第31話 コレクションを詳しく検証しよう
あの角狼事件から、二ヶ月ほどが経った。
ガンゼールは捕まって、医師組合から追放された。
今も牢獄にいる。
やはりガンゼールが逃げようとした時に外門の通用門を開け、その時偶々近くにいた角狼が飛び込んできたそうだ。
ミトカとは、全く仲良くなれてはいない。
寧ろ、ずーーっと険悪だ。
町で見かけて目が合ったとしても、お互いに無視している。
俺は、ガイハックさんとミアレッラさんを手伝いながら日常に戻っている。
【文字魔法】の練習はそこそこ成果を上げているが、まだ検証が必要だ。
「ずっと同じ色ばっか使っていたもんなぁ。
それとも、別の万年筆にしようかな。
今使ってるインクが青だから、赤系か……緑もいいな。
コレクションを開いて選んでいると、一番最後に空白のマスがふたつあった。
「……? 空白なんてあったかな?」
試しに空白のマスのひとつに触れてみる。
何も出てこない。
「そうだよな、空っぽのマスだから出てこないよ……うぇぇっ?」
見た事のないインクの画像が、半透明で表示された。
なんだ?
なんだこれ?
画像の下に〈購入可能〉と表示されている。
「……購入……? なにで買うの?」
お金はない。
向こうのも、こっちのも持っていない。
でも……可能ってなってるから……購入って押してみちゃおうかな?
えいっ!
マスがちょっと光って、半透明だったものがはっきりと映し出された。
「……買えたってこと?」
待て、ちょっと待て。
対価は?
何で支払われたんだ?
俺がなくしちゃいけないモノとか、じゃないよな?
コレクション内をくまなく見たが、無くなっているものはなかった。
身分証の表示も変わって……ん?
変わってる……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
名前 タクト 家名 スズヤ
年齢 20 男
出身 ニッポン
魔力 3072
【魔法師 三等位】
蒐集魔法 文字魔法 付与魔法
金融魔法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……なんだよ【金融魔法】って……名前、ダサ過ぎだろ?
もう一度コレクションから、さっき現れた画像のものを取り出す。
「インク……これ、S社の新色? 全然知らないやつなんだけどっ?」
向こうの世界で新発売になったものが買えるのか?
でも、マジで何で支払いを……ん……?
金融……魔法。
あ、銀行……?
俺はあちらでは、四人分の死亡保険金をもらっている。
両親と祖父母の分だ。
両親の分は、俺の学費や働きに出る前までの養育費で殆どなくなってるはずだ。
でも祖父母の分はまるまる残っているし、遺産もそれなりにあった。
自分の稼ぎだけでもなんとか暮らせていたので、手つかずで預金されている。
どこかに……銀行の預金額が、示されていたりするのか?
あった。
多分これだ。
コレクションの一番最後のページ、欄外に〈残高〉という文字が見えた。
まるで契約書の、一番小さくて読み飛ばしちゃう文章くらいの文字サイズ。
触れてみると、数字が現れた。
おそらく、これが俺の口座の残高だ。
「……結構あるな」
ワンルームマンションくらいなら、買えそうな額だ。
試しにもうひとつある空白マスに触れると、やはり半透明の購入可能商品が現れた。
購入してみると、数字が『1100』減った。
この商品の価格だろう。
「新商品が……買える!」
この慶びを、どう表現したらいいのだろう……!
その後、コレクション内の色々なページの空白に触れるとやはり新商品だった。
当然、全買いである。
なんてったって、今、持ってる残高はこっちの世界では使えないものなのだ。
全部コレクションに投じられる!
万年筆! ノート! 紙! 筆と墨も!
あーこのペン知らない奴!
やべーっ!
嬉しいー!
あ、いかんいかん、もう残高を増やせないんだから。
自重した方がいい。
でも、今日は嬉しいから全部買うーっ!
でも【金融魔法】……って、こっちのものを向こうの通貨に換金できたりしないのか?
こっちで買った練習用の石の中に、琥珀が混ざっているものがあった。
これなら少しは価値があるんじゃないか?
「コレクションには……このままじゃ入らないか」
文字魔法で『日本円に換金』と書いた紙で、石に触れる。
すると、五百十五円分の、日本の硬貨が現れた。
「マジか……」
この石の価値が、それなのだろう。
換金されたという事だ。
おそるおそる、その硬貨をコレクションに入れてみる。
残高が五百十五円分、増えた。
俺が未だかつてないほど神様に感謝したのは、言うまでもない。
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