少女に銃を 戦場に花束を

諏訪森翔

日常と新たな出会い

第1話

 曇り空

 いつものようにさんさんと照らしていた太陽は雲隠れし、風もどこか強く吹き荒れ始めてビルとビルの間を通り抜け、二人の少女にも吹きつける。

「来た?」

 そのうちの一人は風を受け、むき出しの基礎からピクリと顔を出して下を覗き見る。

「一つ、二つ…ん~いっぱい!」

「適当過ぎない?───正面からは不利だし、ここで待ち伏せよう」

 廃墟となったビル群の上から見下ろしながら黄色の髪色の少女は楽しそうな声ではしゃぐ紫色の髪をした少女へ落ち着いた声で指示を出す。

 指示を出された彼女は言われたとおり奇襲をかけるため鉄筋コンクリートの中身が目立つ柱に密着し、腰元のホルスターから黒光りする銃を取り出した。

 柱に密着しながら胸ポケットから怪しく光るアンプルの二つを取り出し、光に透かしながら大声で質問する。

「ねえ! これどっち使えばいいと思う!?」

 隣の柱に隠れていた少女は彼女を睨み、左手を上げた。

「うん。やっぱりこっちだよね」

 左手に持っていたアンプルを蓮根型の弾倉へ差し込み、カチャンと装填してからセーフティを外して立ち上がる。

「karararararara...」

 いつの間にか足元にゾロゾロと集まった緑色の化け物たちを見下ろしながらスライドの動作確認をすると銃身が先程差し込んだアンプルと同じ色に発光し始め、それを満足げな様子で頷く。

「さあ、行っくよお!」

 観察に使っていた長きにわたって晒された雨風によって劣化し生じた穴から飛び降り、一階下の化け物蔓延る床に着地する。

「バカ…!」

 隣の柱の影から見ていた黄髪の少女も同じようにアンプルを自身の銃に差し込み、側面を叩くと同様に発光したのを確認して高所優位を保てるよう見下ろす形で化け物たちに銃を構えた。

 一方、化け物の方は突然飛び降りてきた少女と自分たちを上から狙ってくる少女を交互に見る。

「恨みはないけど死んでちょうだい」

 一番近い所で棒立ちしていた化け物へ構えていた銃の引き金を引き、目の前に立つ化け物が透明な水のようなものをまき散らしながら倒れる。

 まき散らされた液体を被った他の化け物たちは震え、奇声を上げながら震える。

「aaaaaaaaa!!」

「じゃあね」

 銃を構え寂しそうにつぶやきながら、真っ先に背後から襲ってきた化け物にノールックで銃口を向け、トリガーを引く。

「aaaaa...」

「調子出てきた!」

 振り返りながら崩れ落ちる化け物を踏み台にして飛び上がり、宙を舞いながら連射する。放たれた弾丸の多くは命中し、液体をまき散らしながら倒れた。しかし倒れる数よりも襲い掛かってくる数の方が多く、段々と壁際に追い詰められた。

「やばい追い詰められた!──なーんちゃってね!」

 少女は焦燥感の漂っていた表情をけろりと変え、懐からピンの抜いた手榴弾のようなものを投げて背中を向ける。

 その直後に投げられた閃光手榴弾は破裂し、その場に光と音を撒き散らした。

「a?kaaaaaaaaaa!!」

「ナイスプレイ」

 上層で待機していた少女は突然の光量と音に驚いて動けない化け物たちの頭を的確に撃って数を減らす。

「kaaaaaa!!」

「上を見る余裕あるの?」

 そう言いながら吠える化け物たちに負けじと吠えるとこちらを向き、その瞬間に撃ち抜き壁の近くにあった狭い通路らしき場所へと逃げる。

 化け物たちは同じ階層で暴れる紫髪の少女に気を取られ、すっかり上から狙ってくる彼女の存在を忘れていた。

「うわ、アンプル切れた」

 逃げながら後ろから追いかけてきている化け物へ引き金を引いてもカチンカチンと軽い音を鳴らす銃の後部スライドを動かすと空のガラスアンプルが排莢され、床に激突し割れる音を通路に響かせる。

「これあんまり好きじゃないんだよねえ」

 胸ポケットに残っていた最後のアンプルを差し込み、スライドを戻すと先程までとは打って変わって青色に強く発光し髪の色も同様に変色する。

彼女は走るのを止めて追いかけてくる化け物たちへ振り返りながら照準を構える。

「Etiamsi ambulare in valle mortis umbra, non possum timere mea. Quia tu mecum es....(たとえ私が死の影の谷を歩もうとも、災いを恐れない。あなたが私と共にいるからだ――旧約聖書の詩篇、23篇4節より抜粋)」

 屯所で読んだ聖書の一節を思い出しながら復唱し、照準を据えると網膜上に様々な式が構築され、投影される。

「Omnia tibi cum caritate(あなたがする全てのことを、愛をもって行いなさい――新約聖書のコリント人への第一の手紙、16章14節より抜粋)」

 構築、投影された式の中心部に化け物を見据えた瞬間、トリガーを引く。

 軽い衝撃が肩を伝い、銃口から青い閃光が煌めき雪崩れ込む化け物たちを貫いた。

「aaaa...」

「ごめんね」

 貫かれても尚、こちらに迫ろうとする化け物たちに少女は銃を腰元のホルスターに収めて謝りながら先頭の一体に触れる。

 触れられた化け物は動きを止め、震える触手で彼女の頬に触れ返した。

 いつの間にか少女の髪の色は紫色に戻っており、化け物と抱擁を交わそうとした瞬間、銃声がして瀕死の化け物は砕け散った。

「何してんの。帰るよ」

 透明な液体を被り、立ちすくむ少女に冷淡な声で先程一緒にいた黄髪の少女が放ち、先に戻っていった。

「……」

 残された少女は周りを見る。

 直射日光が差し込むコンクリート建造物に違和感なほど生えている植物。それから自分がさっきまで走り抜けていた場所を歩くと一面緑色の植物で覆われており、まるで別の場所を歩いているように感じながら外へ出ると遅れてハラハラと舞ってきた花びらが髪にくっつく。

「これ…」

 花びらを見た少女はそれを握り締める。

「君たちも心があるんだね」

 舞ってきた花弁はカンパニュラ。先程まで廃墟だったビルは緑色の覆う建物となりすっかり先に行ってしまった黄髪の少女に声をかけながら走っていった。

「待ってよ~!」

 いつの間にか雲はどこかへ行き、晴れ渡る中、二人の少女は肩を並べて瓦礫と骨が転がる廃墟の通りから帰路へとついた。

 そこから少し離れた二人の進行方向とは反対に位置する廃墟の出口に広がる世界では、僅かな瓦礫や朽ちた車両たちの上に様々な花が咲き乱れていた。

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