第56話 激突、雪王
円卓英雄記 原史
トゥルーとトリスタン。二人は毎日修行を続けていた。最強である彼の前に何度も地面に倒れるトゥルーだったが、倒れるたびに強くなっていった。
「そろそろ、一段階修行を上げようか」
「え?」
「アスクレイ山って知ってる?」
「は、はい。一年中雪が降っているとても寒い山……」
「そこには雪王って名前の魔物が居る。一息で人を凍らし、願えば大地を凍土に変える……前にオレが倒したんだけど、別個体が新たに出現したらしい。というか子供かな?」
「な、なるほど」
「そこで君に任せる。きっと倒せる……その中にある力を扱えればね」
「僕の中の力……」
「それが明るみになれば、君は殺される。だから、制御してみな。闇の星元をさ」
「はい……」
トゥルーは一人でアスクレイ山に向かった。向かいながら彼はこれまでの事を考えていた。
死んでいった同期、救えなかった人達、まだかろうじて生きている者達。もっと力を、もっと力が自分にあれば……
真っすぐ彼は走る。走って走って。
走り続けるしかない。
ボウランだって獣人族の里で死んだ。ヴァイも死んだ。己の手から零れ落ちるのはこれ以上は耐えられないのだ。
気付くと彼は目的のアスクレイ山に到着していた。彼の口から白い吐息が漏れる。汗すらも一瞬で凍りそうな温度の低さ。トゥルーは炎の魔術を己の周りに展開して山を登る。
自身の体温を高温に保ちつつ、下がらないように吹雪の中を進む。しかし、彼は途中で足を止める。
「……今、何かの声が聞こえた」
雪山の頂上付近から獣の吠える音が聞こえたのだ。雪王と言われている魔物だろうという予想を立てながら再び進む。
順調に進めているかと思ったが再びトゥルーは足を止めることになる。それは雪山の頂上付近から何が書落ちてくるのだ。
「大量の雪……雪崩れかッ」
一面を覆いつくす、真っ白な災害。大きく勢いもすさまじい……これは下手すれば死んでしまうと一瞬で判断し、炎の魔術をさらに大きくする。
「もっと、チカラを……もっと……」
炎が大きく、爆炎へと昇華する。すれ違った命、伸ばせなかった手、後悔、懺悔、それらすべての感情が彼の中で爆発する。
「まだだろ、僕はッ」
――真っ白な壁が一瞬で炎の海に返る
トゥルーを中心として周囲の雪もどんどん消えていく。感情の起伏が彼を一歩先へと押し上げた。
そして、そんな彼を敵と認識した雪王が空から降ってきた。
真っ白な体が体毛で覆われている、巨大な人のような外見にも見えるが身長がケタ違いだ。
「……オマエ、テキ、コロス」
「言葉が話せるのか……語り合う気はなさそうだが」
トゥルーはふっと一息をついた。爆炎をその身に宿し、特攻する。後悔の涙すらもう、振り切れている。
◆◆
「やぁ、倒せたようだね」
「トリスタンさん……」
「雪山が普通の山に成っちゃったよ。雪が全部溶けてる。君の潜在能力は凄まじいねぇ」
「……僕もっと強くなりたいです。だから、これからもお願いします」
「勿論さ。オレが強くしてやるから」
雪山が彼の炎で姿を変えてしまった。空は僅かに晴れており、雪王も体毛すら残らず燃えてしまった。
「闇の星元は使わずに倒したのか。元の潜在能力がずば抜けているんだねー」
「……でも、足りないです、もっと強くもっと強くなりたい……もう、何も失わないようにッ!!」
「……任せておきなさい! このトリスタンに!」
トリスタンはトゥルーを見て興味深そうに目を向ける。彼は師匠としてトゥルーを今後どのようにしていくか悩んでいるようだった
――僕は必ず強くなる
トゥルーは拳を握った。それを空に掲げる。その日はよぞらがかれにこたえるように輝いていた。
◆◆
異史
トゥルーとフェイがトリスタンに呼ばれた。
「というわけで雪王を倒してきてよ」
「なんで僕達が……」
「いいからいいから。修行の段階を人段階上げたいからさ。それにフェイ君は強い奴と戦いたいって思ってるでしょ?」
