第49話 不審者を追う

 東門を出て道なりに歩くと、壁伝いに少し南側へ行ってから東へと道が延びている。

 南東門への道と、隣町へ向かう道の分岐まで来た。


 振り返って東門を見ると、まだここいら辺りまでは門の二階から見えるみたいだ。

 隣町へ向かう道は、ここから下り坂になっている。


 おそらく水源から川が流れるとすれば、南へ落ちていくのだろう。

 だから、水道で引き込む必要があったのだ。


「シュリィイーレは、計画的に作られた町なんですか?」

「ほう……どうしてそう思うんだ?」

「町に川も湖もないし、水が湧いている所もない。まず、水道が作られて町ができてから人が来た……みたいな気がしたので」

「よく見ているな。そうだ。この辺りは素材の宝庫だが、運び出すにはどの町も遠すぎた」


 なるほど。

 町の作りが整然としているわけだ。

 農地もこの町での自給自足に問題ないし、非常用の備蓄も多い。

 この町があることで、王都に素材や加工品が運びやすいんだろう。


 そして、他から攻められにくい三方が山の地形。

 南西には魔獣の森と西に山脈、北には錆山。

 開けた東南から南側は他国と接していない崖と海。

 いざというときは、要塞にもなり得る堅牢な壁。


 そりゃあ、水源の確保と維持は最も重要だ。

 そう思いつつ北東の山側を見ていた。

 ……?


 なにか、動いた。

「……どうした、タクト?」

「今、あの辺りに何かいた……赤いものが動いて見えた」

「赤……? この時期に、赤シシなどいないし……」


 また。

 今度は光った。

 反射したんだ。

「多分……あれ、獣じゃない。人だ。赤い鎧……あの冒険者だ!」


 なぜ、冒険者が……?

 俺は思わず走り出した。

 低い柵を乗り越えて向側へ……行こうとして止められた。


「駄目だ! その山は危険だ! 我々が行くから、おまえは戻れ!」

「なら、一緒に連れてって下さい!」

「駄目に決まっているだろう!」

「この山に、道はないんでしょう? あったとしても、あいつらがそこを通るとは思えない。でも、俺なら確実に跡を追えます」


 ビィクティアムさんは、何も言わずに俺を引き寄せた。

「……跡を追えるとはどういうことだ?」

「あいつらの武器に、俺の魔法の痕跡があります。俺は、自分の魔法の気配を辿ることができる」

「おまえの魔法の痕跡?」

「ええ、うちに来て暴力を振るわれそうになった時に、防御で魔法を使ったので」

 嘘ではない。

『出禁』は防衛だ。


「……わかった。案内だけだ。やつらが見えたら隠れろ。いいな?」

「はい」

 あいつらが何をするためにここに入ったのかは解らないが、絶対にいいことじゃないのは確かだ。



 ビィクティアムさんがすぐ東門の兵舎から数人の衛兵を呼び出し、一緒に山に入った。

 やはり、道はなさそうだ。

「タクト、解るか?」

「はい、南に降りてから……東に真っ直ぐ進んでいます」


 ビィクティアムさんは黙って頷くと、俺を真ん中にして隊列を組み、その方向へ歩き出した。

 急に下りがきつくなった所から、東へ曲がる。

 微かに水音が聞こえる。

 そうか、やっぱりここいらが水源だ。


 あいつら、水源に向かっている?

 なんのために?

「そこを北に……」

「……! 足跡がある。たいしたものだな、タクト」

「もう少しで接触します。気をつけて下さい」


 太い木が生い茂る森から、少し開けた場所が見える。

 木々の隙間から、人工的に作られた石組みが覗く。

 そこは、コの字型の崖に囲まれた場所だった。

 シュリィイーレ側からしか、ここに入ることは不可能だろう。

 崖の中腹から水が湧き出して、滝が幾筋もできている。

 滝壺近くに石壁があった。

 ここはシュリィイーレの、命の水が生まれている場所だ。


「動くな! そこで何をしている!」

 ビィクティアムさんの声が響き渡り、不審者ふたりは身体を強ばらせた。

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