第32話 誕生日をお祝いしよう

 その後、【文字魔法】であちらの商品を出す度に、残高が減っていることも発見した。

 ここに来た初日、俺はポテチにいくら使ったのだろう……とちょっと青くなった。

 しかし、稼ぐ目的が生まれたのだ!

 働くモチベーションが、ガッツリアップしたのは間違いない。


「この【金融魔法】ってのも表示させない方がいいよな?」

『身分証に『家名スズヤ』【蒐集魔法】は表示されない』を別の紙に差し替えよう。

 家名を消すだけの紙を一枚……魔法関係は別の用紙に分けて……


『身分証に『家名スズヤ』は表示されない』

『身分証に【文字魔法】以外の独自の魔法は表示されない』


 うん、これで何か突然増えても、大丈夫かも。

 この世界に元々あるものなら問題ないけど、俺だけのものは説明できないから非表示が安全。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 名前 タクト 

 年齢 20 男

 出身 ニッポン

 魔力 2300


 【魔法師 三等位】

 文字魔法 付与魔法

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 よしよし……あれ?

 年齢が……変わってる。

 もしかして、今日が俺の誕生日ってことなのかな?

 暦が違うみたいだし、分かんなかったんだよね。



「おや! 誕生日だって?」

「うん、さっき身分証見たら二十歳になってた。昨日までは十九だったのに」

「そうかい!朔月さくつきの十七日がタクトの誕生日なんだね!」

 ミアレッラさん、暦に印をつけてくれてる。


「じゃあ、今日はお祝いしなくちゃ!」

「え?」

「何が食べたい? なんでも言いなさい!」

「俺、赤茄子の野菜煮込みとイノブタ肉の生姜焼きがいい!」

「なんだい、安上がりな子だねぇ」


「じゃあ、乳脂にゅうしたっぷりの焼き菓子も!」

 乳脂クリームは甘めで、ふわふわの焼き菓子がいいですっ!

「そりゃあ、いいね! じゃあ今日は、さっさと店を切り上げてお祝いしようね!」


 うれしい……!

 もう何年も、誕生日を誰かに祝ってもらったことなんてなかった。

 凄く、嬉しい!


「誕生日? タクトの?」

「うん、身分証見たんだ」

「そうか! 二十歳になったか!」

 すっげー笑顔で、頭をぐりぐりなでられた。


「ミアレッラさんが、ご馳走作ってくれてるんだ」

「……イノブタの生姜焼きだろ?」

「なんで解るんだよ?」

「おまえの一番の好物くらい、知っとるわい」


 本当にこんなに嬉しい日が来るなんて、想像もしていなかった。

 生まれた事を喜んでくれる人達が、またできるなんて。


 その夜は沢山食べて、沢山話して、沢山笑った。


 ……俺は、こんないい人達に隠し事をしている。

 全部を見せることが、できないでいる。


 いつか、いや、近いうちにここを離れるべきなのかもしれない。

 この人達に何かあるとすれば、原因はきっと俺だろうから。

 俺には、全部を打ち明けることはできない。


 前に、ガイハックさんに言われたことを反芻する。

『人は秘密を他人と共有はできない』

 でも、隠したままで俺を信用してくれなんて……言えない。


「……実はよ、タクトに言いたいことがあってよ……というか、お願いというか……」

「なんですか?」

「あのね、ずっと、言いたかったんだけどね……」

 もしかして……出てって欲しいってこと……かな。


「わしらの養子にならんか?」

「え?」

「ずっと、考えていたんだよ、あんたが来てからすぐにさ」

「わしらには子供ができなかった。今まで、子供と関わる事も全然なくてな」

「ずっと、縁がないものだと諦めていたんだけどね。あんたが来てくれた」


 やばい。

 泣く。


「タクトを迎えるのを、あたし達はずっと、待っていたんじゃないかと思うんだ」

「あの日、滅多に行かねぇ白森に行こうなんて思ったのも、あの小屋でおまえに会うためだったと思うんだよ」


 俺は、運命なんて嫌いだ。

 抗えない気がするから。

 でも、その言葉に救われることもあるっていうことも知ってる。

 その言葉で、俺は無理矢理に家族を諦めてきた。


「……俺、話してないことが、まだ、あるし……」

「いいんだよ。そんなことは解ってる」

「そうだぜ。言えないことがあるのは、誰でも同じだ」


「でも……そんなやつ、信じられないだろ?」

「ばかだねぇ、知ることと信じることは、別ものだよ」

「そうさ。解り合うから家族なんじゃねぇ。信じ合えるから家族なんだ」


 涙が止まらない。


「俺達の息子に、なってくれるか?」

「……んっ……!」

 言葉が出なくて、何度も頷いた。


「タクトの今までなんて、どうでもいいんだよ。これから、一緒に家族になろうね」

「今日が、誕生日なんだ。ちょうどイイじゃねぇか。俺達の息子の生まれた日だ」


 俺は、最高のプレゼントを貰った。

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