サボり

 異世界いせかいに来て何日目か……


 「そういえば、俺って自分のクラス以外知らないよな……」

 昇降口を抜けて、右に曲がれば……AからCまでのクラスがある。

 その逆の左に曲がった奥に追いやられたように存在する教室。


 特別クラス。


 俺は興味本位で左ではなく右に曲がった。



 なんか……避けられてるな?


 明らかに少し距離を置いて俺を通り過ぎていく生徒たち。


 ひそひそと何やら話しながら通り過ぎていく。



 「知ってるか、陰口には……結構傷つくタイプなんだぜ」

 そう呟いておく。



 「なーに、してんだ?敵情視察?」

 後ろを振り向くと知らない男子生徒が立っている。


 「誰だ……お前?」

 率直な意見を伝える。


 「知ってるか?そういう言い方、結構傷つくタイプなんだぜ」

 そう男は俺に言う。


 「人の独り言しっかり聞いてんじゃねーよ」

 見知らぬ誰かに突っ込んでおく。



 「1年B組、アレフ=スパーク……宜しくな、レス」

 そう馴れ馴れしいよく言えば、面倒見の良い男は俺に自己紹介をする。


 ……というか、向こうは俺の事を知っているのか。


 「お前……結構有名人なの、自覚ないだろ」

 なんとなく、俺の考えていることを感じ取ってそうアレフは俺に言う。


 「良くも悪くも、あの生徒会長に勝ったというのは結構話題になってたぜ、イカサマだ、インチキだぁってな」

 アレフは楽しそうに笑いながら言う。


 「だから……あんまり、この変で目立った行動しないほうがいいぜ?」

 そうアレフが忠告する。


 「忠告ありがとさん」

 俺がそう返すと……


 「なっ?」

 アレフは俺を壁際に押すと、壁ドン状態で俺の顔を隠すように周囲から俺の姿を隠す。


 「……急になん……」

 だよっと続けようと言おうとする。



 「しーーー、静かに」

 アレフは俺の顔の間近でひとさし指を自分の口元に立てる。


 ガラの悪そうな連中が覆うアレフの後ろを通り過ぎていくのがわかる。



 「レス、あんたの事、よく思わない連中は多いんだ……この学園、無駄にプライド高い奴が多いからね、まして特別クラスが自分らより目立った成績をあげれば言いがかりをつけたがる連中も多い、しばらくは注意しときなよ」

