14話「姉さん」

「よかろう!その話乗ったぁ!!」


 突然目の前のフードを被った少女がそう胸を張って高らかに宣言した。

 しかし、今の話を聞いていたのだろうか、正直彼女が何を言っているのか全く意味が分からなかった。


 ミレイラは、魔王が僕に平伏すなら何もしないという一番訳の分からない事を言い出したわけであって、それに対してどうしてこの少女が分かったと返事をするのか、全然意味が分からなかった。



「あ、あの、乗ったって、どういう事ですか?」


 ちょっと呆れながら、デイルは少女に向かって質問した。


 すると少女は不敵に笑ったかと思うと、その被っていたフードを勢いよく外した。


 フードを外した少女は、綺麗なサラサラとした銀髪をしていて、そしてその額からは何故か黒い綺麗な角が二本にょきっと生えているのであった。



 ――つまりそれは、この少女が人間ではないという事を意味していた。



「我の名は、イザベラ――魔王イザベラじゃ!」


 そして少女は、胸を張って腕を組みながら、高らかにそう宣言したのであった――。



 ◇



 突然の魔王襲来に、ざわつく店内。

 それも無理はなく、いきなり魔族のトップである魔王を自称する存在が、こんな外れの街にある飲食店に現れたのだから無理もない。


 近くで朝食をとっていた他の冒険者は、驚きすぎてご飯を喉に詰まらせてしまっていた。



「ほ、本当に魔王――?」

「おい貴様!無礼であるぞっ!」


 しかし、確かに魔族なのは分かったけど、彼女が本当に魔王かどうか信じられなかった僕は、ちょっと疑うように思わずそう質問してしまった。


 すると、後ろに控えていた二人が僕に対して敵意をむき出しにして、隠していた殺気を一気に解き放ってきた。


 その圧は、確かにこれまでの冒険で戦ってきたどの魔族や魔物達よりも凄まじく、彼らが魔王軍の幹部クラスの実力者だという事はすぐに体感として分かった。



「やめぃ!!貴様ら話を聞いていたのかっ!!」


 しかし、そんな凄まじい殺気を放つ二人に向かってイザベラがそう一喝すると、二人は「すみません!」と慌ててその殺気を引っ込めてくれたのであった。



「部下がすまんかった」


 そして、イザベラは僕に向かってペコリとその頭を下げてきた。

 こんな二人を従えているのであれば、イザベラが魔王というのももしかしたら真実なのかもしれないと思った。



「確かに、我が魔王だと信じて貰う必要はあるじゃろう。そこでどうじゃ?そこの女と我とで試合をするというのは?」


 イザベラは不敵に微笑みながら、ミレイラに向かってそう提案してきた。

 確かにミレイラと戦ってみれば、その実力も一目瞭然と言える。



「――ミレイラ」

「は?」

「――そこの女じゃない、ミレイラ姉さんと呼びなさい」


「なっ!?」


 しかしミレイラは、無表情でイザベラの事を見ながら、淡々とした口調でそう返事をしたのであった。

 そしてミレイラは、先程の二人の比じゃない謎の圧を解き放つ。



「……わ、分かった、ミ、ミレイラ……姉さん……頼む……」


「「魔王様!?」」


 ミレイラの放つ圧に気圧されるように、悔しそうに、そして恥ずかしそうにそう小さい声で言い直したイザベラ。

 その様子に後ろの二人は大きく驚き、思わず声を上げてしまっていた。



「だ、黙れ!これも目的のためじゃ!貴様らはいい加減黙っておれ!!」


 イザベラは恥ずかしがるように、驚く二人に向かってそう釘を刺した。

 確かに、本当にイザベラが魔王だった場合――うん、後ろの二人の気持ちはとてもよく分かる気がする。



「いいよ、相手してあげる」


 言いつけを守ったイザベラに、ミレイラはどこか満足そうにいいよと返事をした。

 そしてミレイラは、今度は僕の方を向いてその口を開いた。



「――この戦いに勝った方が、今晩一日デイルに抱っこして貰いながら寝れる。オーケー?」


 片手でグーポーズを作りながらそう言うミレイラに呆れる僕と、「何の話じゃ!?」と慌てるイザベラ。



 こうして、ミレイラの言っている事はともかくとして、急遽ミレイラとイザベラの模擬試合が行われる事となったのであった。


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