第37話 碧の森

 本格的な冬になる前に、父さんと鉱石系の素材を取りに行くことになった。

 父さんの使う修理用の素材と、俺の分もちょっと。

【文字魔法】でも出せるんだけど、あちらの素材は純度が高過ぎる。

 そして、俺の残高がドカンと減る。


 あちらの預金は、絶対に全てコレクションに使うと決めたのだ。

 こっちで調達できる物を、わざわざ買うなんて以ての外である。


 碧の森と錆山は、冬になると入れなくなる。

 魔獣はほぼ出ないが、地形的に危険な場所が多いので何人かでまとまっていく。

 今回はデルフィーさんの案内で父さんと俺、そしてルドラムさんの四人だ。


 デルフィーさんは碧の森にとても詳しくて、俺の石判定の上位互換の適性がある。

『鉱石鑑定』だ。

 碧の森の鉱石は、主に水晶やゾイサイトなどがあるようだ。

 錆山の麓では、質のいい鉄鉱石や銅が採れるらしい。


 ルドラムさんには、もしもの時の護衛と荷運びをお願いしている。

 がっちりした体型で、めっちゃ強そうだ。

 魔獣が出た時のためだが、殆ど襲われることはないのでメインは荷運びの方だ。


 勿論、俺も荷運び要員である。

 まだまだ俺には、鉱石の選定は難しい。


 重いものだし、品質が劣る石まで持ち帰る余裕はないから目利きは大事。

 ……その点、俺にはアドバンテージがある。

 また、二重鞄を用意してあるのだ。


 コレクションにしまえば、楽勝で大量に持って帰れる。

 だから、自分用のを沢山拾っていこうと思っているのだ。

 もちろん、なるべく良い品質のものは頑張って選ぶけどね。


 そして、デルフィーさんとルドラムさんにお守りを渡した。

「お守り?」

「そう。無事に行って、帰って来られるようにっていう守護札が入ってるんだ」

「俺とタクトが首から提げてるやつと一緒だぞ。ほれ、これだ」


 父さんには随分前にあげたけど、ずっと着けてくれてるんだよね。

 俺はコレクションに入ってるから必要ないんだけど、みんなに見せるために提げてきたんだ。


「必ず身に着けててね。割と効くんだよ、この守護札は」

「ははは、神頼みするほどのことじゃねぇよ」

 ルドラムさんは実力主義なのかな。


「神様だって守り札を持ってる人を贔屓して、いい鉱石が拾えたりするかもしれないよ?」

「なるほど、そりゃいいな。採取は運任せなとこもあるしな」

 そうそう。

 そのくらいのスタンスでいいんだよ、お守りなんて。


 実はこれには『物理攻撃無効』『毒無効』『身体浄化』の【文字魔法】を書いた札が入っている。

 万が一、何か起こらないとは限らないからね。

 身に着けててもらえれば、ダメージが完全に無効にならなくても軽減はされるだろう。

 デルフィーさんとルドラムさんに渡したのは、効果が一日限定だけど。


 そして何かあった時にすぐに使えるように、治癒系の札も何種類か作ってある。

 備えあれば憂いなし。

 小心者はこれくらいやらないと、不安なんだよ。



 採取は順調だった。

 碧の森は起伏の多い地形で、沢から登った高台の崖辺りが今回の採掘ポイントだ。

 今の時期は採取、採掘で森に入っている人も多い。

 だから、そんなにいい物は残っていないかと思ってたんだけどそうでもなかった。


「ちゃーんと鑑定できりゃ、取りこぼしがなくなるのさ」

 デルフィーさんの『鉱石鑑定』は、この町でもトップクラスだ。

 他の人が見落としてしまう物もきちんと見分けられる。

 やっぱり、目利きは重要だよな。


「デルフィーさん、ここら辺はどうかな?」

「お、ここはいいぞ。中にいい鉱石が埋まってるな」

「凄いですね、デルフィーさんは中の鉱石まで鑑定できるんですか!」

 ルドラムさんにも感心されてデルフィーさん、ドヤ顔だね。


「タクト、おまえはどこまで見える?」

「……んー……ここだと、水晶が入ってるなぁ……くらい」

 岩肌に触って目を懲らしてみる。


「そんだけできりゃ上等だぜ。その水晶の量はどうだ?」

「そこまでは、解らないな……」

 うーん、難しい。


「あたりを付けるにゃそれくれぇでいいけど、量が見当つけば効率的になるぜ」

「実際に掘らねぇと量は解りづらいからな、まぁこれからだ」

「俺にはさっぱりっすね。ただの岩にしか見えねぇや」

 ルドラムさんに見えないのは当然だけど、達人ふたりとはまだまだ差があるなぁ。


 水晶の採掘も終え、そろそろ帰り支度の時間になった。

 ふふふっ、俺のコレクション内にも、たんまりいい石が入ったぜ。

 この袋の中身も全部、でかいトートに入れて……コレクションの中にぽーん!

 カモフラージュの袋は背負っておかないとね。



 ドーーーン

 ドォーン



 遠くで二回……爆発音……?


「いかん! どっかのバカが、短気起こしやがった!」

「え……?」

「採掘に火薬を使いやがったんだ! この辺りも崩れるかもしれない。すぐに離れるぞ!」


 俺達は慌てて岩場から、登ってきた沢の方へ走り出した。

 この辺は、崩れやすい砂岩が多い地質だ。

 早く離れないと……!


 ……なんだ?

 なんだか、低い地鳴りみたいな音がしてる?


 足下が、崩れた。

「うわっ!」

 俺は、ルドラムさんに寄りかかるように倒れた。

 差し出された父さんの手につかまろうとしたが……届かなかった。


「タクト!」

「タクト! ルドラム!」


 俺とルドラムさんは、崩れた道の瓦礫と一緒に崖を落ちていった。

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