第33話 起業

【ここまでのあらすじ:洸一は医療機器メーカーの開発部に勤める35歳。某国スポンサーの再生人間プロジェクトで洸一から複製された人間である陽一は、身体のみならず記憶も人格も洸一の複製。二人は互いに脳の100%活性化を目指し、互いに高め合っていく。2022年末に売上100億円のアドバイザーになる計画を立て、半年間準備を進めてきた】


2023年6月23日 金曜日


去年の末に立てた事業の立ち上げのため、洸一と陽一は合計で20の資格を取得した。


高額なアドバイザーフィーをもらえる資格となると限られてくる。また、医師や建築士など、受験資格の制約が大きいものも除外した。


かといって、ただ難しい資格試験というだけでもお金はとれない。たとえば、大学で数学を専攻した人でさえ難しいアクチュアリー(保険数理士)という資格は、それをとったからといって就職や高給が約束されるものではない。


語学系の資格は特に洸一や陽一も得意分野だし、語学学校に軽く100万円は使って何年も通っても最難関資格を取れるとは限らないので、特に注力した。


当初は、誰よりも良いアドバイスができると自信がある資格に絞り、オンラインの学び講座サイトに、「10分間で受験アドバイスします。価格1万円」でアップした。ただ掲載するだけではいくら待っても客はつかないので、ネット起業についても独自の成功法を編み出した。


1ヶ月もすると、受講者のクチコミ(これもある程度操作しているのだが・・・)でドミノ倒しのように人気が出て、さばききれないほどのリクエストが来たので、「あなたの時間を売ります」の時間オークションサイトに移設した。このサイトは、人気がある人(有名タレント等)ほど時間単価が高くなる。上位ランカーには1時間100万円を超える人もいるが、すでに人気を博している洸一と陽一はすぐに上位ランカーになった。


実際には一人1時間ではなく、最長でも15分だ。洸一と陽一の判断力、洞察力、知識、それに周到に準備した戦略オプションを以てすれば、たった15分が数十時間に値する。ただ15分話すのではない。最も重要なのは受講者の「自己効力感」(自分にもできる。本当にできるという感覚)を飛躍的に上げることであり、周到な準備とはそれをどう個別に実現するかに尽きる。


ただ金儲けするだけなら、洸一と陽一の頭脳をもってすれば、他に様々な選択肢があったが、オンラインアドバイザーを選んだ理由は3つ。ひとつは初期投資や固定費がかからないこと、自分で時間を選べること(そもそもキャパが少ないので相対的に稀少価値が高まる)、それに顔出ししなくていいことだ。それ以前に、自分たちの力で皆に成長してもらいたい、という金科玉条があった。


二人が参加している極秘ミッションの制約があり、二人は有名になることができない。普通に事業を興して成功してタレントばりに顔と名前が知られてはいけないのだ。


起業準備から半年が経過し、億円単位の利益を得た二人は、さらなる大きな目標に向けて計画を立て始めた。


(つづく)

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