怪物

@peachop

怪物

人類は誕生以来、幾度となくこの怪物と戦ってきた。何度も何度も挑んでは、例外なく敗北を喫してきた。そしてどんなに科学技術が進歩しても、その怪物に打ち勝つ見込みは一向にないのであった。むしろ、人類の兵器が強力になればなるほど、より悲惨な負け方をするようになっていた。



怪物は幾度となく、人類の前に姿を現してきた。姿形は毎回異なっていて、突如現れては人々の命をたくさん奪って、気の済むまで焼け野原をつくってから、姿を消すのだった。



人類は、基本的にはこの怪物が嫌いであった。しかし、怪物の出現が利益につながるものもいた。怪物は自分から姿を現すことはしなかった。人々の前に現れる時はきまって、誰かそれを呼び寄せた者がいるのだった。怪物を呼び寄せられるのは、人気者か、力持ちだけであった。



この怪物は恐ろしくて、挑むと決めた瞬間に、必ず敗北が決まるのだった。どんなに強力な武器があっても、どんなに綿密な計画を立てても、挑むと心に決めたその瞬間、敗北は動かぬものになるのだった。怪物に勝つ方法はただ一つ、遭遇しないことである。それにもかかわらず、人類は何度となくこの怪物に挑んできた。



こんな怪物と、あなたは戦いたいだろうか。どんな攻撃も当たらない。戦うと決めた時点で勝つ術はこの世に一つもない。二つにも三つにもなる腕で、挑んでくる者皆八つ裂きにしてしまう。



この怪物の最も恐ろしいところは、擬態がこの上なく上手いことである。この怪物は、刀や銃や爆弾や、そんなありふれた武器で簡単に倒せる、人間の格好をして人々の前に現れる。そして戦いが終わって、例外のない敗北を喫して初めて、人々は「ああ、あれは怪物だったのだ」と気づくのだ。



怪物は「憎くて、凶暴で、弱っちい人間」の姿で近づいてくる。僕たちが勝てると思って飛びつくと、その先には必ず敗北が待っている。この怪物に勝った人間は歴史上一人としていないのだから。






その怪物の名は「戦争」と言った。




僕らがもし、他の国や、他の民族に対して、「こいつらは憎くてしょうがない」

「こいつらにやられてばかりでいられるか」

「こいつらならきっと勝てる」

と思ったら。それはきっと擬態した怪物だ。




怪物に勝つ方法はただ一つ。

遭遇しないことである。



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