白い壁にはポストカードを貼る

 こころの穴を塞げる布を探してばかりで方法なんてまったく考えていない馬鹿だ。

 あしたはどう?

 ごめん、ちょっと忙しいかも

 そっか

 十九なら大丈夫そう

 十九は予定あるって言ったじゃん

 ごめん、そうだった

 ごめん、言われすぎるから辞書を引いた。なんてことない言葉が書いてあった。

 あいつはさ、どうしていっつも、ごめん、ですべてが済むと思ってるんだろ。不思議。地球上の七不思議を全生物の前で発表できる機会があるとしたなら、あいつの「ごめん」を提供しようと思う。世紀の大発見みたいに何度も言うんだもん。ごめんが解決してくれるんだもん。きっとあいつはごめんって言えば世界中にばらまかれた争いを止められると思ってる。あいつが死んだら棺桶にはごめんを入れてあげよう。あたしよりごめんが大好きなんだもんね。ごめんといっしょにいたいよね。天国でもごめんと楽しんでね。夏の吉祥寺は憂鬱なだけだから。

 転落防止柵に足を絡ませパンタグラフを見下ろす。MDプレイヤーを白い半月に見せつけ再生ボタンを押す。タイトル不明の気だるげなJ‐POP。あいつにしてはいい選曲。「そっか」

 あたし、あいつの聴く曲が好きで、あいつとつるむようになったんだっけ。

 六年前のバスの中。マイクはあいつに回った。「好きな曲歌っていいよ」気まずそうにレク係が言う。あたしは窓側の席からあいつを振り返って眺めて、たくやと肩を突き合ってた。んで、一か月後にはあいつと寝てた。セックスの最中にかかってた曲は何だっけ。ああ、ジレンマだ。あいつは決まってベッドの上ではあの曲を流した。

 十五で別れた。あたしが高校に進学できなかったから。それでも週末になると一緒にいた。

 レコードの間に文学雑誌が挟まるようになった。あたしたちは体を重ねなくなった。

「好きかなと思って」

 そう言って、あいつはMDを寄越してきた。

「充電器は? 」

「捨てた。だから聞ける分だけ」

 そっか。

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