第23話 アルファ、ベータ、ガンマ 三姉妹

 フェイにとある任務が命じられた。それは村や町といったコミュニティからの依頼ではなく、個人での依頼。


 個人依頼にしては報奨金がかなり出るらしく、フェイ以外にも何人か団員が居るらしい。


 いつものように王都ブリタニアの門の前で一人待つ。何気ない日常の始まりのようであるが、ここは息を吸うように人が死んでしまう世界。今回の任務も当たり前のように人が死ぬイベントである。


 原作ではフェイが最初の任務でエセ達を見殺しにした後、彼はまた任務を与えられる。彼以外死んでしまったが、アビスは想定外であるとされ、生きて帰った事だけで幸運であると評価されていた。尤も、全ての者がそう思ってくれたわけではなく、一部はフェイを非難していた。


 フェイは悪態をつきつつもサブ主人公的ポジションのアルファと一緒に任務に行くことになる。



 冬も本格的になりつつあり、最近の王都では雪が降り始めていた。もうすぐ年越し。王都中の住人も厚い袖を着る者だけで埋まっている。フェイも服を二枚ほど着込んで、首にはユルルマフラーを巻いている。



 そんな彼の元に二人組の男が歩み寄る。


「よう、フェイ。久しぶりやな」

「エセか……」

「僕様も居るぞ」



本来なら既にここに居るはずのない二人組、エセとカマセである。そんな二人に対してフェイは特に反応をするわけでも無い。一瞬だけ目を向けると興味を無くしたように再び目を閉じた。



「なぁ、今日一緒に任務行く女の子達メッチャ可愛くて有名な子達なんやで」

「興味ない」

「僕様的に、お友達から狙って行くな!」

「ワイとカマセは果物屋のおばちゃんにはモテるんやけど、同年代からは全然モテへんからな、ここでええとこ見せておくんやで!」

「……」

「くっ、やはりアーサーやボウランとかと知り合いのやつは僕様たちの気持ちが分からないようだな」




フェイが一切そう言った事とに興味を示さないのでエセとカマセは面白くなさそうに顔をしかめる。そんな三人の元に歩み寄る足音が。


「おー、来てるね」



聖騎士マルマル、教官役として登場。そして、彼の後ろには三人の絶世の美女が並んでいた。エセとカマセが眼を見開く。



「おおー、メッチャ美人やな、やっぱり!」

「ようやく僕様たちにも春が!」



紫の髪、銀のような輝かしい眼。スタイルも良い、多少の違いがあるがついつい視線が胸元に寄ってしまいそうになるほどには凹凸がある。



「とんでもない班に来てしまったみたいね」

「……」

「ガンマ的にもあの二人はないのだ……」

「あー、いきなりコミュニケーションが失敗してしまったようだけど……大丈夫かい?」



三人の美女の内、二人が汚物のような物を見るような眼で二人を見る。


「自己紹介、しておこうかな? 全員知ってると思うけど一応ね。僕はマルマルだよ」

「私がアルファよ……よろしくしたくないけどね」

「……」

「あぁ、この大人しい子は私の妹のベータよ。それで、こっちが」

「ガンマなのだ……」

「はい、そう言うわけ」

「ワイはエセや!」

「僕様はカマセだ!」

「「よろしく!」」



エセとカマセがニコニコ笑顔だが、アルファとガンマは下種な視線を向けられて相反する表情。ベータだけは無表情である。


「で? そっちは誰よ」

「あぁ、こいつはフェイやで」

「ふーん」

「フェイも挨拶した方がええんちゃうか? こういう出会いを掴みとれるかは日々の積み重ねやで」

「今お前が俺の名を語った。それ以上何かを言う意味はない」



それだけ言って、興味が一切ないように黙るフェイ。一人くらいましな異性が居て安心の表情のアルファとガンマ。



「はい。と言うわけで自己紹介も済んだみたいだし、向かおうか?」



マルマルが笑いながらそう言い、七人は門を抜けて出発をした。フェイはこれから任務だが、メイン主人公のアーサーとトゥルーも今日は別任務である。アーサーは今の所、特に問題はない。トゥルーも今回ばかりは鬱はお休みなので平和であった。



