第6話 娘のお弁当に思う
僕の朝の日課に高校へ通う娘のお弁当作りがある。
昔から僕は料理やお菓子を作るのが好きだった。
僕の作った料理を「美味しい美味しい」と言って食べてくれる家族の笑顔が大好きだ。
料理本のレシピを眺める時は家族の顔が浮かぶ。
弥生さん、大地、蒼空の好物を考える。
僕が愛情を込めて具材を切り炒め煮込みすると我ながら美味そうな料理が出来上がる。
味と腕には多少の自信があるし学生時代にはずっと飲食店でバイトして調理師免許を持っていたりする。
カフェをやりたいのは僕の料理を食べてくれた人が喜んで見せる笑顔が見たいからだと思う。
僕はカフェをやりたい漠然とした夢を抱きながら飲食とは全然関係のない仕事に奮闘してきた。
取り立てて人より優れたところなんてない僕がなんとか面接に受かった会社。役所などを相手にする道路工事などを請け負う会社の営業事務は安定した職だと思っていた。ついこの間リストラ勧告されるまでは。
僕は家族のためになりたかった。
役に立ちたかった。僕は
僕の料理を家族が喜んでくれたから。
産まれたばかりで産院の玄関に捨てられてたらしい僕には両親は存在しなかった。
教会が造ったみなし児を育てる施設のシスターたちが僕の母親代わり。
僕は小学生に上がる前に里親に引き取られた。
やがて正式に二人の養子になって料理や家事は養父母が見守りながらじっくり教えてくれた。
優しかった養父母に孝行したかったのに大学を卒業した直後に相次いで病気で亡くなった。
学生結婚を後押ししてくれた理解ある養父母だった。亡くなる前に孫を見せてやれた事だけは良かったと思う。
本当は臆病で世界の片隅でじっと縮こまっていたい僕をつき動かし働く原動力であり礎は妻の弥生さんと息子の大地と娘の蒼空の存在だ。
僕はこれからだって働く。
妻や子供たちの笑顔を見たいがために。
だって僕は弥生さんが僕を見つけ出してくれるまでずっと自分の人生において自分が主役ではなかった。
どこか世の中は俯瞰的で。
自分は舞台の観客の側にいたような気分だった。
それが弥生さんと出会ってぐいぃんっと腕を引っ張られ舞台上に上げてもらって急に視界は明るくスポットライトを浴びたように思えた。
喜びなんて見いだせず無気力に生きてきた。でも弥生さんに出会った途端僕の生きてる世界が彩づき陽気な音楽が流れ出した。
弥生さんに恋してから現在までまるでミュージカル映画の主人公の一人になったみたいに日常はめくるめく。
やっと自分が自分の世界で動き出した、そんな感覚。
施設のシスターや大学まで行かせてくれた養父母に感謝はしているが、僕の心の埋まらない部分を埋めてくれたのは弥生さんと子供たちのパワーと明るさ、それに親友のトベケンの気さくさだ。
僕がなりたかった理想の姿は弥生さんやトベケンが持っていた。
あの二人みたいにはなれないけれど少しは近づきたい。
弥生さんの傍はずっといたい居心地の良い場所。
だからそんなお店が良い。
自分の居場所があるって思えるカフェ。
僕のカフェに来てくれるお客さんが少しでも心が和む場所にしたいな。
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