33話「拮抗」
――では、とりあえず邪魔者から始末しましょうか
カレンの目的は、元勇者パーティーのみだった。
そのため、今その間に立ちふさがっているこの魔王を名乗る女が取り急ぎ邪魔だった。
――さっさと掃除して、早くメインディッシュを頂きたいものですわね
カレンは早速、邪魔者の掃除に取り掛かる。
「さぁ、いらっしゃい眷属たち」
カレンがそう声を上げると共に、無数の蝙蝠のような黒い影が現れる。
夜だというのにその黒い姿ははっきりと見え、漆黒の蝙蝠は一瞬にしてイザベラの周囲を360度取り囲む。
「――何の小細工じゃ?」
「ふふ、やっておしまい」
イザベラの挑発にも動じないカレンは、とりあえず邪魔者を退かすべく眷属たちに命令を送る。
その命令に応じて、無数の漆黒の蝙蝠は一斉にイザベラ目がけて襲い掛かる。
「くっ!小賢しいわ!」
無数の蝙蝠はイザベラにより簡単に屠られていく。
しかしその屠る速度以上に、絶え間なく襲い掛かる蝙蝠の方が僅かに押し勝ち、魔王であるイザベラでも捌き切ることができない。
その結果、イザベラは堪らず瞬間移動を行い、蝙蝠の群れから逃れる。
こうして生まれた間を利用して、イザベラは何とか蝙蝠の対処をする。
「あら、上手に避けるのね♪じゃあこれはどう?」
しかし、カレンは攻撃の手を緩めるどころか更に激しくする。
なんと、際限なく出現する無数の蝙蝠だけでなく、同じく漆黒の狼の群れまで合わせて出現させたのである。
宙を駆ける狼は一斉にイザベラ目がけて襲い掛かることで、ただでさえ対処するだけでギリギリだったイザベラの余裕は完全に無くなる。
「小賢しい!!いでよ!!」
これには堪らずイザベラも反撃に出る。
カレンの生み出す狼の数十倍はある黒龍を生み出すと、襲い掛かる狼と蝙蝠の群れを一瞬で飲み込んでいく。
「あら、やるじゃない」
見る見る自らの眷属たちが数を減らしていく様を見ながら、カレンは面白そうに笑っていた。
その様子から、カレンにはまだまだ余裕があることにイザベラは眉を顰める。
「随分と余裕じゃのう」
「だって、仕方ないじゃない。余裕なんですもの」
イザベラの挑発に対し、カレンは不適に微笑む。
魔王と対峙してこの余裕、それだけSランク冒険者の序列一位の実力は本物なのであった。
しかし、それはイザベラにとっても同じことだった。
確かに無数の蝙蝠の対処には遅れをとってしまった。
だが、それだけなのだ。
仮にあのまま攻撃を受け続けていたとしても、あの程度の攻撃で自然治癒能力を持つイザベラがやられる事は無い。
しかし、魔王としてそんな状況を受け入れるわけにはいかないし、何よりミレイラにこの場を任せて欲しいと頼み込んだ手前そのままで居られるはずがなかった。
だからイザベラは決める――もうこれ以上は、この女の好きにはさせないと。
だが、カレンの実力は未だ不明。
不用意な行動は足元を掬われる可能性はゼロではないため、まずは黒龍をカレン目がけて突進させて様子を見る事にした。
まさに理不尽の塊である黒龍はイザベラにとっての得意技の一つであるが、以前ミレイラに簡単に無効化されて以来もう己の力に驕ったりはしない。
相手の実力は未知数である事を踏まえて、防がれた際の対処について思考を巡らす。
そして、不意の予測は現実となる。
カレンの前まで迫ったところで、黒龍の動きがピタリと止まってしまったのだ。
通常触れる事すら不可能な黒龍の動きが封じられた事に、イザベラは思わず笑ってしまう。
――困ったのぅ
ミレイラ程ではない、それは確かだ。
しかし、どうしてか黒龍の動きを止められている現実に、ミレイラは笑うしかなかった。
だがそれは、悲観によるものではなかった。
その込み上げる感情は、正しく喜びだった。
魔族でも滅多にいない強者の存在に、イザベラは魔王としての高ぶりを感じてしまう。
グオオオオオオ!
獣のような雄叫びが響き渡る。
そして動きの止められた黒龍の前に、立ちふさがる漆黒の獣が姿を現す。
「虎、か――。ふん、面白い。龍虎対決というわけか」
「そうね。まさかわたしの眷属と互角だなんて、驚いたわ」
黒龍が止められた事に驚いたが、それはカレンにとっても同じだった。
カレンにとってもとっておきだったこの漆黒の虎が力で押す事が出来ない状況には、不測の事態だったのである。
だからこそ、力が拮抗する相手の存在に先程までの余裕はもう無くなっていた。
「しかし、魔王である我と張り合う人間がおるとはな」
「あら、褒めてくれてるのかしら?」
「ああ、貴様なら勇者など目じゃなかろうて」
「ふふ、どうかしら」
漆黒の死神の異名を持つカレンは、全身に漆黒のオーラを纏わせる。
そしてその手には、同じく漆黒の鎌が握られる。
その様子から、いよいよ相手も本気だという事を感じ取ったイザベラは不敵に微笑む。
「誉めてやろう人間。我を本気にさせた人間は、貴様が二人目じゃ」
「あら?初めてじゃないの?」
「そうじゃな、遥か昔に一人だけおったのぅ」
「ふーん、じゃあアレは違うのね」
残念そうに呟くカレンの視線の先にいるのは、黙って戦況を見つめているミレイラだった。
既に手合わせはしていると踏んでいるのだろう、だからこそ遥か昔という言葉にミレイラはそれじゃないと理解したのだろう。
だからイザベラは、馬鹿にするように吹き出して笑ってしまう。
そんなイザベラの様子に、カレンは不愉快そうに少し眉を顰める。
「――馬鹿者、相手を見てものを言え」
「――どういう意味かしら?」
「ふん、それが分からぬのならば、貴様もそれまでの存在ということじゃの」
「なに?――まぁいいわ、さっさと貴女を倒して、次はアレと戦うだけだから」
鎌の切っ先をイザベラに向けるカレン。
対して、そんなカレンをあざ笑いながら構えるイザベラ。
こうして二人の戦いは、第二ラウンドへ突入するのであった――。
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