第161話 とんでもない魔法
しばらくして、ビィクティアムさんからまた質問が飛んできた。
「次は魔法に関して聞きたい。構わないか?」
「正直、魔法については俺も解らないことの方が多いので、答えられるかどうか微妙ではありますけど」
「解る範囲でいい。おまえが黄魔法の常時発動を、どうやって克服したのかを教えてもらいたい」
んー、やっぱりそこだよねぇ……
「厳密にいえば……克服したというか、一時しのぎをしているというか……今までは楽譜を俺の持っていた紙に書いて魔法を発動していたのですが、水晶に書くようにしたのです」
「書く素材を変えたのか?」
「そうです。どの紙も殆ど魔力を保持できず、文字の色や文字の形でしか魔力を留めておけなくて、発動中に俺の魔力で補ってしまっていたんです。でも、錆山で採れる水晶は魔力との親和性がとても高く、強大な保持力と持続力がありました。そういう水晶を錬成して魔力を石自体に保持させ、それで音楽を展開しています」
うん、これは本当。
ただその元の魔力が、どこからの魔力かってのを言っていないだけ。
だって大気の組成とか、説明できないんだもん。
「そうか……水晶に……だから、伯母上の蓄音器も水晶で作ったのか……」
それは偶然なんだけど、そういうことにしておいていただけるならこれ幸い。
「錆山の水晶や鉱物には、元々高い魔力があります。つまり、それだけ魔力を維持できるんです。今、水晶よりもっと魔力が保持できるものがないかと金属も含めて実験しているんですよ」
この実験はあくまで趣味だけど、やっているのは事実。
「では、今は常時発動で取られている魔力はないのか?」
「……ありますね。俺自身にかけてる魔法とか、ありますからね」
「今の魔力を、見せてもらっても構わないか?」
「ええ、いいですよ。でも家名の隠蔽とか、したままでいいですか?」
「ああ。解くのは面倒だろうから、そのままでいい」
そう面倒でもないのだが、この注目されている中でコレクションから指示書を取り出すところを見られたくないんだよね。
俺は身分証を取り出し、ビィクティアムさん達が読めるような向きにしてから大きくした。
……あれ?
みんなの動きが止まったぞ。
父さんまで絶句しているけど……?
「なんか……おかしいですか?」
「ああ……最近、自分で見ていなかったのか?」
「そういえば、全然見てなかったですね」
そう言いつつ、自分が読めるように手元に寄せる。
は?
なんじゃこりゃっ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
名前 タクト/
年齢 25 男
在籍 シュリィイーレ 移動制限無
養父 ガイハック/鍛冶師
養母 ミアレッラ/店主
魔力 18371
【魔法師 一等位】
神聖魔法:光・特位
文字魔法・特位 付与魔法・特位
加工魔法・特位 耐性魔法・特位
強化魔法・特位 音響魔法・特位
【適性技能】
〈特位〉
鍛冶技能 金属鑑定 金属錬成
鉱石鑑定 鉱物錬成 石工技能
魔眼鑑定
〈第一位〉
陶工技能 土類鑑定 土類錬成
神詞判定
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なん……ですか? この魔力……?」
俺の言葉に、やっと皆さんがのろのろと動き出した。
「常時発動に使われていたものの大半が、使われなくなったからだろうな。今でもまだ常時発動があるというのなら、上皇陛下の仰有った通り総量だと二万以上はありそうだな……」
違うんですよ、これ、一割しか表記されていないはずなんですよ。
なのに五桁って!
つまり、十万越えってことでしょ?
それに……なんか、どー見てもあり得ないものが表記されているんですけどっ?
「なんでしょうか……【神聖魔法:光】って……兄上……?」
「セインドルクス、なんだ、これは?」
「知らん。私も初めて目にする……」
ライリクスさんとセインさんがお初ということは、絶対にヤバイものですよね。
ああ、ふたり共化け物のデータでも見るかのように、俺の身分証を見つめている……
これって、あの秘密部屋の極大魔法方陣のせいでは?
でも、あの方陣で解放されるのは『聖魔法』じゃなかったのかよ?
聖属性なら隠蔽工作しているはず……あれ?
……それも……読み間違えてる?
うわぁぁぁぁっ!
ドードエラスの読解力などを信じた俺が馬鹿だったーー!
あの部屋でちゃんと確認すればよかったーー!
つまり『神聖属性』というカテゴリーがある……ということなのだろう。
極大魔法のことだよなぁ、どう考えても。
「『神詞判定』っていうのもありますね……これは、どちらも原典の翻訳のせいでしょうか?」
「他に考えられないだろうな。タクト、どういう魔法や技能か解るか?」
「今、初めて見たんですよ? 解る訳ないじゃないですかぁ」
技能の方の『神詞判定』も見えちゃっているということは、これも極大魔法絡み。
もしかして、あの『前・古代文字』のせいだろうか?
セインさんが、まじまじと身分証を見ながら大きく息を吐いた。
「光、ということは賢神一位の加護魔法であることは間違いない。『神聖』となっているなら、神典や神話に載っている魔法のいずれかであろう」
「原典が原因だとしたら、神典の方が可能性ありそうですね」
ライリクスさんとセインさんはブツブツと何かを呟きながら、考えているようだが……ホント、ごめんなさい……
これほどの『やらかし』をしてしまっていたとは……
「タクトくん、原典の翻訳はどこまで進んでいるかね?」
「半分くらいまでですね……俺の部屋にあるんですけど、持って来ますか? この『境界』って出ても平気ですか?」
「ああ、タクト、まず身分証を元に戻せ。そうしたら一度、魔法を切る」
俺が身分証をしまって、ビィクティアムさんが魔法を終わらせると、ふっ、空気が緩み視界が開けた。
異空間の中に入っているみたいな【境界魔法】の結界は、外から中を見ることができないだけでなく、中からも外が見えないのだ。
この魔法は【制御魔法】の一種なのだろう。
ビクティアムさんが少し、肩で息をしているような気がする。
あの魔法は結構、魔力と体力を使うのだろうか。
俺は自分の部屋に戻り、コレクションを開こうとしたその時。
ちりりっ
ごく小さい痛みが走った。
え?
何処からか『視』られている?
視線の在処を探ると、どうやら窓の外だ。
だが、窓の外にはこの部屋が覗けるような場所はない。
木の枝などないし、空が見えるだけだ……空?
俺は窓を開けると、何羽かの鳥が飛んでいるのが見えた。
その一羽から『魔眼で視られている』視線を感じた。
鳥の目まで、魔眼で利用できるのか!
もしかしたらそいつは、鳥の行動自体も操れるのではないのか?
俺は鎧戸を閉め、部屋に決して外からは見えないように魔法を付与する。
ただあのくらいの痛みからすると、俺が標的というわけでもなさそうだ。
だとすれば、ビィクティアムさんかセインさん……
俺は改めてあの三人の身分証の『過保護な防御魔法セット』を【付与魔法】ではなく、意識的に【守護魔法】として発動した。
そうだ、父さんと母さんのものもそうしておこう。
俺のせいで、巻き込まれないとも限らない。
それにしてもあの視線は誰の、何が、視たいのだろう。
このことは、あとで【境界魔法】の中で聞いてみよう。
そうして俺は、原典の訳文を手に居間へと戻った。
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