貧乏少女とスリルジャンキーが楽して金儲け!?
平光翠
さぁ、死神に祈れ!!
広い平原の中、一人の少女が何かから逃げるように走っていた。
彼女の背には三匹の狼らしき生き物が追いすがっており、その眼は普通の生物とは思えない程狂気に染まっている。
長い牙を覗かせながら、空へと向けて遠吠えをした。
一瞬足を止めた隙を狙って、少女は手に持っていたハンドガンを構え、躊躇いなく引き金を引く。
「
狼の喉目掛けて弾丸が射出される。咆哮が止まったかと思うと、喉から煙が上がった。弾丸からはじけた液体に触れた箇所が蒸発しているのだ。
仲間がやられたことに動揺して、他二匹の足も止まった。
「ハハッ!!死に晒せ。畜生共が…」
真横から飛び出してきたのは、左腕から血を流した青年。
右手に携えたナイフがオオカミの首を通り抜けた。力なく倒れた犬にまたがると胸元に改めてナイフを突き立てて、紫色の結晶を取り出した。
その様子に最後の一匹は臆することなく、青年へとつかみかかる。
「油断してんじゃないわよ」
赤く塗装された弾丸がオオカミの足へと着弾すると、衝撃が解放され獣の体が爆ぜた。
「いいね。死ぬかと思った」
「はいはい。死なずに済んでよかったわね」
三体のオオカミたちの死骸の中で二人はハイタッチをする。
草木が生い茂る平原のあちこちから遠吠えが聞こえるが、どうやらまだ距離はあるようだ。オオカミの死体から結晶を取り出し、かわりに桃色のガムテープのようなものを張り付ける。
「ハウルドッグは高いからな。最低価格でも10万は超えるぞ」
「折半して5万かぁ。もう少し欲しいかも」
「まだ必要なのか?」
「うん、下の子たちの給食費がね……」
二つの紫結晶を握り締めているのは、
綺麗に整えられたボブの髪に、ぱっちりとした目元、薄くリップを塗っており顔立ちだけ見れば、どこにでもいる少女だ。
だが、ハンドガンを握り、冒険家のような軽装で野原を駆け巡る姿は、とても学生には見えない。
彼女の前に立つ男は、それ以上に異端だ。
左腕には無数の切り傷、噛み傷、右手には血まみれのナイフ。ワイルドに髪をかき上げ、金色の瞳に歪んだ笑みを浮かべている。
彼以上にその言葉が似合う者はいないだろう。
彼の名は、超一流総合商社『
「
「ああ、いいぜ。もっと、殺そう」
名を呼ばれた青年は、鬼神のように笑う。その背を追って一花も野原を駆けだした。
ここは『プレーヌ平野』と呼ばれる土地。
植生が豊かで、色とりどりに花や背の高い木に引かれて様々な生き物がやってくる明るい場所だ。
生き物といっても、ただの生き物ではない。
大型のアリ、群れ成すオオカミ、歩く怪物樹木など、通常では考えられないような生き物ばかり。そんな常軌を逸した環境で、二人は何をしているのかと言われれば、金稼ぎである。
「向こうの方、ゴブリンかな……?」
「たぶんな。あれでいいか?」
平野の道中で見かけたのは空想上の生物、ゴブリン。
濁った緑色の肌に、口から露出した牙。小学生よりも少し大きい程度の背丈であるが、腰が曲がっているためもっと小さく見える。手にはサーベルや棍棒、杖を構えている者もおり、狩りの途中のチームのようだ。
せっかくの獲物だというのに一花の顔は苦いものだった。というのも、ゴブリンの素材は非常に安価でありながら、数が多く押し切られることもあるため金稼ぎという面では効率的ではない。
しかし、慧の顔は輝いており、今すぐにでも群れの中に突っこんでかき乱したいと言わんばかりだった。
「私はアンタみたいに
「じゃあ、こうしよう。アレを処理した金は全部くれてやる。だから付き合ってくれ。それならいいだろ」
思わず金に目が眩みそうになったが、作戦などまともに考えていないであろう能天気な慧の顔を見て冷静になる。しかし、いくらゴブリンが安いとはいえ、普通のアルバイトに比べれば遥かに高額だ。
「ヤバかったら、すぐ逃げるって約束してね。私、死にたくないから」
「俺だって死にたくはない。死ぬ寸前が好きなだけだからな」
垂れ下がった髪をかき上げ直し、ゆっくりと息を吐く。一花から手渡された注射器を二の腕あたりに開けられたプラグに刺し込むと右手をビキビキと動かす。
「さぁ、死神に祈れ!!」
一花のハンドガンの発砲音を合図に、平野を移動するゴブリンたちに強襲する。
「まずは一人!!」
しんがりを務めていた斧持ちのゴブリンの心臓にナイフを突き立てた。
慌てて武器を構え始めたが時すでに遅し。一花が撃った二発目の弾丸がゴブリンたちの中心で割れて爆音と閃光が放たれる。
慧はサングラスと耳栓のおかげで無事なようだが、ゴブリンたちの視界と聴覚は奪われている。
「二匹目!!」
躊躇いなくナイフを振りかぶって仕留めたかと思うと、杖を持っていたゴブリンががむしゃらに魔法の力を放出した。
フワフワと火の玉が辺りを飛び回っているが、見えていない以上当たるはずもない。にもかかわらず、ナイフを持った右手を浮かぶ火の玉に突っこんだ。当然、慧の腕は焼けこげ、ナイフが歪むほどに熱される。
「あー痛い痛い!! 最高だねェ。もっと、死を平等に!!」
真っ赤に光り輝くナイフが、炎の中から出てきたかと思えば、次の瞬間にはゴブリンの頭を切り裂いていた。
最期の力を振り絞った魔法も、一発の弾丸が熱を吸収してかき消されてしまう。
「ああ。痛いなぁ。すっげー痛い。死んじまいそうだ」
「本当に無茶して……。絶対必要なかったでしょ」
恍惚の表情を浮かべている慧には、一花の必死な説教もまるで響いてなかった。
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一花「加減を間違えてうっかり死んだらどうするの?」
慧「それは嫌だが……。まぁ、退屈せず死ねそうだな。アハハ」
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