05 SSランク保持者(義妹暴走する!) その2




 真菜が的をオーバーキルして。“あれ? 私何かやってしまいました? キョトン”をした事には理由がある。


 それは、自分の実力をある程度見せつけておかねば、SSランクの【天啓(ギフト)】を持つ彼女に腕試しを挑んでくる輩が後を絶たず、一々相手をするのは面倒であるし、何より“愛し合う義兄との甘い時間(本人の主観と願望)”が、少なくなってしまうからである。


 そして、”他の女と仲良くして、私を怒らせるとこうなるかも知れませんよ?”という脅しも含まれている。


 誰に向けてと言えば、義妹のキャラが濃すぎて、影が薄くなっている”主人公? あっ 彼でしたね”にである。


 こちらから姿が見えるということは、向こうからも見えるということであり、和真は義妹に見つかる前にその場を後にする。


 そうしなければ、和真を見つけた真菜は、当然彼に手を振るなりのリアクションをしてくる。

 これほど注目を集める真菜にそんなことされてしまえば、悪い意味で目立ってしまう。


 それでなくても、居心地が悪いのに更に居心地が悪くなってしまう。

 真菜もそれを理解しているので、彼に気づいてはいたがこの場では何もしなかった。


(私は義兄にいさんの事は何でも理解して、思いやれる甲斐甲斐しい女です。だから、義兄にいさんは、私を恋人にするべきです! でも、恋人になったら、もちろん他の女との接触は許しませんけどね!)


 前半は良かったが、後半は相変わらずのヤンデレ思考であった。


 因みに、真菜がSSランクの【天啓(ギフト)】を授かったと知られた時、真菜(まな)だからマナルーラーを得たのでは? という憶測が飛んで、その年の出生児にマナトやマナミといった“マナ”にちなんだ名前が多く名付けられたという都市伝説がある。



 マナ使いは周辺のマナを使用するため、体内魔力で総量が決まっているオドと違い、基本強力な攻撃ができるが、本人の戦闘能力が低い者が多い。


 つまり、接近されれば脆くそれはSSランクのマナルーラーでも同じである。


 特に筋骨隆々でもない和真に、毎朝襲撃しては腕力で押し返される華奢な真菜は特に顕著であり、彼女がこれほど強力なマナ操作を持っていても学校で訓練を受けているのは、その不足を補うためである。


 その日、真菜は家では大人しく、珍しく何も仕掛けてこなかった。

 だが、それは嵐の前の静けさだったことに、明日の早朝に気付く。


「!?」


 翌朝、和真は気配察知スキルで目を覚ます。

 枕近くの時計の針は、朝5時半をさしており、室内ともちろん外もまだ真っ暗である。


(マジか… 流石に5時半は眠い… 二度寝してしまう…)


 気配察知で起きた和真であったが、流石に早朝すぎて再び睡魔に襲われ、二度寝してしまいそうになる。


 和真が布団の中で、睡魔と格闘していると足元のベッドが沈みギシリと軋む。

 どうやら、侵入者がベッドに登るために、片膝をベッドの端に乗せたようだ。


 和真が二度寝の誘惑と戦っていると、どんどんその重みはこちらに近づいてくる。


「くそっ!」


 和真は迫りくる危機を回避するために、身を起こすと彼女が目標を起こさないように、ゆっくり馬乗りの体勢に入ろうとしていたところであった。


 そして、侵入者は暗闇の中で目が合うと強硬手段とばかりに、起き上がりの和真を力で押し倒そうと手を前に出してくるが、和真も反応して手を前に出し両手をつかみ合った手四つの体勢になる。


「ちょっと、いい加減にしてくださいよ、義兄にいさん! 空気読んで二度寝してくださいよ! それで、この早起きチキンレースも終わるんですよ?! それなのに、何を頑張って起きているんですか! いいんですか!? 明日は5時起きになりますよ!?」


 力負けしている真菜は、このような無茶苦茶な脅しを掛けてくる。


「オマエがこんなに朝早く来なければ、問題解決だろうが!」

「それじゃあ、気配察知スキルのある義兄にいさんに、キスできないじゃないですか!」


義妹いもうとよ、俺を起こすという建前は何処にいった?」


「はぁ? 何ですか? それ? 私の目的は、最初から義兄にいさんと幸せなキスをすることですよ?」


(この義妹いもうと… ついに、建前を捨てやがった。そもそも、早朝に部屋に忍び込んでおこなう“幸せなキス”って、何だ?!)


 和真はそう思いながら、腕力で真菜をベッドの端まで追いやっていく。


義兄にいさん! か弱い女の子を腕力で屈服させようなんて最低ですよ! 私をこれから、どうするつもりですか!? エロ同人ですか!? エロ同人みたいにする気ですか♪」


 自分の行いを全て都合よく忘れると真菜は、手四つの体勢で力比べをしながら、和真に抗議するが後半は嬉しそうにしだす。


 よく見れば、このお互いの指を絡み合わせた手四つの体勢も、真菜にはイチャイチャ恋人繋ぎに見えてくる。


 真菜はそのまま自分から、後ろに倒れるとイチャイチャ恋人繋ぎ(手四つの体勢)のまま頬を赤く染めて、恥ずかしそうに目線を逸しながらこのようなことを言ってくる。


義兄にいさん… 私を腕力でモノにしたいなら、すればいいじゃないですか… でも、私はこういう事は、始めてなので優しくしてくださいね…」


「いや、そんなことしないよ」


 真菜が手を握ったまま後ろに倒れたので、彼女の上に覆いかぶさる形になった和真は真顔で即答する。


「この状況で、どうしてしないんですか!?」


 真菜はここまでお膳立てしたのに、手を出してこない義兄に半分キレ気味で問い質すが、和真はそんな義妹に、その答えが手を出さない理由になるこのような質問をしてくる。


「じゃあ、聞くが… 俺がこのままオマエに手を出して恋人になったとして、俺がエロ本を隠し持っていたらどうする?」


「はぁ!? そんな恋人である私への裏切り行為、許す訳ないじゃないですか。罰として、持っているエロ本の数だけ義兄(にい)さんの爪を剥がします。仕方ないですよね」


 真菜も真顔でそう言ってくる。

 その表情には、自分の発言に対して一点の疚しさもない。


 義兄と義妹は、暫く真顔で見つめ合う。


「それが、オマエに手を出さない理由だよ!!!」


 義妹からの予想以上の答えに怯えた和真は、火事場の馬鹿力を発揮して、指を振りほどくと部屋から飛び出して、トイレに駆け込み籠城を開始する。


 籠城は真菜がトイレに行きたくなったので、彼女が何もしないと約束した事により、終了を迎える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る