■◆



「先生、今日は新種のダンジョンの調査に行くんでしょ?」

「あぁ、そうだ。とある冒険者が見つけたらしくてな。調査を手伝って欲しいらしい」

「へぇー」



アルファとマルマルが和やかに会話をする。


「なぁなぁ、ガンマちゃんは何が好きなん? ワイはパスタなんやけど」

「……ガンマは卵なのだ」

「おおーかわえぇなぁ」

「……私の妹にちょっかい出すのやめてくれる?」


エセがガンマにちょっかいを出すが全く相手にされずアルファに不躾な存在だと認識されている。アルファが長女、無口ベータが次女、なのだのガンマが三女の美人三姉妹として同期の中では有名な話であった。


だからエセとカマセは話しかけたかったのだが機会がなく、今回のチャンスを逃すまいと積極的だった。



「僕様は将来有望なんだ! この間もハウンドの群れを」

「……」

「あれ? 聞いてる?」

「……」

「え?」

「……」



ベータは一切会話をシャットアウト。まったく口を開かない。そのうち、カマセも大人しくなっていく。それをマルマルは見ながら苦笑いを浮かべる。


(この部隊、失敗だったか……急な寄せ集めだったし、仕方ないけど)


マルマルはチラリと後ろで一人歩くフェイを見る。誰かを寄せ付けず、群がる事もなく、本当に今一緒の部隊として活動をしているのか不安になるほどに一人だけ冷めていた。



(……マリア。そう言えば君と最初に任務に行ったときもこんな感じだったな。君は一人だけ何も語らずただ、黙って復讐の炎を燃やしていた。こんなにも重なるとは……)



(アルファ……君はフェイを見て何を感じる?)




(同じ、復讐者アベンジャーとして)




マルマルは教官としてアルファたち三人を仮入団期間育成と担当してきた。その過程で彼は気付いた。アルファが復讐であることに。ベータとガンマも中々に謎な所が多い。



ただ、彼女は顕著だった。フェイやマリアほどではないが眼が泥のように濁っているときが多かった。マルマルもそれなりのベテラン騎士、様々な者を見て来たからこそ気付いた。


アルファは復讐者であると。


マルマルはフェイに期待をしている。不確定要素に何かを期待している。アルファが不確定要素に触れた時、一体何が起こるのかマルマルに予想はつかない。


だが、何かが良い方向に行ってくれればと願うだけだった。




「ったく、これだから男って……ん? どうしたのベータ?」

「……!!」



アルファの服の裾を引っ張るベータがフェイの方をチラチラと見る。それを首を傾げながらアルファはどうしたのかと考える。



「あれが、なに?」

「……!」

「……この前の絡まれた時に助けてくれた人?」

「……!!!」



二回頷いたり、ジェスチャーをしたり、決して彼女は声を発しない。だが、それを理解できるアルファ。姉妹の絆が感じ取れる。


ベータが表しているのは先日、昼間に酔っ払いによって絡まれたがそれを助けてくれた紳士と言う構図をジェスチャーで何となく表したのである。



「へぇー。アイツなんだ」

「……」

「お礼を言いたいの?」

「……!!」



狼の真似をしたり、オーケーサインを出したり、表情筋が死んでいるが意外とどこぞのパンダとは違いコミュニケーション能力はしっかりとあるのかもしれない。



「分かったわ。じゃあ、ちょっと行きましょう」



そう言ってベータの手を取って、一番後ろで無機質な表情で歩き続けていた男の側に寄った。



「ねぇ、ちょっと良い?」

「……」


アルファとベータ、フェイが横一列に並んだ。ギロリと二人に鋭い視線が注ぐ。初対面でそんな目を向けられる事などほとんどない二人には少し新鮮だった。



「……何の用だ」

「この前、この子を助けてくれたんでしょ? お礼が言いたくて」

「……」



鋭い視線がさらに鋭くなった。眼を細め何かを思い出しているだけなのだがフェイの目つきは凄く悪い。


フェイは最初にベータの少し長い髪がポニーテールで纏まっている髪を見た。無表情でジッと見つめ返してくる彼女の眼を数秒歩きながら眺める。


すると、あぁ、と思い出したかのように目を逸らした。



「……興味もない、そんなのは不要だ」

「ええ? ちょっとそんな反応予想外……まぁいいわ。兎に角、ありがと」

「……!!」



 アルファがお礼を言って、ベータがエ社をする。だが、一切興味がない、そんな雰囲気を醸し出しながら適当に手で制す。それ以上話すつもりはないとでも言っているのかとアルファは感じた。


