日常の怖い噺

タカヤマユウスケ

お客様アンケート

大学生の頃に通っていたスーパーがある。

全国展開するような大規模な店ではなかったが、地域密着型の地元民に愛されるスーパーだった。


私が通っていた頃、お客様アンケートコーナーを見ることが密かな楽しみだった。

このコーナーは、客からの意見を募り、「お褒めの言葉」と「お叱りの言葉」の2つにジャンルを分け、それに対して店長が回答するというものだった。

お叱りの言葉とは、つまりはクレームだ。

「気が利かない」

「商品の価格が高い」

「トイレが古い」

などといった一般的に考えてどうしようもないようなものだったため、「世の中にはこんな人もいるんだ」と面白半分に見ていた。


ある日の買い物の帰り際、気になるアンケートを見つけた。



お客様の声:

商品の在庫があるかどうか聞いているのに、声をかけても無視する店員がいる。名札には佐々木と書かれていた。しっかりと指導をしてほしい。


店長より:

この度は皆様にご心配をおかけしまして申し訳ございません。弊社には、佐々木という社員はおりません。見かけた際も声をかけないようにお願いいたします。

もし、佐々木という男から話しかけられた場合は、お手数ですが以下の電話番号にお問い合わせください。

***–***–****



つまりだ。

佐々木という、店員の格好をした他人が紛れ込んでいるということになる。

しかし、このような不審者は警察に捕まえてもらうことはできないのだろうか。

不審者でも簡単に捕まえられない世の中なのか。

そう思いながら眺めていると、電話番号が書いてあることに気付く。

見てみると、ここら辺の市外局番ではないことは分かった。

試しに調べてみると、東北南部の「**寺」という寺であった。

不審者の対応に寺の電話番号。

触れてはいけないものに触れてしまったと思い、振り返らずにその場を立ち去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る