第12話 役所に行って身分証を作ってもらおう

「ここが役所だ」

 思ったより、こぢんまりした建物だ。

 でも、壁の石が他の建物と違ってつるつるだ。

 高級素材を使っている、という事なのかな?

 技術が高い建築なのかも。


 中は……なんか、役所っていうより、銀行か郵便局みたいだ。

 椅子が置いてあって、順番待ちをしている人がいる横を通り抜けていく。

 奥の方のカウンターは……なんか、作りが全然違うな。


 こんな風に、ひとつひとつ区切られたカウンター……どっかで見た……

 あ!

 ひとりひとりで食べるラーメン屋さんに、こんな感じの所があった!

 店員さんの顔も見えないんだよな。

「あー、こっちだ、こっち」

 ガイハックさんがそっちに向かって歩き出した。


「書類を全部自分で書けりゃあ必要ねぇんだが、字が書けない奴はこっちで視てもらうんだよ」

「……? 何を?」

「おまえ自身の『魔法鑑定』をしてもらうんだ」


 ……鑑定……?

 ですと?

 え、それって、ばれたくないことまで、全部解っちゃうやつですか?

 ぶわっと汗が出てきた。


「解るのは名前と年齢と出身地、それと魔法の種類くらいだ」

「わりと、全部じゃないですか、それ……」

「いや、魔法の種類だけじゃ、実際どういうのが使えるかなんて解らねぇし、その他は身分証明には、絶対必要だろ?」


 えええええー……確かにそうですけど……出身地が一番ヤバイのでは?

『異世界』とか出てしまったら、どーしたら?


 しかし、鑑定は断れない……この町にいるなら必要なことだし。

 そうだ!

「ちょっとだけ時間ありますか?」

「ん? ああ、まだ順番が来るまで時間掛かるからな、ここらで待ってろ」

 よかった!


 俺は手で隠しながら小さめの付箋紙とペンを取り出し、こそこそと書いていく。

 鑑定の妨害はダメだ。

 再鑑定なんて事になったら、もっと面倒だ。

 目くらましになるように。

 疑われないような鑑定結果を出さないといけない……


“この紙を持つ者はいかなる鑑定魔法でも

【名前タクト 出身地ニッポン 年齢28 魔法の種類 付与魔法】

 と表示される”


 よし、これを持っていれば誤魔化せるかも!

 書いた付箋は、首から提げているお守り袋に入れる。

 ここには、自動翻訳の紙も一緒に入っている。


 ガイハックさんが、次だからこっちに来いと手招きしてくれて、慌てて側に行く。

 俺の文字が役人の魔法に通用するか解らないが、上手くいってくれ……!


 個別カウンターのひとつに入ると、相手の手だけが見える。

 顔を合わせないのは、プライバシーの保護とか?

 まぁ、助かるけど。


「では、鑑定します。両手をこの板に乗せてください」

 手を乗せると石板が細かく振動して、少しだけ光った。

「はい、終わりました。今から鑑定結果を写した身分証を作りますから、そのままでいてください」

 待合室に戻りたい!

 ひとりでここにいるの、プレッシャー!


 異世界の物をポコポコ出せるとか、異世界人とかばれたらどーしよーっ!

 は、迫害されちゃったり?

 いや、もしかしたら追放とか投獄とか……!

 どんどんネガティブになっていく自分の思考に、歯止めがきかない。

 プレッシャーに弱すぎだろ、俺!


「お待たせー。はい、これが君の身分証ね」

 と、通った……!

 やったーー!

 大学の合格発表よりドキドキしたー!

 受付のお姉さん(多分)から、手のひらサイズより少し大きめの金属プレートが提示された。


「読めないと思うから、読み上げるね。大丈夫よ、音を遮断する魔法で、周りには聞こえないから」

 そっか、読み上げてくれるから個別ブースなのか。

 本当は読めるけどね、翻訳できるから。

 でも内緒。

 名前、出身地、魔法の種類は、さっき紙に書いたとおりだった。


「え? 二十三歳? いや、俺は……」

「誤魔化してもダメよー。ちゃんと鑑定されているんだから!」

 ……もしかして、小さい紙に詰めて書いたせいで誤読された?

 魔法に、誤読とか有るのか?


 ご、五年も、さば読んでしまった事になるのか……

 しかも自分の書いた文字が、たとえ魔法とはいえ誤読されてしまうなんて……!


 正確に相手に伝えるための文字が書けていなかったなんて、めっちゃ凹む。

 カリグラファー失格だ……


「魔力量は二千三百も有ったよ! 凄く多いよ! この年だと珍しいよ!」

 ……魔力量……とかも出るのか。

 そっか、指定した以外の項目は、素直に出ちゃったのか。


「しかも【付与魔法】なんて、この町では引っ張りだこになるね」

「そう……なんですか?」

「そうよー。この町では武器とか生活用品とか作っているから、魔法付与ができる人は絶対必要だもの」


 そういうものに、魔法を付けるのか……

 あ、そうか、ランプの火がずっと一定なのが、凄いと思っていたんだよな。

 あれは【付与魔法】で、一定の炎が燃え続けるようにしているのかも。

 なるほど、面白いことが知れたぞ!


「ここに書かれていることは以上よ。解らないことある?」

「いえ、大丈夫です」

「じゃあ、もう一度この板に触れて」

「はい……」


 さっきの石板のように手を乗せるとまた少し光って、プレートが小さくなった。

 手のひらサイズだったのに、今ではドッグタグぐらいのサイズだ。


「はい、できあがり」

「これが、身分証になるんですか?」

「そうよー。君の魔力で大きくもできるから。いつもはこの大きさで、必ず身につけておいてね」

「はい」

「できることが増えたりすると追記されるから、たまに確認してね」


 へぇ……内容が自動更新されるのか。

 便利。

 あ、だから生年月日じゃなくて、年齢表記でも平気なのか。


「身体を洗う時も、寝る時も離しちゃダメよ? 盗まれて、悪用されることもあるからね!」

 き、気をつけます……

 お守り袋もちゃんと強化して、破れたりしないように。

 濡れても平気なようにしよう。

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