 そうアレフは言って俺から距離を取る。


 「っと、俺は、一限目は移動授業だから……」

 そう言うと、アレフは近くの階段を登り2階に移動していく。



 彼の言うとおりB組の教室からどんどん人が移動していく。


 気がつけばそこの教室は静かになっていて……


 俺はなんとなく空になっただろう教室を覗いてみる。




 「ぱらりら……ぱらりら……」

 白髪の少女が一人……教室に並んだ机をジグザクに通り過ぎながら一人駆け回っている。


 「……遅刻……するぞ?」

 俺はB組の教室に一歩入り込むとそうオトネに忠告する。



 オトネはピタリと足を止めて、首を傾げる。


 「あっ……昨日の、転入生の人だ」

 そう、思い出したように言う。


 思わず身構えそうになる。

 それくらい、軽くトラウマを植えつけられている。



 「なんで……いるの?」

 そう、たぶん俺に聞いている。


 「別に……偶然知ってる顔を見つけただけだ」

 そう俺はオトネに返す。


 「ふーん……」

 そうオトネは小さく呟き……


 「ぱらりら、ぱらりらぁ」

 再び得意のお辞儀くらいに頭を下げ、両手を広げて走り回る。


 「……だから、遅刻しちまうぞ?みんな教室移動しちまったんじゃないのか?」

 そう彼女に言うが……


 彼女は再び足を止めて……

 逆に不思議そうにこちらを見ている。



 「……何してるんだ?」

 そう彼女に尋ねる。


 「遊んでる……」

 そう当たり前に彼女は返す。


 「お前、一人のようだが?」

 そう俺はさらに返すが……


 「ひとりで遊んでた」

 そう当たり前に彼女は返す。


 「……まぁ、そうだよな」

 俺は教室を見渡し……

 気まぐれに……彼女はこうして授業をサボっているのだろうとそう感じた。

 無邪気ながらも人を寄せ付けない何か……そういったものを感じる。


 「……俺も、授業に遅れちまうな」

 そう呟き……


 「どうせなら、一緒に授業サボって遊ぶか?」

 そうオトネに提案してみる。


 彼女は首を傾げ、再び走り出すと俺の目の前に来る。

 俺の顔を下から覗き込み……


 「……いいよ」

 そう返した。



 取り合えず、俺とオトネはどうどうと学園内で授業をサボるのは気が引けたため、学園の外に出る。

 街をブラブラと歩いている。


 特に会話という会話も無く、俺は鞄を片手に、オトネは鞄を持たず代わりに壷を片手に片手を突っ込みてのひらいっぱいにつけた蜜をべろべろと舐めている。



 「そんなに美味いのか、それ?」

 無表情に舐め続けている彼女を見て俺は尋ねる。


 「………ん、舐める?」

 そう言って、彼女はその行為に躊躇いを感じることもなく、

 蜜いっぱいの手のひらを俺に差し出す。


 さすがに……有難うと言ってその手を舐め散らかす勇気は無い。


 少しだけ指でその蜜をすくうとそれを舐めてみる。


 まぁ……可も無く、不可も無く……



 「まぁ……その、なんだ……手も汚れて大変だろ」

 そう……俺は言って、鞄から手ぬぐいを取り出すと、

 彼女の口周りをふいてやる。


 「ん……」

 彼女は少し困惑しながらもその行為を黙って受ける。


 確か……


 俺は現世から持ち出した鞄からグレープ味の飴玉を取り出す。


 「口、開けろ」

 俺はそう言うと、不思議そうな顔しながら少しだけ口を開く。


 俺は、包み紙から取り出した飴玉を彼女の口の中に放り込む。



 「……な、なんだコレ」

 オトネが凄く驚いた顔しながら……


 「舌の上で溶かす様に舐め続けるんだ」

 俺はそう彼女に伝える。



 「美味い……めちゃくちゃ」

 彼女の目がキラキラと光、幸せそうに言う。


 「長く味わいたかったら噛むなよ……」

 と言った矢先、ガリガリと彼女の口の中から音がする。


 ……俺はため息をつきながら、


 「まぁ……俺も1分くらいが限界で噛んじまうんだけどな」

 そう言いながら、もう一つ新しく彼女の口に飴玉を放り込む。


 「……レス」

 彼女が始めて俺の名を呼ぶ。


 俺は何気なく彼女の方を向く。


 「……好き」

 そう、前起きなく言われドキリとするが……

 まぁ……餌付けによる、高感度アップでちょっと心を許しただけの好きだろう。



 「まぁ……誘った俺が言うのもあれだけどよ、俺と仲良くしてて大丈夫なのか?」

 そう今更ながら彼女に問う。


 彼女は不思議そうに首を傾げ


 「よく、わからないけど……オトネ、お前の居る組織?そっからすれば俺は敵なんだろ?」

 そうオトネに尋ねる。



 「……たぶん」

 そう、彼女は曖昧に答え……


 「……でも、今はレスと戦えと言われてないから戦わない」

 そうオトネは答える。


 「……レスと遊んじゃいけないと言われてないから……一緒に遊ぶ」

 そうオトネが答える。



 「……なんで、その誰かの言うとおりに……する?その誰かが俺と戦えと命令すれば従うのか?俺と遊ぶなと言われれば……俺とは遊ばないのか?」

 ……そうオトネに尋ねる。


 「……いやだ」

 そうオトネは、するか、しないかでは無く、自分の感情だけを呟く。



 「……だったら、俺が守ってやる」

 そう……何から守るのかその対象すらわからないが答える。


 「ほんと……?」

 オトネがそう俺の顔を覗き込む。


 「だって……可笑しいだろ……なんで俺たちが争う必要がある」

 そう……答える。


 でも……たぶん……お互いにそれがすぐに実現するのが難しいことはわかっている。

 彼女が語らない……俺の知らない……しがらみがあるのだろう……

 彼女を簡単に引き剥がせない何かがあるのだろう……



 気がつくと、学園の前に戻ってきた。

 3限目くらいは……終わってる頃だろうか。



 「それじゃ、次はいつあげられるかわからないからな……」

 そう言って俺は飴玉の入った袋をポンとオトネの頭に置く。


 オトネは少しだけ……考え……


 「や……」

 そう言って、飴玉の袋をつきかえす。


 「……これからも、レスから、貰って食べる……だから、やっ!」

 そう、つよく突き返される。


 「それじゃ、次は別の味も仕入れておくよ……」

 そう俺はオトネからそれを受け取る。


 「ほんと……」

 彼女の目が輝く。


 多分……未だルートは知らないが、ライトに頼めばなんとかなりそうな気がする。


 「それじゃ、お互い……誰かに見られると面倒くさいだろ」

 そう言って学園に戻る。


 「レス……また……」

 そうオトネは言って、得意な姿勢を取り……


 「ぱらりら……ぱらりら……」

 彼女は可愛らしく走り去った。



 明日にはまた……彼女は俺の敵なのかもしれない。


 それでも、俺は彼女を守ると言うのか?


 今背負ってるものを守り続け……その敵も守る……


 矛盾している……破綻している。


 それは、背く事など許されない。


 打ち破ることなんてできない……


 俺にできるのは守ることくらいだ。



 一足先に、学園の入り口に着いた、オトネがブンブンとこちらに手を振っている。


 俺は、軽く彼女に手を振ると……


 再び彼女はおそらくぱらりら……ぱらりらと口ずさんで学園の中に入っていった。




 「……欲張れよ」

 俺は自分に言い聞かせるように呟き……


 おまえのできる事をやるだけだ……


 この世界で許される事をするだけだ……


 「……だったら、全部守ってみせろ……」



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