第38話 お守りのおかげ

 結構……下まで落ちてしまった。

 もう上から崩れ落ちてくる物はないので、爆発の影響は心配ないだろう。


 俺は『物理攻撃無効』のおかげで何ともないけど、ルドラムさんは大丈夫かな?

 少し離れた所に、ルドラムさんを見つけた。

 瓦礫に埋もれてはいないみたいで、少しほっとした。


 ……意識を失っているのか?

 ルドラムさん……お守りは……?

 辺りを見回すと袋が落ちていて、中身が飛び出していた。


 あった。

 お守りだ。

 袋の中に入れてたのか……

 腰に下げていた袋が、身体から離れたから効果が出なかったのか!

 俺は慌てて、ルドラムさんの状態を確認する。


 背中から落ちたみたいだ。

 背負子と落ちた時の衝撃で、背骨を痛めてる可能性が高いな。

 とにかく、骨折と内臓は治してしまおう。

 あ、神経系も。


 表面の擦り傷や切り傷は、服が硬めの革でできたものだったからか大して酷くない。

 お守りを持たせれば浄化するから、ばい菌も心配ないだろう。

 ここまで治した時に、ルドラムさんの意識が戻った。


「ルドラムさん! 大丈夫ですか?」

「う……ああ……タクト?」

「ありがとう、ルドラムさんが庇ってくれたから、俺は全然、何ともないよ」

「そ、そうか? ……いててっ」


 ルドラムさんが上半身を起こして、座り込む姿勢になった。

 よかった、背骨と神経は大丈夫みたいだ。


「どっか、痛めましたか? 足とか、手とか動きます?」

「ああ、手首と足を……折れてはいなそうだが……」

「すみません、俺のせいで一緒に落ちちゃって」

「おまえのせいじゃないよ。この森で、火薬を使うやつがいるとは思わなかったぜ」


 ルドラムさんは、立ち上がると少しよろけたがなんとか足は動きそうだ。

 首回りとか、肩にも違和感があるのかな。

 ちょっと動かしては、顔をしかめてる。

 筋肉までは治していないからなー。


「この程度で済んでツいてたな……タクトのお守りのおかげかもなぁ」

「えへへ」

 ごめん、ルドラムさんには、全然役にたってなかったんだよ。



「ここ……どこいら辺りなんでしょうね?」

「俺も、ここいらの景色は見たことがねぇな」

「そうだ、ここなら煙を出しても大丈夫だよね?」

「ああ、開けてるからな……何をするんだ?」

「狼煙を上げてみようかと。父さん達が見つけやすくなると思って」


 俺は【文字魔法】で近くの石に『発煙』を付与する。

 真っ直ぐ上に伸びるように、煙を吹き出した。


「タクトの【付与魔法】は強いなぁ。こんなに多くの煙が出たのは、初めて見たぜ」

「俺、魔力量が多いみたいだから、そのせいじゃないかな」

 多分、イメージしたのが発煙筒だからだと思うけど。

 たき火の煙だと、もっと牧歌的だもんね。


 それから半刻、一時間もせずに父さんとデルフィーさんが俺達を見つけてくれた。

 狼煙、効果抜群。


「タクト! 大丈夫か!」

 父さんが泣きそうな顔で駆け寄ってきた。


「大丈夫だよ。ルドラムさんが護ってくれたからね」

「そうか、そうなのか? 本当にどこも怪我してねぇのか?」

「平気だよ」


 うん、そういうことにしておこう。

 その後父さんは、ルドラムさんにめちゃくちゃ感謝していた。


「本当によかったぜ、この程度で済んでよ」

 デルフィーさんも安心したみたいだ。

「とにかく、早く戻ろう。まだ何があるか解らねぇ」

「まだ火薬が使われてるの?」

「振動が激しかったからな。時間が経ってから、崩れることもある」

 そっか、そりゃそうだよね。


 ルドラムさんが背負っていた背負子は、俺が背負うことになった。

 でも、こっそりと中の鉱石を殆ど鞄に移動させてコレクションで運搬した。

 だって、ルドラムさんと俺じゃ体格違いすぎ。

 絶対立ち上がる事もできないよ、あのままじゃ。



 そして俺達は、無事に碧の森からもどった。

 森の入り口には、大勢の怪我人が倒れ込んでいた。

 俺達より爆心地に近かった人達だろうか……かなり深傷の人もいる。


 俺は……複雑な気持ちで、その人達の横を通り抜けた。

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