「……」
フェイは雪王を言う強敵が居る。そうと分かればフェイはそれが居る雪山に向かって、足を向けようとする。
「よし、ならば向かおう」
スタイリッシュにフェイが王都の出口に歩き出すので、トゥルーも彼について行くように歩き出した。
「……」
「……」
終始二人は無言だった。トゥルーはフェイに苦手意識を持っているから、無理に話しかけることはせず、フェイも無駄口を言うタイプではない。
気まずいなとトゥルーは感じたがそれ以上は何も言わない。そこへ、場を和ます一言が降ってくる
「おいー、フェイー、それにトゥルー」
「……ボウランさん」
まさかのボウランが登場した。彼女は手を振りながら走ってくる。トゥルーはよく来てくれたと感激する。
フェイと二人は気まずいからだ。
「二人は何処か行くのか?」
「僕達はアスクレイ山に雪王を倒しに」
「マジか!? すげぇな!? うーん……よし、アタシもついていくぜ!」
「え? ボウランさんが?」
「お前ら二人だと会話の間が持たないだろ」
「確かにそうだけど」
「……好きにしろ」
トゥルーはフェイとの会話が成り立つはずがないと分かっていたので、ボウランの提案は正直嬉しいと感じた。一方でフェイは無関心のままボウランを見向きをせずに一人王都の門に向かう。
ボウランはフェイの隣に陣取ると的確にトゥルーに話を振りつつ、会話を回した。
ペラペラと話していると前から二人の見知らぬ聖騎士が歩いてくる。二人はトゥルーを見ると手を軽く上げて挨拶をした。
「よっ、トゥルー」
「この間の同期でやった飲み会は楽しかったな」
「二人共、任務の帰り?」
「そうだな、それよりお前あの後大丈夫だったか?」
「なにが?」
「なにって、酒飲み過ぎた後、全裸になって服を振り回した後に吐きながら帰っただろ」
「え、僕そんなことした……?」
「記憶ないみたいだな」
「やばいなー、お前一番飲み会で盛り上がってたのに」
「……記憶ない、まぁ、次から気を付けるよ。これから僕も任務だから、また飲み会しようね」
「「おおー、頑張れよ」」
(僕、飲み会でそんなことしたっけな……)
自身が同期との飲み会で存分にふざけていたことにトゥルーは、己自身で若干引いてしまう。
本来ならば同期はほぼ全員死んでいるので原作ならこんな事はない。しかし、かなり生き残ってしまっているので酒癖が悪くなってしまっていた。
「お前、酒飲み過ぎはよくないぞ。酒は飲んでも呑まれるなって言うしな」
「そうだね、気を付けるよ」
ボウランにも鋭い意見を貰いつつ、フェイはアホだなと視線を向けられながらトゥルーはアスクレイ山に向かった。
■■
「うー、寒い」
ボウランが体を震わせた。アスクレイ山は吹雪が降り注ぎ、氷点下を超える寒さに包まれていた。
「確かに寒いね」
トゥルーもそれに同意しながら吹雪の中を進む。すると、大きな獣の雄叫びが聞こえて、山が雄叫びを上げる。そして、上から雪崩が起き始める。
「おいおいヤバいぞ! アタシが炎の魔術を使っても……トゥルー、お前はどうだ!?」
「……ごめん、昨日の夜お酒飲み過ぎて本調子じゃないんだ」
「馬鹿ヤロウ!!」
同期がたくさん残ってしまっている、酒癖が悪くなってしまっている。よってトゥルーは本調子ではなかった。
なにより、本来の流れならば失った者達の懺悔や後悔が残っているからこそ、感情が高ぶり力が倍増する。しかし、同期と普通に飲み会をしてしまっている彼にそのようなイベントが起きなかった。
よって、三人共雪崩に巻き込まれた。
◆◆
雪崩だぁぁあああ!!!! サーフィンを一度もしたことがないので雪崩でやってみようかと思っていたら既に巻き込まれていた。
暫くすると雪崩が収まったようだ、体の上に雪が沢山乗っている。
それを主人公筋肉で跳ねのける。
モフモフとした雪をどけて起き上がると一面雪景色だった、わぁ、雪が沢山で綺麗だ!!
