が、危険な目にあわないとも限らないしね。
それにはやっぱり、飛べるようにならなくては話にならない。
朔月・七日まではあと十日ほどだ。
【重力魔法】と『空間操作』だけでなく【制御魔法】と『動体操作』も組み合わせれば『飛行』が可能なのではないだろうか?
皇宮屋上で試した時に、浮くことと動くことはできているのだ。
あとは速度を出すことと、それを制御すること。
取り敢えず高さを出さず、早く動けるようにしてみよう。
第一目標は地表から五センチくらいの高さに身体を浮かせ、地面を走るくらいの速度で空中移動できるようにする。
その日から俺は歩く動作の時は歩いている速さで、走る動作の時は走っている速度で空中を移動する訓練を始めた。
家の中でも食堂でも外でも常に少し浮いている状態で、身体がぶれたり上下に揺れたりしないように。
試行していて気付いたのだが、動いているより止まる方がかなり難しい。
摩擦に頼ることができないからか、勢いが付いていると突然ぴたっと止まることができないのだ。
こいつは、意外と筋力もいる。
だが、こうやって空中での身体の操作に慣れておけば【文字魔法】で飛行したとしても、制御が簡単にできるようになるはずだ。
ある程度、自在に動けるようになったのは三日後。
次の第二目標は、高さを出しても自在に動けるかの検証と訓練だ。
そして、ルビーを調達しなくてはならない。
その夜、父さん達も眠ってしまってから、俺は錆山の坑道内に転移した。
夜はこの坑道だけでなく、錆山全体に誰ひとり入れない。
碧の森から錆山までの道のりが危険であることと、何かあっても助けを呼べないという理由から入山禁止なのだ。
つまり、俺は今とっても悪いことをしているわけである。
しかし、昼間であっても、錆山の坑道にひとりで入る許可は出ない。
必ず三人以上で行動しなくてはいけないので、内緒の探掘はできないのだ。
今回のルビー堀りは極秘も極秘、国家機密クラスなので隠密行動なのである。
本当は適当なサイズの透明のコランダムに、クロムを混ぜ込んで作っちゃおうかとも思った。
クロムでコランダムは赤くなるのだが、クロムが入り込むと結晶の成長が妨げられるので大きなルビーは少ない。
多分大きさは込められる魔力量に関係するだろうから、大きい方が望ましいと思うのだ。
しかし、一度は採掘にチャレンジしてみるべきだと思ったのである。
この最奥、俺はまだ行ったことがないが『紅の部屋』と呼ばれる場所でルビーが採れる。
まずはそこまで行って、転移目標を書き込んでから【探知魔法】『貴石看破』を使いルビーを探す。
歩きながらもふたつの魔法を発動させ、鑑定をしながら奥へと進む。
暫く歩くと分かれ道があった。
【探知魔法】だと、右の道の奥にルビーの反応が高い。
俺は迷わず右へ進むと、地面が少し濡れている。
これは……歩きにくいから浮きながら行くか。
滑って転んでも怪我はしないが、痛いのは嫌だし。
この奥が『紅の部屋』だろうと思われる入口まで来たときに、横壁にやたらデカイ貴石の反応を見つけた。
ルビーかもしれない!
俺はその横壁を掘ってみた。
かなり大きいが、うーん……残念。
これはサファイアだ。
でもこのサファイアは、ロイヤルブルーに近い青だ。
これはこれで嬉しい。
ルビーとサファイアは、同じコランダムに違う不純物が混ざったものだ。
赤以外のコランダムは全てサファイアなのである。
あ、ピンクのもみっけ。
気を取り直して『紅の部屋』に入り、『貴石看破』『鉱物鑑定』そして【探知魔法】をフルで使う。
どんどん頭の中がクリアになっていって、周りの壁や床がまるで透明な硝子の様に透き通っていく感じだ。
みつけた。
左側の壁の上の方だ。
ほぼ天井に近い位置で、ハシゴがあっても掘りにくい場所。
飛行訓練をしておいて良かった。
浮き上がり、反応があった辺りを掘っていくと、八十センチほど掘ったところで赤い物が見えた。
そのまま注意して堀り進めると、思っていたより遙かに大きい原石を発見できた。
取り出したら、周りの石を使って埋め戻しておく。
いきなりこんな所に、ぼこっと穴が開いていたらおかしいもんな。
掘り出したものから余分な付着物を魔法ではぎ取り、ルビーだけを取り出す。
すっげ……
直径七センチはあるぞ。
これくらいのサイズの物であれば、魔力もかなり入れられるはずだ。
これで準備はできた。
あとは朔月・七日に探検開始だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます