勇者に追放された僕は、身の程を弁えて実家へ帰ります~今更戻りたいと言ってももう遅い、らしい?~
こりんさん@コミカライズ2巻5/9発売
プロローグ
僕の名前はデイル。
今は幼馴染でもある勇者カリム達と共に、打倒魔王を掲げて冒険中だ!
僕とカリム、そして他にも幼馴染3人を合わせたこの仲良し5人組で、勇者パーティーとしてこれまで世界各地を旅してきた。
何故幼馴染の僕たちが今こうして勇者パーティーとして旅しているかというと、それはある日突然神に祝福されたからだ。
神に祝福された僕たちは、それぞれ人並外れた能力を神から授かったのだ。
魔王を滅ぼすための聖剣に唯一選ばれし者、勇者カリム。
あらゆる攻撃から必ず味方を守り切る、絶対の盾ガレス。
どんな大魔術も巧みに使いこなす、大魔導士ミレイラ。
そして、全ての傷を癒すことができる、聖女アリシア。
僕たちは、それぞれが持つ類まれなる才能を武器に、これまで例え魔王軍の幹部が相手でも全てに勝利を収めてきたのだ。
そんなとても頼りになる幼馴染たちだけれど、僕だって同じく神の祝福された能力を持っている。
それは、どんな魔物でもテイムできるビーストテイマーの能力だ。
この能力は、他のみんなに比べるとかなり地味だけど、例えば暗いダンジョンの中でコウモリをテイムして道案内させたり、他にも鳥をテイムして敵の軍団の基地を視察したり、時には狂暴な魔物をテイムして戦いに加わったりと、僕は主に幼馴染たちのサポート役としてこれまで頑張ってきた。
僕は、絶対カリムならいつか魔王も討ってくれると信じて、これまで必死にサポート役を務めてきたのだ。
だけど、そんなある日の夜、僕はカリム達に宿の部屋へと呼び出された。
何事だろうと思いながらも部屋に入ると、そこには椅子に座ったカリムの隣に、ガレス、ミレイラ、そしてアリシアが立っていた。
いつもと違うみんなの様子に、僕は一体何事だろう思っていると、椅子に座ったカリムがゆっくりと口を開いた。
「デイル……悪いが、お前はもう俺達のパーティーに必要ない」
「……えっ?」
僕はその言葉を言われた途端、頭が真っ白になった。
僕がパーティーに必要ない?
それって……つまりそれって……。
「今日限りで、お前は俺達のパーティーを外れてもらう」
そしてカリムは、僕の恐れていた通りの言葉を口にした。
……そっか、もう僕の力は必要ないんだね……。
でも、なんとなくそんな気はしてたんだ。
他のみんなに比べて、僕の力は弱すぎるから……。
そして僕は、他の3人にも目を向けた。
すると、ガレスはよく言ったカリムというように少し嫌らしい笑みを浮かべ、ミレイラはいつもの無表情で僕の事を冷めた目で見ており、そしてアリシアまでも申し訳無さそうな顔をしているが否定をしてくれなかった。
――ショックだった。
これまで仲間だと思って一緒に冒険してきた幼馴染たちに、こうもあっさりと切り捨てられてしまったことが。
「そういうわけだ。まぁ、デイルはこの先一緒について来ても近いうち死んじまうのがオチだ。お前を守りきれる保証もねーし、ここいらが潮時だと思ってくれ」
絶対の盾と言われるガレスに、守れないと切り捨てられる。
「……私も同意する。ここより先はデイルには無理」
大魔導士であるミレイラにも、ばっさりと切り捨てられる。
「……ごめんなさいね、デイル。でも、これも貴方のためなのよ」
そして、最後の頼みの綱だと思っていた聖女アリシアにまで切り捨てられる。
そっか、もうみんな僕の力は必要ないって事なんだね……。
こうして遠回しに全員から『足手まとい』だと言われた僕は、全てを諦めた。
「分かったよ。今までありがとう……」
そう言って、僕はすぐに部屋を出た。
そして扉を閉めると、僕はそのままその扉にもたれかかった。
あぁ、もうみんなと旅する事は出来ないんだなと思うと、自然と涙が溢れてきた。
僕だって、まだまだ戦えるんだけどな……。
◇
「よーし、これでやっと4人で旅できるな!」
すると部屋の中から、まるで邪魔者がいなくなったというように楽しそうなガレスの声が聞こえてきた。
「もう、ガレスったら。デイルが可哀そうじゃない」
「まぁいいじゃねーか、これで俺はアリシアと、それにカリムはミレイラと余計な邪魔なくイチャイチャ出来るんだからよっ!そうだろカリム?」
え、今なんて言った?イチャイチャってなんだ?
「あぁ、そうだな」
そんなガレスの言葉を、楽しそうに肯定するカリムの声までも聞こえてくる。
なんだよ、それ……なんなんだよ!!
「しっかし、絶対デイルの奴アリシアの事好きだったよな?俺と付き合ってるのにウケるわ!」
「もう、やめなさいってば!」
僕の事を笑うガレスを、叱りながらもちょっと甘い感じの言葉でいうアリシアの声が聞こえてきた。
そっか、アリシアはガレスと付き合ってたんだ……。
……じゃあもう、このパーティーにはどのみち居られなかったんだな。
こんなの、きつすぎるから……。
小さい頃、アリシアはいつも僕の側に居てくれた。
『わたしおっきくなったら、デイルのおよめさんになるっ!』
そう微笑みながら言ってくれたアリシアの顔を、僕は今でも忘れられない。
でも、今のアリシアはもうあの頃のアリシアじゃないんだね。
思えば、確かにアリシアとガレスが一緒に居ることが多かったような気がする。
野営をしているとき、二人はよく一緒に周囲の警戒に出かけた事とかあったけど……そっか、そういう事だったんだね……。
そして口ぶりから察するに、それはアリシアだけではなくきっとカリムとミレイラも……
あぁ……もう消えてなくなりたいな……
とりあえず、実家に帰ろうかな……
もうしばらくは、人を信じれそうにもないや……
そう思った僕は、ゆっくりと扉から背を離して歩き出した。
別に朝になってから出ていっても良かったのだけれど、もう同じ建物に居るのも今の僕には正直キツかった。
そうして僕がヨロヨロと歩き出すと、さっきまでもたれていた扉が開く音がした。
――あ、やばいな
お前まだ居たの?って笑われちゃうかな……まぁもうどうでもいいや、さっさと実家に帰ろう。
そう思い、僕は振り返ることなく出口に向かって歩みを止めなかった。
だが、そんな僕にどんどん迫ってくる一つの足音。
もう、勘弁してくれよと思いながら僕は無視をして歩き続ける。
「……まって、デイル」
そして、無視をして歩く僕の手を掴んだのは――ミレイラだった。
そんなまさかの相手に、僕は驚いて後ろを振り返った。
「ミレ……イラ……?」
「……ごめんね、デイル」
そう言って、涙を流す僕の目元をハンカチで拭いてくれるミレイラ。
「どうして、ミレイラが……?カリムと付き合ってるんでしょ……?」
「ちがう」
疑う僕の言葉を、即答で否定したミレイラ。
「いや、でもさっき……」
「カリムが勝手にそう思ってるだけ、迷惑」
いつも無表情なミレイラだが、少しだけ不愉快そうな顔をしながらそう言った。
なんだ?もう何がどうなっているのか、僕にはよくわからなくなってしまった。
すると、再び扉の開く音がすると、部屋の中からカリム達が出てきた。
「おいミレイラ。何してるんだ?」
ミレイラが僕の手をとっていることに気が付いたカリムが、不機嫌そうにミレイラを問い詰める。
「何って、デイルの手を握っている」
「離すんだ。もうそいつは俺達のパーティーじゃないんだ」
「でも、幼馴染」
「それはそうかもしれないが……ミレイラ、お前は俺のもとに来い。ずっと勇者である俺の隣にいて、そして支えてくれ」
このタイミングで、まさかの告白をするカリム。
勇者であるカリムは、言っちゃえば世界中の女性からモテる。
それはカリムだけではなく、同じ勇者パーティーのガレスもそう。
二人とも、背が高く男らしい整った顔付きをしており、例え勇者とその仲間で無くても普通にモテモテだった。
対して僕は、小柄で貧相な身体付きをしており、我ながら女々しいこの容姿がずっとコンプレックスだった。
それに、ミレイラにアリシアもそのとても整った容姿に才能が相まってかなりモテるのだ。
小柄で色白な肌をしたミレイラは、その珍しい黒髪が特徴的で、見る人の目を奪う美しさがあった。
またその無口なキャラも愛らしく、そんなミレイラのファンは多い。
そしてアリシアは、すらっと背が高いけど、出るところは出た抜群のプロポーションをしており、サラサラの金髪のストレートヘアーはただただ美しい高嶺の花という言葉がしっくりくる美少女だ。
だが、そんなガレスとアリシアは裏で付き合っていて、カリムはミレイラの事が好きで……なんだこれ?もう本当にわけがわからない………。
「無理」
「は?」
だが、そんなカリムの告白を一言で拒絶してしまったミレイラ。
絶対受け入れてくれると思っていたのであろうカリムは、まさかのミレイラからの拒絶にひどく驚いていた。
「な、なんで……」
「無理だから」
「だ、だってあの時!お前は俺の手を取って賛成してくれただろ!?」
「それは、この時のため仕方なくしたこと。わたしはカリムのこと、好きでもなんでもない。ううん、今はむしろ嫌い。大っ嫌い」
なんだかよく分からないが、カリムはミレイラは自分の事が好きと勘違いしていたようで、そしてミレイラはそんなカリムの事が大嫌いで……ダメだ、やっぱりよくわからない。
僕たちは幼馴染で、昨日までずっと一緒に冒険していたはずなのに、それなのに今はみんなの事が全く分からなくなってしまっていた事が、僕はただただ悲しかった。
「……なんだよ……なんだよそれっ!お前もデイルが抜けるのに賛成してくれただろ!?これからは4人で冒険しようって俺の手を取って!!」
「デイルがもう限界だと思ったのは本当。パーティーを抜けるべきだと思った」
「だったら!!」
「だから、わたしも抜けることにした」
「「「え?」」」
問い詰めるカリムに、とんでもない一言を告げるミレイラ。
そしてその一言に、3人は驚いて固まってしまっていた。
「お、おいミレイラ……嘘だろ……?」
「嘘じゃない」
またまた冗談をというガレスの言葉に、即答で嘘じゃないと答えるミレイラ。
「ど、どうしてミレイラも抜けるの?そしたら女の子はわたし一人になっちゃうじゃない?」
「ガレスがいれば問題ないでしょ」
同じく焦ったアリシアの言葉には、若干の嫌悪感を込めながら答えるミレイラ。
そして、ミレイラはそんなたじたじな3人に向かって決定的な言葉を言い放つ。
「わたしは、デイルが好き。だから、デイルのいるところにわたしがいる。それだけのこと」
そう言って、もう用は済んだとばかりに僕の手を取り歩き出すミレイラ。
「ちょ!ちょっと待ってくれ!!」
ひどく焦った様子のカリムが、去ろうとするミレイラを必死に食い止める。
「ミレイラがいないと、魔王は倒せない!今ここでミレイラに抜けられるのは困るんだ!」
「そ、そうだ!お前の魔術無くして、魔王に敵うかは正直怪しい!」
「そ、そうよミレイラ!思い直して!わたしたち、幼馴染でしょ!?」
みんなミレイラを食い止めようと必死だった。
彼らがここまで焦るのは、正直言ってこのパーティーでは勇者以上にミレイラの功績が一番大きいからだ。
魔王軍の幹部と戦った時も、恐らくミレイラが居なかったら負けていたかもしれない程に。
だからこそ、カリムはそんなミレイラにこれだけ固執しているのかもしれない。
だが僕は、そんな事よりこれまで信じていたアリシアの最後の言葉を聞いて、ひどく幻滅をしてしまった。
『わたしたち、幼馴染でしょ!?』
たった今、同じ幼馴染のはずの僕のことを追い出した君が、そんな言葉を口にするなんて思わなかったよ。
100年の恋も冷めるとは、まさにこの事なのだろう。
僕はもう、そんなアリシアを女性として……いや、もう幼馴染として見れるかも怪しくなってしまった。
「デイルの事を追放しておいて、随分勝手を言うのね」
そしてそんな3人に向かって、普段無感情なミレイラが珍しく怒りの感情を露にしながらそんな言葉を言い放った。
ミレイラが、僕の代わりに怒ってくれているのだ。
その事が、僕はたまらなく嬉しかった。
「な、ならデイルも一緒でいいから。さっきは悪かったなデイル!また一緒に冒険しよう!」
「そ、そうだ!俺も悪かったよ!だから帰ってきてくれないか?」
「ええ、そうね!デイル、わたしは本当は反対だったのよ?それにデイルとは、小さい頃からわたしが一番一緒に居たじゃない?」
ミレイラは戻ってくるつもりはないと悟ったカリム達は、あろうことかさっき追放した僕に向かって再びパーティーに戻ってきてくれと誘いだした。
これには、普段は温厚な僕でも流石にふざけるなよと思ってしまった。
「話にならない。行こう、デイル」
それはミレイラも同じ気持ちだったようで、再び僕の手を引いて歩き出すミレイラ。
そんな僕たち二人の事を、絶望的な表情で見つめる3人。
僕を追放したはずなのに、気が付いたら追放される側になってしまっていた3人の姿に、僕は正直スカッとした気持ちになっていた。
だがそんなミレイラは、突然ピタッと歩みを止めたかと思うと、何かを思い出したようにカリム達の方をくるりと振り返った。
その様子に、ミレイラが思い直してくれたと淡い期待をする3人。
だが、ミレイラの口からは全く予想もしなかった言葉が放たれた。
「そうだった。みんなは幼馴染だから力を与えていたけど、もう必要無いから返してもらうね」
ミレイラはそう言うと、無数の魔法陣を一斉に展開した。
こんな数の魔法陣は、魔王軍の幹部との闘いでも見た事がなかった。
だからこれが、とんでもない大魔術である事をこの場にいる全員がすぐに理解した。
「――リリース」
ミレイラがそう詠唱すると、その声に合わせて3人の身体から光り輝く球がポーンと勢いよく飛び出した。
そしてその球は、そのままミレイラの持つ杖の先端に吸収されていく。
「い、今のは一体……!?何をしたんだミレイラ!?」
ようやく正気を取り戻したカリムが、ミレイラに問い詰める。
「心配ない。みんなに与えていた力を返してもらっただけ」
「「「はぁ!?」」」
そんなカリムの問いかけに、いつもの様子で簡単に答えるミレイラ。
しかしその言葉の持つ意味は、本当ならとんでもない事だった。
3人は驚くと、まさかと思いながらも慌てて自分のスキルを確認した。
――だが誰一人、以前のようにスキルを使用できる者はいなかった。
それでやっと、さっきのミレイラの言ったことが真実だったと理解する。
「そ、そんなバカな……俺達は神に祝福されて力を……」
何度聖剣を呼び出そうとしても、聖剣が手元に現れない事に絶望するカリムが震えながらそう呟いた。
そうだ、たしかに僕たちは12歳の頃突然神に祝福され、とんでもない力を手にしたのだ。
それを、なんでミレイラが……?
「そんなの簡単。わたしが神だから」
絶望する3人に向かって、またしてもミレイラはとんでもない事を平然と言い放った。
ミレイラが……神?
いやいや、神ってそんな……と思ったけれど、たった今目の前で起きた出来事が全てを物語っていた。
人に類まれなる力を与え、そしてその力を奪う事もできる力。
そんなもの、神でもなければあり得ない次元の話だった。
「わたしは、デイルがいるから人の子として現れた。そして、幼馴染だからみんなにも力を与えた。だけど、みんなは自分たちの意思でこれまでを壊した」
ミレイラは、静かにそう告げる。
そして、
「大丈夫。こうなったら魔王ぐらいわたしがなんとかしておくから、みんなは実家にでも帰るといい」
そうミレイラは告げると、今度こそ宿から出ていくために歩き出した。
「ふざけるなよ……ふざけんなぁああああああああああ!!!!」
しかし、我を失ったカリムは怒りに任せて、あろう事か女性であるミレイラに向かって襲いかかろうとしてきた。
それはカリムだけでなく、ガレスも同じだった。
「大丈夫」
慌ててミレイラを守ろうとする僕の手をぎゅっと強く握りながら、ミレイラは優しくそう告げると一つの魔術を詠唱した。
「――グラビティ」
ミレイラの放った魔術により、襲い掛かろうとする二人の身体は一瞬にして地面に押し付けられるように這いつくばり、全く身動きが取れなくなってしまっていた。
そしてミレイラは、地面に這いつくばる2人と、ガタガタと震えて尻餅をついているアリシアに向かって静かに告げる。
「これは最後の忠告。幼馴染だからこの程度で許してあげるけど、これ以上何かするなら覚悟すること」
そんなミレイラから放たれた迷いのない言葉に、これ以上抗おうとする者はいなかった―――
◇
僕はミレイラに手を引かれながら、しばらく無言で歩いた。
そして、人気のないところまで連れてこられると、そこでようやくミレイラは歩みを止めて振り返る。
「デイル、本当に色々とごめんなさい……」
「え……?いや、むしろ僕の方こそ、その……庇ってくれてありがとう」
謝るミレイラに、僕は本当に嬉しかった気持ちを伝えた。
ミレイラがいなければ、僕はきっともう無理だったから……。
するとミレイラは、そんな僕の言葉が嬉しかったのか、少し頬を赤らめながら微笑んだ。
ミレイラが微笑む顔なんて、本当に久々見た気がする……
「もう大丈夫。デイルの側にはずっとわたしがいるから。だから……」
だから、なんだろう。
ミレイラはそう言うと、やっぱり頬を赤らめながら僕の顔を見て、そして言葉を続けた。
「……わたしと、付き合ってほしい」
「えっ?」
ミレイラからの突然の告白に驚き、僕は思わず変な声をあげてしまった。
「……ダメ?」
しかし、僕のそんな反応を見て、悲しそうな表情を浮かべるミレイラ。
「ダ、ダメじゃない!けどっ!」
「けど?」
けど、僕はついさっきまでアリシアに想いを寄せていたんだ。
それなのに、失恋したからってその勢いでミレイラを受け入れてしまうのはなんだか違うような気がしたのだ。
「勝手を言って悪いんだけど、僕はこれからしっかりミレイラと向き合いたいと思うんだ。だから、返事はしっかりと僕の気持ちが整理できるその時まで、もう少しだけ待ってほしい」
僕は、素直に思っている事を伝えた。
これから、僕はしっかりとミレイラと向き合いたい。
それでもし、ミレイラの事が本当に好きになれたなら、その時は改めて僕から告白をしようと心に決めた。
だからどうか、その時まで待っていてほしい。
「分かった。いつまででも、わたしは待つ」
優しく微笑んだミレイラは、そんな僕の気持ちを理解してくれたようだった。
そうして微笑むミレイラの顔は本当に可憐で美しく、さっそく僕はそんなミレイラに心を惹かれてしまっているのであった―――
◇
それから僕たちは、とりあえす今日はゆっくり休もうという事でさっきの宿とは別の宿へとやってきた。
「すみません、まだ部屋空いてますか?」
「空いてるよ、一部屋5ゴールドだ」
「それじゃあ、二部――」
「一部屋貸してください」
二部屋借りようとする僕の言葉を遮って、一部屋借りようとするミレイラ。
ちょっと待って!?これまで必ず男女は別々の部屋に泊まるってのが僕たちのルールだったよね!?
そう驚いて僕はミレイラの事を見ていると、ミレイラは有無を言わさずそのまますぐに宿泊の手続きを済ませてしまった。
そして、宿の店主はニヤニヤとしながら「ごゆっくりー♪」と部屋の鍵を一つ手渡してきた。
「さぁ、部屋へ行こうデイル」
「え、いや、でも……えぇ!?」
戸惑う僕の手を掴み、そのまま僕を部屋へと連行するミレイラ。
ミレイラって、こんな力あったっけ?という程、その握る手はとても力強かった。
「デイルは必ずわたしの事が好きになる。だから、余計な時間は不要」
そんな事を言いながら僕の腕を引っ張るミレイラだったが、その頬は真っ赤に染まっていた。
僕はそんな強引なミレイラが可笑しくて可愛くて、思わず笑ってしまった。
笑う僕に一瞬恥ずかしそうにしたミレイラだったが、あれから初めて笑った僕の顔を見て優しい笑みを浮かべるミレイラの顔に、僕は思わずドキッとしてしまったのであった。
そして、その日僕はミレイラの抱き枕として一晩共に過ごしたのであった。
これからどうなるんだろうなぁなんて思ったが、隣で幸せそうにスヤスヤと眠るミレイラの寝顔を見ていたら、とりあえずなるようになるかと思えてきた。
だから僕は、そんな眠るミレイラの頬っぺたをぎゅっと摘まんだ。
「いちゃい……ん……おはよう、デイル……」
「おはよう、ミレイラ」
目を覚まし微笑むミレイラを見て、僕はこんなミレイラだけは何があっても絶対に信じ続けようと心に誓った。
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