第26話 魔鉄剣、土豪剣憤土
「僕は争いの為にコデエアラルを君に任せたのではない。土塊に愛を吹き込む……」
「ケッ!何が愛だ。ただの土塊じゃないか。低俗な愚民共が!愛だの恋だの、ぬかしやがって!」
壁男が地面に小振りの剣を突き立てる。
「サチャベキ。僕の小刀を盗んだのは君だったのか!」
「タグルタイ。今さら気付いても、もう遅い。コレぞ、土豪の剣……
壁男サチャベキがパァン!と手を打つと、先程まで周りを取り囲んでいた石壁が瓦解を始める。更に両手を地面に突き立てると、跋扈する土塊乙女たちが怒涛の勢いで集まり出した。烏合の土塊は複雑怪奇に絡まり合い、一つの大きな体躯を形成してゆく。
「我が叡智の塊。フュージョン、イリュージョン!」
壁男の狡猾な笑声が響く。サチャベキは巨大な土塊に飲まれたかと思うと、やがて巨大な体躯の土塊乙女の肩に乗っていた。
「どうだね。驚いたかね。このバカチン共が」
○
コデエアラルから、人も馬も続々とオンゴツの作った船に乗り、故郷へと戻って参りました。再開を果たす皆々様の顔は喜びに溢れています。
「報告します。サチャベキを逃しました。元キヤトの馬人や男達はタイチウトに囚われているとの情報です」
「不味いわね」とボルテ。
「お姐様、私達も行きましょう」
「そうね、この秘策があれば……アチも一緒に来てくれるかしら?」
私は二つ返事で答えました。
○
土塊を蹴散らし進みます。
「ボルテ様、お怪我はありやせんか?ここは槍のジェルメに!」
「テムルン様、ここは弓のノヤンにお任せを」
跋扈邁進する土塊を弓部隊の矢が射抜きます。破竹の勢いで矢が飛ぶ。何千という騎手からの放たれる矢が雨粒の如く土塊に降り注ぎます。更に、怒涛に流れ込む槍を持つ騎馬隊。
私は時代劇の舞台を見てるかのようでした。槍に突き刺された土塊は弾けるようにして瓦解してゆきます。
私も負けてはいられません。「エクスカリバー!」と一声、光の矢を放つ。そして、多勢の土塊の層から一筋の道を作りました。
「ノヤン。凄いぞ!オマエの弓以上だ」
「やばい!そして……美しい」
「ダメよ駄目だめ。こら、アンタ達!アチに近づくな」
「そうですわよ。アチ、大丈夫ですこと?」
「はい、ガッテン承知の助で御座います」
漲る射手。私はエアルに乗って疾駆します。なんとも言えない心強さを感じ、それは馬との以心伝心の感覚。狙う位置に応じて体躯を左右へと移動させる馬体は、矢を放つ時には振動を最小限に留める。エアルの心配りを感じます。そして、起用に立ちまわりながらも前の二人に後れを取らない素晴らしい走りを見せて頂きました。
○
「反転!」
暫く駆け、草原は枯れ野まじりに。雄大な平地に猛々しい声が響き渡りました。私達の前方から数騎がかけて来ます。敵をなぎ倒すかの如く強引にな太刀を振るい。土塊が宙を舞っていました。
「テムジン!」
近づく騎手の先頭に向けて、ボルテの声が響きます。
「ボルテ、そんなに俺に会いたいからって」
「違うのですわ。お兄様。コデエアラルにサチャベキの姿は見つからなかったそうです。だからこうしてアチの力を借りて、お姉様と」
「テムジン聞いて。このまま突っ込んだら、馬人達とキヤトの民と、刀を交えることになるの」
腕を組みつつ、若くも逞しいキヤトの長は思考を巡らしてる様子でした。
「それも致し方なし……といいたいところではあるが、さすがにこれは相手方の罠。……して、その大事そうに抱える鉄鍋は?」
「テムルンとアチの合作よ。アイデアは私……と言いたいところだけど。エアルが考えたの。これならば被害を最小限に、サチャベキだけを討てるハズよ」
「うむ、馬人の考えか……」
「お兄ちゃん!今は馬人とか人間とか区別してる場合じゃなくて……」
「エアル……立派になったな。そうか、アチ殿を乗せたか。うむ、テムルンを守ってくれたこと感謝する。ありがとう」
優し気な。それは、まさに兄の顔でした。
「再度、我が軍は反転する。ベルグティは、ボルテとテムルンを連れて後退しろ。カサルはアチを全力で守り切れ。突っ込むぞ!」
「お兄様!わたくしも……」
「テムルン。此処からは本当の
戦。重くのしかかる言葉に私はゴクリと生唾を鳴らします。
「カサル。もう草原の掟に従うことはない。ダイルが金國と同盟を結んだのだ。皆も聞け。キヤトの民を助けよ!キヤトの馬人を助けよ。そして……キヤト長、テムジンが命ずる。必ずやアチを守り切れ!」
雄たけびを上げるテムジンさんの後ろを、私はエアルと共に疾駆しました。草原に一際大きく響く
○
私には見えた。怒涛の勢いで馬を走らせてる可憐な馬耳の乙女の姿。輝かしい矢を放ち、一目散に私の元へと近づいてくる。まさに赤い糸を手繰り寄せるかのような素晴らしい光景だ。まさに愛だ「素晴らしき愛の巡り合わせだ」
「流石は愛の伝道師、ダイルさん。やはり、この人こそ、僕の師匠に相応しい」
「五月蝿いぞ、タグルタイ!どいつもこいつも愛だの恋だの騒ぎやがって……俺を無視しやがって、だから嫌いなんだ。オマエだって俺と変わらない。ただのボッチじゃないか。人という漢字は支え合ってるんだ。じゃあ、なんで誰も俺を支えてくれない。こんなにキヤトの民に尽くしたというのに、こんなにタイチウトに尽くしたというのに……みんなして、みんなして裏切りやがって、誰も俺に手紙を返してくれないんだぁ〜」
「重いのよ。自分勝手に解釈して。だいたいね。草原の人間が文字を理解出来るわけないじゃない。バッカじゃないの。乙女の手紙に勝手に添削いれて……デリカシーがないのよ。愛を知らないのに欲しいとか、それこそ笑止千万よ」
「エアル!」私は叫んでいた。馬人になりて佇む彼女。そして、その横に見ゆる。そこには仁王立ちする麗しの姫君。
――怒った顔も素敵だ
ゴーレムと馬人の罵詈雑言が交わされる最中、私はアチに見惚れていた。
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