第24話 その買い物は誰のため?
「え、アリスちゃん今日出かけるの?」
ある日曜日。
アリスちゃんが余所行きの服を着ていたので訊いてみると、彼女は「うん」と頷いた。
「クラスの友達と約束があるの」
「そうなんだ……」
珍しい。休日は……ていうか、いつも私と過ごすのに。
「今日はお夕食も食べてくるから」
アリスちゃんは行ってきますと言って家を出た。
私はといえば……
気になる……めっちゃ気になるっ!
アリスちゃんが友達とどこかに出かけるなんて、初めてのことだ。
一体、誰とどこに行くんだろう? まさかカレシ……はないよね、うん。
……って、何をそんなに気にしてるんだろう。
別に友達と遊びに行くくらい普通じゃん。私も井上と出かけることくらいあるし。
そもそも今までが一緒にいすぎたんだよね、うん。うん……
私も外出することにした。
特に意味はないけど、いい天気だし、散歩でもしようと思って。あと本屋にでも行こうかと思って。それだけ。
特に意味はないけど、街をブラブラしていたら、アリスちゃんを見つけた。でも……
あれ? アリスちゃん、一人だ。
友達と約束があるって言ってたのに……どうしてだろう?
まさかと思うけど、ケンカしちゃったとか?
もしそうなら大変だ。そういうのって、時間が経つほど仲直りしにくくなるし。
何なら私が仲を取り持って……いやいや、まだそうと決まったわけじゃないし、アリスちゃん私より人付き合いうまそうだし、大丈夫だよね、多分。
約束の時間までまだあって、適当にブラブラしてるだけかもだし。
とりあえず様子を見よう。
アリスちゃんはまずコンビニに寄った。
何を買うのかと思ったらペットボトルのお茶だった。
次は本屋だ。
参考書を見たり、推理小説を見たりしてた。興味持ってくれたのかなあ……
って、えぇっ!?
自分の目を疑った。
見間違いじゃなければ、今アリスちゃんが入ったのは、十八禁コーナーだ。
え、嘘でしょ? アリスちゃんまだ誕生日前だから十五歳だよね!?
ど、どうしよう……どうすればいいんだろう? 注意とかしたほうがいいのかな? ていうか……
アリスちゃんも、そういうことに興味あるんだ。
いや、そりゃそうだよね。だって、私にあんなことしてくるわけだし……
よしっ! 追いかけなきゃ!
アリスちゃんは、今、家で預かってるわけだから、こういうことは私が気をつけないと!
と、その瞬間。
アリスちゃんが十八禁コーナーから出てきた。ので、私は慌てて隠れる。
彼女はそのままレジにむかっていく。
……えっ、まさか、買ったの!? 本当に!?
ど、どんな本買ったんだろう……
なんて思っているうちにアリスちゃんは会計をすませてしまったので、私は慌てて後を追わなきゃいけなかった。
次はアパレルショップだ。
もうすぐ夏だし、夏服の新作でも見るのかなあと思っていたけど……
また、目を疑う。
結局アパレルショップはすぐに出てしまい、次にむかったのはランジェリーショップだった。
見ているのは、その……派手なやつだ。
透けてたり、面積が小さかったり、ヒモだったり……もう、なんでそんなのばっかり!
アリスちゃんまだ高校生じゃん! そんなのばっかりつけて学校行くなんて、それはちょっとアレなんじゃないかなあ!
なんて一人で悶々としているうちに、アリスちゃんは下着を買って(Tバック!)店を出て、今度はディスカウントストアに行ったかと思うと、また十八禁コーナーに……
ってまた!?
思わず、心の中で突っ込んでしまう。
でもだって! そんなのばっかじゃん! 普通の買い物コンビニで買ったお茶だけじゃん! 後のは高校一年生の女の子がするようなのじゃないじゃん!
私高校生の時そんな買い物しなかったよ!? ……いや、嘘。十八歳になってから、ちょっとだけその……そういうの買ったことあるけど。でも一年生の時は買ってないし!