(変な奴……)



ベータがじっとフェイを見るがその視線が鬱陶しいのか、アルファたちより少し後ろに下がる。



(……ベータって凄い言い寄られることあるのに……どうでもいいのかしら? 普通ベータほどの美人に見られたら妙な期待とか勝手にする奴が多いんだけど……本当にコイツは、全く興味がないって感じね)



(なんや、アイツ……また女よって来とるやん!! はぁ? なんでアイツだけ!!)



(変な香水でもつけてるのか? アイツ)




そのフェイの様子を見ながらエセとカマセはモテまくっているフェイに戦慄をしていた。




■◆



 指定された大きな洞窟。そこにはとある青年が立っていた。紅の髪、赤い眼。カウボーイのような帽子をかぶってフェイ達を見つけると大きく手を振る。



「いやいや、待ってたよー! こっちこっち!」

「すいません、遅れました」



 マルマルが代表をして挨拶や依頼についての確認を行う。どうやら新種の迷宮区を発見をしたのだが一人では入れず、かと言って他の冒険者はがめついから信用できないという事で聖騎士へ個人的な依頼を出したようだ。



「デカく使って、デカく稼ぐ! それがモットーなんだ! さぁさぁ、行こう! おっと、ボクの名はジーン、よろしく!」

「は、はぁ……皆、油断するなよ」



 軽快な雰囲気でそさくさと進んでいく。彼はウキウキで一刻も早く洞窟を調べたいようだ。


 洞窟の中は湿っており、水滴が弾けるような音が稀に耳に響く。全員が僅かに警戒をしているが、マルマルだけは疑惑があった。



(こんな洞窟、何処にでもあるような気がする。これが新しい迷宮区、ダンジョンなのか? 分かりやすい場所にあったしすでに調査が終わっているのでは)



「ふふふ、そこの教師役の人。言いたい気持ちはわかる。ただね、ボクは読み解いたんだ! とある財宝のありかを!」



 そう言って、ジーンは土の壁の一部に触れる。大きな音が鳴り響いて壁が裂けて行った。



「ふふふ、ボクが依頼するのはここからの調査だ! さぁ、冒険を始めよう!」




 ジーンが先頭に立ちながら歩いて行く。そんな彼に周囲を警戒しながら歩いていたアルファが疑問を呈した。



「よく、こんな場所気付いたわね」

「昔、近くの村に二人の剣士が居たんだ。互いに高め合っていた。だが、所詮井の中の蛙ではないかと感じ、このままではいけないと二人して世界に旅に出たらしい。再会の約束をしてね。一人の剣士は戻ってきた……だが、もう一人は」

「戻らなかったのね」

「そう、だけどその剣士は今も待って居るらしい。世界を渡り歩いた財宝とかを身に置いて。という日記を古い雑貨屋で見つけてね。解読をしたってわけさ」

「へぇ、随分とロマンチストね」

「そうだね。僕もそう思う。その剣士は再戦を望んでいたんだ。世界を渡り歩き集めた財宝とかを、決着が着いたときに高い酒とかを買うために貯め込んでいた。強くなった宿敵と杯を交わすために」

「ふーん。その宝がここにあるんだ?」

「だろうね。聖騎士の君たちへの依頼料以上だと思ってるよ」

「それはそれは、だとしたら凄いわね」




 軽口を交わしながら歩き続ける一同。だが、ここで何かが変わる。マルマルが真っ先に臨戦態勢に入る。



「……何かいる」

「おっと、では後は頼むよ。聖騎士さん」




 ジーンが下がり聖騎士たちが剣を抜く。日が届かない暗い洞窟。火の魔術で視界は多少明るい。持ってきていた灯の明かりを頼りに視線を先へ向ける。



「……リビングデッド、珍しいな」



 マルマルがそうつぶやいた。明かりによって照らされた先には骨だけになった人。肉が一切ついていない骸骨が剣を持ってゆっくりと彼らに向かってくる。



「アルファ、ベータ、ガンマ……魔術に秀でた君たちが僕と一緒に遠距離からの殲滅。洞窟だから崩れないようにリビングデッドのみを狙って外さないように。残りのフェイ達は後方の守備を」



