第100話 結婚式
エー、お集まりの皆々様、この晴天の佳き日に結ばれまするふたりを言祝ぐ……って訳ではないのだが、今日はライリクスさんとマリティエラさんの結婚式なのである。
ジューンブライドが幸せになるとかなんとかあるように、こちらでは秋の結婚は実りの収穫と共に祝われるとても縁起のよい時季とされている。
つまり、元々とても結婚式の多い時季であり、夏の終わりにその年の秋に無理矢理結婚式をねじ込むなんて、フツーはできないはずなのだ。
それが叶ってしまったこのふたりの結婚式は、きっと何か大きな力が働いているに違いない……
なんてな。
しかし、俺的に一番の衝撃だったのは、マリティエラさんがビィクティアムさんの妹だったということだ。
似てるといえば、似ている気もしなくもないが。
そっか、ビィクティアムさんに三十三番のケースペンダントを贈ったのは、マリティエラさんだったという訳だ。
最後まで反対していたライリクスさんのお兄さんって人は、来ていないみたいだ。
まぁ……そうだよなぁ。
ライリクスさんは家門から外されるって言っていたし、大っぴらに祝える立場ではないのだろう。
貴族なんて、面倒なだけだな、ほんと。
教会で結婚式を執り行ってくれたのは、俺の成人証明の裏書きをしてくれた司祭様だった。
ふたりはもの凄く緊張していたから、やっぱりシュリィイーレの一番偉い人なんだな。
こちらでは誓いのキスとか指輪の交換とかないんだが、ふたりで神話にある『神々の言葉』を交わして誓いを立てる。
そして、互いの身分証に相手の魔力を通して、それを司祭様が聖魔法で刻み込むのだそうだ。
勿論、婚姻証明をした司祭の名も裏書きされるという。
身分証って本当に大切なんだなぁ……
そう思うと、あのケースペンダントを作ってよかった。
その人の大切なものを守れる物なんて、素敵じゃないか。
そうだ、結婚祝いにふたりに揃いのケースを作ってあげようかな。
勿論【付与魔法】のサービス付で。
さて、披露宴である。
披露宴は教会の裏、つまりシュリィイーレでは中央広場で行われるのだ。
今日は二組の挙式が行われたので、半分ずつが各会場となっている。
マリティエラさんが医師組合の所属なので、その建物がある側の西半分がこちらの会場だ。
もう一組は石工職人の人達みたいで、東側に会場設置となっていた。
それぞれの客が交ざらないように、透明な仕切りで区切られている。
披露宴のメインは実はお菓子なのである。
みんなで酒と軽食、そして菓子を食べながら過ごす立食パーティなのだ。
本当はウエディングケーキみたいにしようかとも思ったのだが、それでは一種類しか楽しめない。
ここはうちのバリエーションの多さで華やかにと思い、俺も母さんもめっちゃ頑張ったのだ。
テーブルの上にただ並べるのではなく、大きめのハイティスタンドをいくつも作ってその上に色々な種類のケーキやクッキーを載せる。
そう、かなり規模の大きめなアフタヌーンティーみたいな感じにしたのだ。
お酒はもちろん、紅茶も完備。
全ての皿には適温でお楽しみいただけるように、温度管理の魔法もガッツリ付与済みですよ。
参加者の多くは、医師組合の方々と衛兵隊なのでもの凄く……威圧感がある。
衛兵隊は全員式典用の華やかな制服なのでめっちゃカッコイイし、医師組合の方々も洗練されたお洒落な人が多い。
実は酒より甘味を好む人達が多いので、お菓子の種類の多さと好きな物を沢山取れるこのシステムは大好評であった。
ふっふっふっ、今回の新作はありそうでなかった栗のケーキの大定番、モンブランである。
真っ白な粉砂糖を使って、ちゃんと『
甘さ控えめながら濃厚な渋栗を、心ゆくまでご堪能いただける自慢の一品である。
「うむ、これなら俺も食べられる……あんまり甘くなくていい」
ビィクティアムさんは甘い物があまり得意ではないので、渋栗はお気に召していただけたようだ。
「濃厚で美味しいねぇ……栗ってもっと、ぱさぱさしている印象だったけどこれは旨い……」
「栗のもいいが、こっちの蜂蜜のも旨いぞ」
「お、ココアのもある! おおー、柔らかいー」
うんうん、普段店まではあまり来ていただけていない医師組合の方々にもご好評ですな!
病院や薬関連の店は西側に多いから、
この機会に、どうぞよろしく。
そして本日の主役のふたりにも、ケーキとお酒をサーブ。
「はい、どうぞ! ご結婚、おめでとうございます」
「ありがとう、タクトくん」
「ありがとう。本当に素敵なお菓子ばかりね」
「おめでとう、マリティエラ」
「まぁ、ありがとうリシュリュー!」
ん?
急にライリクスさんの顔がきつくなったぞ。
……あ、リシュリューさんを牽制している?
「お久しぶりですね、副組合長。今日は態々ありがとうございます」
「君があまりに彼女を待たせるものだから、結婚する気などないのではないかと思っていたよ」
「そんなわけないでしょう? マリティエラには、ちゃんと解ってもらっていましたよ」
おおぅ……何か火花が見えるぜ。
「気にしないでね、タクトくん。このふたり前から仲が悪くて」
「マリティエラさんを巡る闘いってやつですか」
「違うわよ。ああやって
「マリティエラ、君の病院を南側に移すと聞いたが……」
「あら、流石副組合長、お耳が早いこと。そうよ。今は継続している患者さんはいないし、南側は医者が少ないもの」
「それでも、君に診てもらいたい患者もいるだろうに」
「西にはいいお医者様が大勢いるわ。私より腕がいい人も。私、好きな人の近くで働きたいの」
お、ライリクスさんが勝ち誇った顔をしているぞ。
絶対にマリティエラさんが、このふたりの
でもマリティエラさんが南側に来てくれるなら、もっとうちで食事とかしてもらえるかな。
……メイリーンさんも……来るのかな?
「メイリーンも引っ越して、南側に来るって言っていたわよ? タクトくん」
なぜ、俺の考えていることが判ったんだっ!
この人も魔眼持ちか?
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