第178話 追加報酬

 翌日、昼の仕込み最中に、ビィクティアムさんが食堂に訪ねて来た。

「今日は、赤シシの煮込みだと聞いてな」

 そういえば、ビィクティアムさんはシシ肉が大好きだったっけ。


「それにしても、ちょっと早いですよ。待っててもらえますか?」

 食堂内に座ってもらって、水だけを出す。

 うちでは、お水は無料なのだ。

「ああ、ついでにあの金属の話をしたかったんだ。いいか?」


 お、耐久審査結果が出ましたか!

「使えそうですか?」

「勿論だ。是非とも頼みたい」

 やった!

「では、胃袋と牛乳の定期納品を……」

「それなんだが……」


 ちょっとビィクティアムさんが視線を外して、困り顔になった。

 まさか、今さらダメとか言わないですよね?


「父が、それだけではセラフィラントに利があり過ぎると納得せんでな……牛乳以外にも欲しいものがないか聞いてこいと……何か、あるか?」

 予想もしていなかった、クライアントからの報酬上乗せ提案。

 ええー?

 別に俺は損どころか、めちゃくちゃ大儲けなんだけどなぁ。


「他……ですかぁ……」

 うーん……セラフィラントというと、海に面してるから魚……って言っても、シュリィイーレの人達は魚を食べ慣れてないから、人気がないんだよなぁ。

 俺は鯖とか鮭とか届いたりしたら、嬉しいんだけど。

 ゆくゆくは欲しいなーと思っているけど、今すぐには……


 あ、そうだ。

「じゃあ、やっぱり苺の苗ですかね」

「苺……か」

「ええ、最低でも三種類は、産地の違うものが欲しいんですよ。品種改良のために」

「去年よりは……時期が早いからなんとかなる……か?」


 そう、去年皇王陛下に頼んだ時期より一ヶ月半ほど早いし、セラフィラントにならあるんじゃないかと思うんだ。

 三種類……は、難しいかもしれないけど。


「まぁ、皇王陛下ですら用意できなかったものなので、ダメなら仕方ないですけど。その時は……そうだな、牡蠣を殻付きでお願いします。それも無理なら、大豆でいいですよ?」

「……ダメとも無理とも言ってないだろう? 用意させる」


 おっと、ビィクティアムさんがムキになったぞ。

 代替案を出すと大概それを全部用意するよね、プライド高い人達は。

 セラフィラント公も、きっとそうだと思うんだ。

 だから欲しいものを取りあえず全部、言ってみた。

 でも一番はやっぱり、苺なんだよなぁ。


「牛乳と胃袋を入れて持ってきてもらう容器はこちらで用意しますので、それで運んでください。苺の苗用の容器と牡蠣……も念のため容器をお渡ししますね」

「解った。必ず用意してやるからな!」

 なんか勝負事みたいになってきちゃったぞ。


「では、不銹鋼はどれくらいご用意致しましょうか?」

「まずは、お前が用意できるだけで構わん」

「それじゃ明日、容器類と不銹鋼を用意しておきますので、馬車を回してくださいね」

「いいだろう」


 もう、ビィクティアムさんも負けず嫌いだよなぁ。

 そうこうしているうちに、ランチタイムが始まった。

 赤シシ肉の煮込みをビィクティアムさんのテーブルに運ぶと小声で明日が楽しみだ、と言って来たので俺も期待してますよ、と返しておいた。



 翌日、不銹鋼を取りに来たと、屈強な衛兵さん達を何人か連れてビィクティアムさんが現れた。

 荷運び要員……そうか、確かに重いもんな、普通に持つと。

 俺が予め作っておいたステンレス鋼板とインゴットは各一トンずつ、合計二トン。

 だが、特製容器に入れているとあら不思議、重さは百分の一になるのです。


 実は輸送費は重さでかなり変わるので、その対策として考えていたのだ。

 用意された馬車に積み込む時や、運搬時の負担も大幅に減らすための特製容器。

 容器から出すと元の重さに戻るけど、容器に戻せばまた軽々と運べる。


「という仕様なので、この箱に入っていればたいして重くないから大丈夫ですよ」

「……また、お前はとんでもないもの作りやがって……」

 ビィクティアムさんに説明したら呆れられたけど、こういった細かい『大変』を軽減していくことで、より良い品質のものをより良い状態でしかもお安く運べるのです。

「で、こっちが持ってきていただくものを入れる容器です。まぁ、第一回目なので、これくらいで」


 全ての容器に軽量化対策をしてある上に、食品用なのでその他の機能もつけてある。

 牛乳用、牡蠣用、苗用も殺菌効果や温度管理機能付きで、蓋を閉めたら俺以外は開くことのできない仕様になっているから、運搬中に倒れたとしても中身が溢れることもない。


「解った。定期的に……ということだからな。何度かの往復になるだろう」

「はい。季節や牛が食べる牧草の状態で乳の味も変わりますから、何度かに分けていただきたいですね。あ、不銹鋼の容器もご返却くださいね。次のを運んでもらう時に使いますから」


 そして次回は、板とインゴットのどちらがいいかを聞いてきてもらうことにした。

 溶かしてもクロムなどの割合が変わらないように魔法で調整してあるけど、加工しやすい方がいいもんね。


 馬車は早速、セラフィラントに向けて旅立った。

 不銹鋼がセラフィラントに届くのはだいたい三、四日後、そこから牛乳などを調達してもらってシュリィイーレに戻って来るのは……どんなに早くても十二日後くらいかなぁ。

 でも、苺の苗を探してもらうなら、もう少し時間がかかるか。


 さーて、何が届くかなぁ!

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