 マルマルが指示をする。それによって、アルファたち三人が水の魔術を繰り出す。詠唱をし、水の玉、水の矢が繰り出される。遠距離からの的確な魔術によって次々とリビングデッドが殲滅されていく。



「なぁ、ワイたち……居る意味あるん?」

「ぼ、僕様だって」

「お前、魔術苦手やろ」




 エセ、カマセ、フェイは魔術が苦手軍団なので後方支援を中心にしている。洞窟の中には何があるのか分からない。遠距離からの攻撃手段でゆっくり進む方が安全であると判断したマルマル。



 その後も、アルファたちの活躍は止まらない。


「まぁ、当然よね」

「……」

「ガンマには余裕なのだー」



「「……」」



気まずい表情のエセとカマセ。それを見て、ジーンが一言。



「君たち、立場無いね……プー、クスクス」

「「……」」



エセとカマセはもう何も言えなくなっていた。ただ、ジーンは気になった。一人だけ、何事もないように涼しげな表情でここまで歩いてきている一人の少年が居るからだ。


腕を組み、まるで



「君はさっきからなんか……変だね。何を待って居るんだい?」

「感じる……呼んでいる。俺の試練が」

「……??」



ただ、それだけを呟いた。うずうず、と何か禁断症状が出てしまっている異常者のように落ち着きがない。


腕を組みながら右手の人差し指をトントン何度も腕に当てたり離したり本当に落ち着きがない。



(……この子、大丈夫かな?)




 心配になるジーンだったが、一同は進み続けていく。他にも魔物が出たり、トラップがあるが前方の聖騎士しか仕事がない。すっかり暇になったエセがジーンに話しかける。



「ジーンさんは、冒険が好きなんか?」

「ん? ボクかい? 別にただ単にお金が好きなだけさ。沢山あれば自由に出来るだろう? 踊り子のお姉さんと良いこと出来たり、お高い面白い舞台とか見て笑ったり、それがしたいだけさ。お金の心配を忘れて自由になりたいって感じ?」

「へぇ、お金か。確かにワイも好きやな」

「そうだろ? お金で買えない物はないからね。あるに越したことはない」




 お金の話で盛り上がる後衛。それを聞きながら呆れるアルファとガンマ。また好感度が下がった瞬間である。そして、前衛たちが活躍をし続け、遂にとある大きな空洞に辿り着いた。


 そこで行き止まり。マルマルが空中に火を置いて全体を照らす。



「おお!! めっちゃ財宝っぽいの有るやん!!」



 その部屋の壁。そこには山積みにされている金貨。とある剣士の生涯の財産が置いてあった。



「取りあえず、あれは置いておいてトラップがないか調べよう。注意してくれよ」



 マルマルの指示で部屋を調べていく。だが、特に何かがあるというわけでも無く一同は金貨の山に向って行く。早く金貨に触れたいと何名かの頭にあった。


「おおー、凄いな。ガンマも驚きなのだー」


 一通り調べ終わると、金貨の山に興味津々のガンマ。彼女は好奇心が強い。お金にがめついわけではないが宝と聞くと心が疼く。マルマルもすっかりこれ以上は何もないと油断をしていた。



 ――ガンマが興味本位で金貨の山に近づく。グサっと、何かが。ガンマの頭には剣が刺さり、血が噴き出し、彼女は死亡する……はずだった。


 それは、とあるゲームの話。アルファとベータの妹が一瞬で死に至るのはゲームの中だけの話。


 だが、ここには既に異分子が居る。ガンマが興味を持って近づこうとした時、誰かが剣を抜いた。



「――出ろ。居るのは分かっている」



 低い、怒りのような声。誰もが安心しきった空間に先ほど以上の緊張が走る。ジーンがフェイに対してどうしたのかと問う。



「何を言って――」



 そこまで言って、そこから先の言葉は出なかった。目を疑う光景、金貨の山が勝手に動き出したからだ。金の山が崩れていく。そして徐々に何かが埋もれていることに気付いた。



 骸骨。先ほどのリビングデッド、生きる屍と同じような何かが隠れていた。その骸骨は服を着ていた。黒い、装束のようなものを骨の上からまとっている。その手には鉄の剣が握られていた。


