私が壊す
再び薄暗い洞窟内を探索する。
今回の目標は、パナセーアエレメンタル。内包する魔力によって引き起こされる奇跡は生物を癒すという奇妙な特性を持ったモンスターであり、そこから作られる薬は状態異常を防ぐ効果がある。
千沙ちゃんを直接治せるほど強力な薬ではないが、一時的な回復の役に立つことは間違いないだろう。
空噛が持ってきたボストンバックの中身は新しい装備品の数々であり、彼の目標であるシスター暗殺を完遂させるための足掛かりとして購入したらしい。
迷彩色の軍服に変わりはないが、私の服だけはフードが付いている。
フードを被って、耳元に装着されたレンズを動かすと、片眼鏡のような形になるのだ。これは敵を狙う際にアシストしてくれるらしい。
それだけでなく、2つ目の武器もくれた。
ミニキャノン――大きな丸太ほどのサイズで、両手で抱えないと持てない程だ。けれどその分威力は高く、咄嗟に撃つことは出来ないが、落ち着いた状況であれば戦況を変えられるほどの一撃を放つ。
「このアーマー、本当にすごいね。全然重さを感じない」
「俺も原理はわからんが、ワイヤーが筋線維を支えるから、体に負荷がかからないらしいぞ」
こういった発明は全てDr.ヴォルキヒが行っているらしい。怪しい風貌とは裏腹に優秀なようだ。
洞窟に反響する水音から離れるように歩く。今回の目標はパナセーアエレメンタルのみであり、余計な戦闘を避けていくつもりだからだ。
「結構奥まで歩いて来たけど、松明が少ないね……」
「だんだん暗くなってきたな。足元に気を付けろよ。うっかり湖だったりするかもしれねぇ」
今までとは打って変わって、全体的に視界が悪い。松明から吐き出される煙が、扉付近とは違って逃げ場がないために余計によどんでいるようだ。
スライムなら、這いずるような音で気付けるが、闇のエレメンターや水のエレメンターであれば不意打ちをされてもおかしくないだろう。
「見えたな。向こうの光がそうだろう……」
松明とは違う、黄色の光。周囲のたいまつが壊されていることもあって、余計に目立っていた。
「先にキャノンを撃つ?」
「あー。まぁ、いいだろう。撃て」
弾の値段を気にして一瞬迷ったようだが、出し惜しみをして死んでしまったら元も子もない。安全装置を外して引き金を引くとわずかに砲身が熱くなる。一瞬の轟音の後に、砲弾が射出され闇を切り裂いた。浮遊するクリスタルの左上を通り抜けると、破裂の後、衝撃。
「ッッ!!」
「少し、強すぎるね……」
私たちが隠れていた岩ごと吹き飛ばし、3人の体が軽くのけぞる。
パナセーアエレメンタルは突然の衝撃に成すすべなく粉砕されたが、淡く光ったかと思うと寄り集まって、またクリスタル状へと変化した。
即座に私たちを見つけて、攻撃。
高圧のエネルギーをチャージすると、お返しと言わんばかりに発射する。
砲弾の再装填に時間がかかるので、二手目はない。盾のように前に突き出してガードするが、洞窟の地面を消し飛ばす衝撃にミニキャノンごと吹き飛ばされた。
「慧くん、どうする!?」
「決まってるだろ、俺達で突進だ。霞一花は援護を頼む!!」
ナイフを抜刀すると、瓦礫の上を器用に跳ねてエレメンタルへと近づく。思い切り振りぬいたが、甲高い音と共に空噛の体が吹き飛ばされた。
「硬いな、弾かれる……」
「斬るんじゃだめだ!! 突き技が有効だと思う」
柄に手を添えて槍のように刀を打ち出す。速度が足りずに躱されたが、結晶の一部分が欠けた。
「予習はばっちりのようだな、山田たかし」
「空噛、援護するから突っ込んで!!」
体勢を立て直した空噛が山田さんの方へと走るが、後ろから指示を飛ばす。
一瞬私の方を見ると、方向を変えてクリスタルの足元へと滑り込んだ。
「
「なるほどな、やってやるよ。
彼の頭上に火を放つと、躊躇いもなくその炎の中に腕を突っ込む。
熱を掴むような仕草をしたまま結晶へと手のひらを押し付けると、透明なクリスタルの一部が融解した。
「熱耐性はない。回復される前に突っ込むよ!!」
パナセーアエレメンタルは、通常のエレメンターと違って、外部から魔力を吸収することができない。もしくは、吸収率が著しく低いのだろう。
自己再生こそ行っているものの、先ほど山田さんに突かれた傷は再生できていない。
再生の頻度もそこまで高くないようだ。
「山田さん、畳みかけてください!!」
「了解。慧くん、まだいける?」
「誰に聞いてる? こんなゴミクズ、さっさと片付けるぞ」
首元にモンスタードーピングを刺し込むと、空噛の目が光る。一気に注射器の中身が空になったかと思うと、体を震わせて弾丸のように突進した。
その背を追うように炎を纏った刀が結晶の逃げ場を失くす。
「さぁキャノン。もう一発よ!!」
「慧くん、離れて!!」
「ずいぶんはえーな……」
今度は直撃させる!!
先ほどよりも松明も減って瓦礫が多いが、フードに付いた片眼鏡のおかげでターゲットは見えている。
放たれた砲弾は狙い通りエレメンタルの中心へとぶつかって炸裂する。
山田さんも空噛も咄嗟に受け身を取ったおかげでダメージはない。崩壊したクリスタルへと近づくと、中心に鎮座する魔石に手を伸ばした。
アレさえ奪ってしまえば再生も出来まい。
けれど、一手足りない。
狙われていることを本能的に理解したのか、何よりも先に魔石をガードする。悔やんでいる間にも再生は続いているのだ。
「ゴミクズが……ぶっ壊してやる!!」
「慧くん、どいて!! 私が壊す」
再生を試みる結晶を踏みつけて、刀を直立に突き立てる。
通常時よりも強固な硬質化によって、突き技ですら弾かれたが、火炎の刀油によって熱された刀身は、徐々にエレメンタルの再生能力を失わせている。
だが、一瞬眩い光を放ったかと思うとありったけの魔力で再生を始めた。
山田さんもそれに阻止しようと刀を突き立てた。だが、彼は反射神経が遅い。ハンドガンを構えた。
「
「もう死んでる……」
「あ、危なかった……!!」
ギリギリのところで山田さんの刀がエレメンタルの魔石に触れていた。
あと一瞬遅れていたら、また再生されていただろう。
辺りにまき散らされたクリスタルを眺めながら、ホッと一息つく。これらの結晶から作られる薬を遣えば、千沙ちゃんを蝕む症状を一時的に緩和できるだろう。
私たちは、洞窟の奥地で胸をなでおろした。
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山田さんは普段は
ただし、
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