などと思っているとボウランとトゥルーとはぐれていることを思い出した。アイツらどこに居るんだろう。
あの程度の雪崩で死ぬとは思わないが……
キョロキョロ探していると、僅かに赤い色が見えた。こんな真っ白な空間に僅かに赤色があるもんだから気になって見に行くと炎が僅かに空に向かって放たれた。
「ふぇ、フェイ……」
ボウランが雪まみれで発見で倒れていた。なるほど、助けを呼んでいたのか……仕方ないここで見捨てるのは俺の意志に反する。
主人公だからな。
弱っているボウランを背負って運ぶ、近くに洞窟っぽい場所があるので雪を防げそうなのでそこに入る。凄いベタな展開だなと思ったがまぁ、ファンタジーノベルゲー世界だしね。
こういう事もあるのだろう。
適当に木とかは外で拾って来た。大分、濡れてしまっているが頑張れば火はつけられるだろう。
「うぅ、寒い……」
ボウランが寒そうにしているので上着を全部かけてあげた。俺はパンツだけになった。
さっきトゥルーが飲み会で全裸になったと聞いた。俺は正直……なんてキャラが濃い行動なのだと感心した。俺もそれくらいインパクトあることをしたが生憎クール系主人公。そういうのは簡単にはできない。
丁度いい、ボウランが寒そうにしてるから全部脱いでヤロウ。という事になるな。
パンツだけを吐いて火起こしをしていると、無事火が点いた。そのまま木を与えたりして、炎を大きくする。
パチパチと炎の音を聞きながら俺はボウランが眠りから覚めるのをスタイリッシュに全裸で待った。
「……んん……フェイ……」
「目が覚めたか……(全裸)」
「アタシ……っておい、なんで裸なんだよ!?」
「……」
「あ、そっか。アタシの為に服を……」
全てを察したようだ。まぁ、ちょっと合法的に全裸になりたいという俺の気持ちもあるがね。
「迷惑かけちまったな」
「……元からだろ、お前は」
「もうちょっと気を使え!」
「……」
「あー、帰ったらご飯奢るからそれでチャラな!」
「いらん、何もしなくていい」
「そっか……この後どうするんだ?」
「決まっているだろう。雪王を倒しに行く」
「その格好で?」
「問題ない」
「あるだろ! 裸で吹雪はダメだろ! せめて朝になって吹雪が止むまでは我慢しろ!」
「……断る」
「ダメだ! 絶対ダメ! さもないとマリアにお前が全裸で洞窟で一緒に居たって言うぞ」
「……朝まで待ってやる」
流石にマリアに言われたら不味い、嫌われたら嫌だし。でも、ちょっと嫉妬とかしてくれたらうれしいなぁ。
「アーサーにも言うぞ」
「それは勝手にしろ」
アーサーは正直どうでもいいな。嫌われてもいいし。
「……おい、服は着なくていいのか」
「構わない」
「……だったら、せめて近くに居ろ。じゃないと風邪ひくだろ……」
風邪ひかないよ、主人公は。
「いいから、こっち来い。人肌であっためるから」
「いらん」
『行け』
うぉ、急にバラギが来た。
『行けバカ。察しろ、わらわが何を言居たのか分かるじゃろ?』
……なるほどな、大体わかった。俺は馬鹿だけどよ、ここがとっても寒い場所ってのは分かるぜ。風邪ひくなって言いたいんだろ?
『お前はもう死んだ方が世の為か?』
バラギと会話をしていると気づいたらボウランが隣に居た。腕に絡みついて暖めるようにしている。
心なしか顔が赤い。しもやけかな。
「……フェイはさ、いつまで戦うんだ。もういいんじゃないか? 十分強くなっただろ」
「……いつまでもだ。強さに果てはない」
「そっか。危ない事はあんまりすんなよ」
ボウランはそれ以上は何も言わなかった。
『行け、行け、そこじゃ……今行けるだろ、想い告白行けるだろ』
バラギがちょっとうるさかった。
◆◆
朝になった。吹雪はやんで朝日が昇っている。ボウランに服を返してもらい、俺は洞窟を飛び出した。
「フェイ……生きていたのか」
「当然だ。あの程度で俺が死ぬか」
「だろうな、お前ならここに来ると思っていた」
俺とトゥルーは山の頂上付近で合流した。すると俺の前世で未確認生物と言われていたイエティと呼ばれるゴリラみたいな奴が現れる。あれが雪王と言われた魔物だろうか。
「酒癖の弊害があるなら下がっていろ」
「もう、治ってるよ。スッキリだ」
トゥルーの周りに炎が巻き上がる。どうやら、二日酔いは治っているらしい。俺一人で倒したい、と言いたい所だがトゥルーもやる気満々だし共闘するパターンのイベントかな?
「俺は勝手に動く」
「……分かった、合わせる」
俺が特攻する、すると雪王が氷の球体を投げてくる。これは避けなくてもトゥルーが何とかするだろう。
避けずに進んでいると案の定、トゥルーが炎の魔術で壊した。
「おい! 一応避けておけ! 僕がサポート失敗したらどうする!?」
「俺は死なない。それだけだ」
「なっ、僕が失敗する可能性を考えてないのか」
主人公だからね、死なない。トゥルーも成長しているだろうし、これくらいのサポートミスはしないだろ。
友情努力勝利が主人公の原則らしいからな。主人公である俺と折角共闘シーンだし、上手くいくに決まっている。
「クソ、変な緊張感持たせやがって……」
炎の魔術でサポートをしてくれたおかげで難なく倒せそうだ。いつも通り剣で真っ二つにした。
「フェイ……お前、僕のサポートを完全に信用して特攻したのか?」
「さぁな」
結局、雪王はさほど強くなかった。俺一人でも倒せたしな……。ボウランの前で全裸になって位しか面白い事は無かった。
つまらないなぁ……と思って王都に到着する。
「フェイ!」
アリスィアが門で俺を待っていた。
「自由都市で事件があったらしいの……その、災厄の逢魔の子孫が関係してるらしくて……」
「行こう」
「ありがと!」
やっと面白いイベントが来たぜ。あれ? 隣に居るトゥルーとアリスィア、やっぱり似てないか?
まぁ、どうでもいいか。
「フェイ、頑張れ! ちゃんと帰って来いよ」
ボウランに軽く目線を合わせて俺達は自由都市に向かった。
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