 ただの鉄の剣。業物というわけでも無い、どこにでもあるような純粋に剣技のみで再戦を願う誓いの剣。


「……」



 気付いたら剣士は立っていた。フラフラと足取りがおぼつかない。だが、その雰囲気は先ほどのリビングデッドと格が違った。


「お前気付いていたんかいな!?」

「当然だ」


エセが驚いたようにフェイに語り掛ける。周りもフェイの言葉に目を見開く、どうして気付くことなどが出来たのだろうか。分かるはずもない、金貨の山に骨の剣士が隠れていたなど。



「全員――」



 全員で態勢を整えて、そう指示をするつもりであったマルマル。そして、それを察して動こうとしていた全員に莫大な滝のような圧がかかる。



「――



 その瞬間、全員が戦う事を放棄した。リングから強制的に降ろされたと言うべきかもしれない。フェイと骸骨騎士が剣を構える。


 金属音が木霊する。重厚な命のやり取りの音。それが小刻みに全員の耳に響いて行く。



「アア、マッテイタ……」

「奇遇だな。俺も待って居たぞ。お前をな」



 骸骨が言葉を発した。その言葉は広がって行き耳に届く。待って居た? 全員が首を傾げる。だが、数秒後には直ぐに納得をした。ジーンの話にあった待ち続けていた剣士だ。



「ワガショウガイノテキ……サイセンヲ」

「来い」



かみ合わない歯車。両者共に何か部品が違うのに無理に回っている時計のようなやり取りだった。



――グシャ



骸骨の剣がフェイの左肩に刺さる。だが、それを気にせず、フェイも剣を下ろす。


『ダメージ交換』


フェイの必勝パターン。相手の攻撃を受け止めて、相手にも剣を突き立てる。防御を捨てた攻撃は自身の身体へのダメージを考えなければ効率的な一撃となる。



血が舞う。肩から落ちた血がゆっくりと地面に落ちる。致命傷でないがあれ程の傷を負わせてしまったのなら教官として引かせることが最善であるはずなのに。


(……言えない)



マルマル、五等級聖騎士の存在が小さくなってしまうと錯覚するほどに、十二等級聖騎士と骸骨の剣士の圧が膨れ上がって行った。



フェイは左肩を使い物にならなくされた。だが、骸骨の騎士も左腕が飛ぶ。互いに右側の攻守に意識を集中する。


大きく振りかぶった骸骨の騎士の一撃、フェイも真っ向から大振りで打ち返す。



大きな鉄の太鼓を叩いたような音が鳴る。



「クク」

「ハハハ!!! コレダ! コレコソモトメテイタ!!!」

「あぁ、俺もだ。戦おう、分かっていた、お前が待って居るのはな」



命のやり取り、そこに快楽などない。それは娯楽ではない。にも関わらずフェイは嗤っていた。



「なんで、笑ってるのよ……」



アルファが意味の分からない化け物でも見たように呟いた。理解など出来ない領域の剣士。強いとか弱いとか、そう言った事の問題ではなく、もっと根本的な精神的な問題。



「アンタ、一歩間違えば死ぬのよ……」




絶望と死と隣り合っているのに頬を吊り上げている少年の剣舞を見て戦慄が隠しきれない全員。



「な、なんだよ、あれ、ば、バカじゃないのか? なんで笑ってるんだよ!? 可笑しいだろう!」



ジーンが恐れたように言葉を吐きながら目をさらす。



「ジーンさん、眼、逸らさん方がええで……こんな英雄譚の一片。いくら金払っても見れへんからな」

「は……?」




ジーンがフェイを見る、死の間際で只管に嗤い、戦う強者。確かにと納得をした。こんな光景は一生で一度見れたら幸運かもしれない。そう思う程に煌めていた。



血が、剣が、瞳が、背が、何より魂が。



歪で理解が出来ない正体不明の存在。だが不思議と人を魅せてしまう狂気がそこにあった。



「……アァ、コレガ」

「どうした? キレが落ちて来たぞ」



上からの剣の一撃を波風清真流初伝、波風を片手で再現し流す。そのまま脳天に剣を叩きこんだ。骨の割れる音がして、数メートル骸骨は吹っ飛んだ。骸骨の頭部に大きなひびが入る。