「お姉ちゃん」
急に呼ばれて、その場で飛び上がるくらいにビックリした。
後ろを見ると、そこにはいつの間にか、アリスちゃんが……
「何してるの? お姉ちゃんもお買い物?」
「う、うん。まあね……」
どもりながら何とか答える。でも、
「嘘だよね」
あっさり、そう言われた。
「お姉ちゃんさ、ずっとつけてたでしょ、私のこと」
き、気づかれてたんだ……
あれっ? じゃあ、気づいててあんなこと……!?
「どうしてつけてきたの?」
考える間もなく、一歩、距離を詰められる。
「そ、それはその、心配になって……」
私はといえば、その場から動けなくなってしまう。まるで、縫い付けられたみたいに。
「心配って、どういうこと?」
「だって、アリスちゃんが休日に友達と出かけるなんて初めてだし、その……誰と行くのかなあ、みたいな……」
言い訳するみたいになっちゃった。
今になって後ろめたさが出てきたからかな。
アリスちゃんにだってプライベートはあるのに。後をつけるなんて、ひどいことしちゃったよね……
「私が男の子とどこかに行くんじゃって思ったの?」
見事にいい当てられて何も言えなくなる。でもどうしてか、アリスちゃんがどんな顔をしているのかは分かってしまう。
「ひどいなあ」
引き寄せられるみたいに、私の目はアリスちゃんを見た。
やっぱり思った通り。彼女の顔には、いたずらっぽい笑みが浮かんでいる。
「私って、そんなに信用ないの?」
「そういうわけじゃ……」
ない。もちろんそうだ。でも……
気になっちゃうんだもん! しょうがないじゃん!
なんて、逆ギレできるはずもなく。
「じゃあ、どうしてつけてきたの?」
「……嫉妬、かも」
正直に言ってしまった。
「いつもは私と一緒に過ごすのに、今日は誰となんだろうって思って、それで……」
「私、今お姉ちゃんと一緒にいるよ」
また一歩、アリスちゃんが近づいてくる。
今度は、私は動くことができた。
後ろにではなく、前に。
ちょっと背伸びをすると……
アリスちゃんは、私を受け入れてくれた。
この感じ、好き。
すごくドキドキして、ダメなのに止められない。やばっ、癖になりそう……
誰かに見られたらどうしよう。どうなっちゃうんだろう?
見られたくないっていう気持ちと好奇心とがせめぎ合って、もうおかしくなりそう。
……ていうか、もうなってるかも。
私、どうしちゃったんだろ……
「でも、どうして友達と出かけるなんて言ったの?」
家に帰ってから訊いてみた。
するとアリスちゃんは「ちょっと待ってて」と言って私の部屋から出て行って、キレイに包装された紙袋を持ってきた。
「お姉ちゃんに、これをプレゼントしたくて」
「プレゼント?」
「うん。いつもお世話になってるし、何かお礼がしたいと思ったの」
「そんなこと気にしなくていいのに……」
「そんな訳にいかないよ。……受け取ってくれる?」
ひょっとして照れてるのかな? アリスちゃんは恥ずかしそう。
なんだか可愛くて、私はすこし笑ってしまった。
「もちろん。ありがとう……開けてもいい?」
アリスちゃんが頷いてくれたので開けてみる。そこに入っていたのは……
「これ、下着、だね……」
さっきまで笑っていた顔が、一瞬で引きつるのが自分でも分かる。
だって、アリスちゃんが持ってきた下着は、アレなやつだ。
Tバックだ。白の、Tバック。しかも、フロント部分は透けてるっ!
冗談でしょ!? これじゃ何も隠せないじゃんっ!
「お姉ちゃんに似合いそうだなあと思って」
そういえば、ランジェリーショップで買い物してたっけ。……ちょっと予想外過ぎるよ。
でもアリスちゃんは、なんだか満足そうな顔。だから私は、つい言ってしまった。
「ありがとう、大切にするね」
とはいえ……
流石にどうしよう、これ。いつ使えばいいのこれ。
どうしよう、超困った。でも……
「よかったあ、お姉ちゃんが喜んでくれて」
まあ、いっか。アリスちゃん、なんだかうれしそうだし。
……いや、別に喜んではないんだけどね。
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