第14話 自分のことをみつめ直してみよう

 その後、昨日街へ入ってきた門と反対方向の門の近くまで来た。

「ここら辺りは、碧の森からの素材を加工している職人の店が多いな」


 西の森の素材は獣の皮とか、木材が中心だと言っていた。

 碧の森はどうやら石とか金属だ。

 町の北側、森の奥に見えるのは火山だろうか。

 採掘場とか有るのかも。


「武器とか、防具とかも作っているんですね」

 白森側の露店などでは生活用品が多かったのだが、こちら側の店は随分雰囲気が違う。


「シュリィイーレの武具は、質が良い。衛兵隊にも納めてるくらいだからな」

「いい仕事をする職人さんが多いんですね」

「そう、そんで腕の良い付与魔法師をいつも探している」


 そっか、俺が働く時のために、顔つなぎに連れてきてくれたんだ。

 どんどん、ガイハックさんへのご恩返しメーターが上がっていくー!



 いくつも工房を紹介してもらった。

 そして、何人かの職人さん達とも話ができた。

 ガイハックさんって、本当に顔の広い人だな。

 しかも、みんなとっても好意的だ。


 ガイハックさんがいなかったら、きっとこんなに上手くはいかなかった。

「なにからなにまで……本当にありがとうございます」


 いや、多分この町に来ることすらできず、あの小屋で獣に襲われて死んでただろう。

「ガイハックさんは、俺の命の恩人ですね……」


「……バカいってんじゃねーぞ。子供を護るなんて、当たり前のことなんだよ」

 ……子供、か。

 考えが甘くて、行き届かなくて、確かに俺は本当に子供なのかも知れないな。


 魔法が使えるから、あのコレクションがあるから、俺は自分ひとりでどうにかなると思っていた。

 ひとりでなんか、何もできない。

 俺の考え方は本当に浅はかだった。

 あーっ!

 自分がこんなに涙もろかったとは、我ながら呆れるぜ。


「昼飯にしよう! こういう時は……そうだな、肉だ! 肉を食いに行くぞ!」

「はいっ!」

「よしっ! 子供はそれでいいんだ!」

 ……でもやっぱ、あんまり言われると……凹むっす。



 ガイハックさんの家に戻った時には、もう陽が傾いていた。

「すぐに夕食だからね」

「はい、ありがとうございます」

 俺は貸してもらっている部屋に戻って“身体洗浄浄化”と書いた紙を、頭の上に置いた。

 あちこち行って汗もかいたし、水で洗うよりこっちの方が早そうだし。


 思った通りの効果だ。

 髪もさらさらになったし地肌さっぱり。

 汗のべたつきも、埃っぽさもなくなった。


 浄化って書いたから、ばい菌とかも消えてるだろう。

 除菌とか滅菌にしちゃうと、表皮にいる常在菌まで取り除いちゃいそうだからね。

 あ、でも念のため、手だけはちゃんと洗っとこう。


 ん?

 洗浄浄化が終わっても、文字が薄くなっていない。

 そういえば、翻訳とかも何度も使えている。

「文字が薄くなって一回しか使えないのは……何かしらの物品が出るものだけ?」


 火や水、食べ物が出たものは、文字が薄くなった。

 でも、今、手元にある翻訳と鑑定の時のもの、そして洗浄浄化の文字は濃い色のままだ。


 状態の維持が、これひとつでできるということだ。

「この『身体洗浄浄化』も、お守りに入れておこう」


 絶対便利だぞ、これ。

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