神階への塔

さっくさく

第1話 転生

学歴が重視されたこの世界。

浪人も今年でおしまいにしたい。


私の名前は神田由子。

東大の合格発表に来ている。


東京大学に二浪して、

私ももう二十歳になる。


二浪したと言っても、

別にサボっていた訳ではない。


私は主人公体質だから、

努力しても成長し辛いのだ!


合格発表を前に、

モン◯ターエ◯ジーを一本。

受験前は、徹夜勉強のお供だった。


徹夜は体に良くないが、

受験の為ならば仕方がない。


有名な赤い門を潜る。

この門ももう見慣れたが、

不思議と気持ちが高まる。


合格発表の紙が貼られている。

私は開幕を待機したりはしない。


私の様なおばさんが、

卒業生に混じるのは気がひけるから。


人が減ったボードの前で、

自分の受験番号を探す。


「あれ?おかしいな…?」


受験票を見直す。

合格発表も何度も見た。


「私が…私が…!」


「合格っしたーーー!!」


そこには私の受験番号が、

たしかにはっきりと書かれていた。


「努力した甲斐があったーー!!」


長い間受験に縛られ続けた彼女は、

開放された様に深くため息をついた。


彼女は誰より自由でありたかった。

その為に自分を縛って努力をした。

そんな矛盾を抱えながら挑んだのだ。


幸せを噛み締める様に目を閉じる。


その時、少し違和感を感じた。


「身体がふわふわする。」


「合格って、こんなに嬉しいんだ。」


世界の狭間を漂っている様な感覚だ。

最早何も見えないし、聞こえない。


「この世の物じゃない感覚だ。」


「気持ちいい。」


今までで最高の気分だった。

まるで、世界が変わった様な…。


「世界が変わった?」


今度は足に確かな感触を感じる。


恐る恐る目を開けると、

そこに東大はなかった。


「なんで…。」


目の前には草原が広がっている。

遠くに大きな街があるのも見えるが、

今はそんな事はどうでもいい。


「状況が呑み込めないんですが…?」


自分の足元を見ると、

そこには黒い剣と手紙が落ちていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


おめでとう!君は転生したんだ。

日本人って転生がすきなんだろ?

僕は君をこの世界に転生させた。


そこにある剣を受け取るが良い。

それは呪剣じゅけん。強い力を得る代わりに、

君の嫌いな物を能力として扱う。


いわゆる代償ありチート能力だ。

異世界ライフを楽しんでくれよ。


            ー神より

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


そこに書かれていたのは、

今日東大に合格した私にとって、

見るに耐えない最悪の現実だった。


「折角、合格したのに…。」


戸惑いが隠せず、

私はその場に泣き崩れた。


「私、転生しちゃった…。」


今まで辛かった浪人期間。

その重さが小さい肩にのしかかる。


「東大…行きたかった…。」


泣いても仕方が無いのは知ってるが、

今は誰も私を責めれないのだと思う。


元の世界で自由に生きる事、

その夢が直ぐそこまで迫ってたのに。


どれだけ泣いただろう。

辺りは暗くなり、また日が上った。


さすがに心を落ち着かせた私は、

涙を拭って一歩踏み出した。


私は努力の尊さを知っている。

どれだけ自分の成長が遅くても、

いつか必ず報われるって知ってる。


力強く地面を踏みしめて、

戦う決意を胸に、呪剣を手にする。


そして空を睨みつける様にして、

私は強く、強く、誓うように叫んだ。


「私は行くよ…!」


「自由に生きる為に!」


「元の世界に戻る為に!」


「私を召喚した神を、ぶっ飛ばす!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る