リビングデッドとは後悔の塊である。生前の願いを叶えたい、欲望を叶えたい、未練を叶えたい。その悔いある魂が肉が消えた骨に宿る。


だが、大抵の存在はリビングデッドになると願いを忘れてしまう。ただ襲うだけの獣に堕ちる。そういった存在は空っぽになった願いの器を壊せば未練など残らず消える。


ただ、忘れない個体も居る。ずっとずっと只管に生前の願いを叶えたいと意識と願いを持ち続ける存在も居る。


そうなると面倒になる。原作でもガンマが殺された後に対処が出来ず、骨が何度もくっつき再生をする。光の魔術や聖水を使用すれば問題は無いがそんなものを都合よく持っている者は居なかった。


だが、願いが叶えば徐々に体は崩れていく。執念が消えていく。骨だけになった剣士も再戦の約束が果たされ徐々に……



「……そろそろ、終わりにしよう。もう、貴様の剣に価値はない」

「――ッ」



骨の剣士に蘇る過去の記憶。おぼろげな中で忘れかけた中で微かな糸を辿って思い出した闘争。果たしかけていた欲望が再び乾く。


「ハハハはぁぁあ!!! ヤクソクヲコエヨウ!!!」

「それでいい、そうでなくては面白くないッ」



眼が無いのに、眼力のような圧がかかる。だが、それに一切ひるむことなく真っすぐフェイが進む。


真っすぐ。真っすぐ。フェイが剣を下ろす。骨の剣士が剣を振り上げる。互いに大振り。力と力の真っ向勝負。


互いに衝突をして剣が離れる。その瞬間、骨の剣士が更に猛攻を仕掛ける。衝突によって下げられた剣をフェイの足に向け、疾風の突きが太ももに刺さる。右の足が死んだ。


だが、フェイも負けてはいない。



「等価交換だ。貴様の右腕を貰う」



刺した剣を持っている右腕を左腕で押さえ、剣を下ろし右腕を叩き折る。また、『ダメージ交換』。血が徐々に足りなくなっていく。右太ももの剣を引き抜くと、更に血が滴り落ちた。


視界がぼやけていく。少しづつ、闇に落ちていく。それを精神力で無理やり耐え、左足で地を蹴る。



「……」



無言で再び頭部に剣を振り下ろし、頭部を叩き潰した。その瞬間に消える煙のように骸骨が何かを呟いた。



「あぁ、たのしかったよ……また、さ、い、せんを……」



それっきり、何も語らなくなった。そこにはもう動かないただの骸骨が横たわっていた。



「勝ったの……? アイツ……」



アルファが呟く、眼の前で見たのは一体何であったのか。本当に現実であったのか疑ってしまう程であった。きっと、一生忘れることなどあろうはずがない。その戦いを。その男の名を。



勝った男は肩で息をし、血を流しながらも立っていた。



――血が滲んでいる拳をフェイは強く握った



俺は勝ったのだと。先に進んだのだと。そう己の成長に歓喜し、次の瞬間に意識を失って倒れた。





■◆



 任務に行くデー!


 なんと、新種のダンジョンだとか!! テンション上がるなー!


 うえぇぇぇい!! ダンジョン、ダンジョン、ダンジョン! やっぱりさダンジョンって響きが良いよね?


 主人公と言えばダンジョンみたいな感じもあるしさ!


 

 今回の任務メンバーはエセとカマセとマルマル先生と……だれ? 知らん。エセが凄い口説いているけど、美人ねぇ……


 正直主人公である俺にはいずれ最高のヒロインが来るからさ。あんまり女性関係に困ってないって言うか? 口説く必要がないって言うかさ。


 まぁ、でも可愛いと思うよ。エセとカマセ頑張れ。


 俺はクールに後方で腕組んでますよ。それにしてもダンジョンか、楽しみだなぁ。俺が凄い活躍をするのは基本でしょ? 


 いやいや、楽しみ楽しみ。



 ん? お礼が言いたい? ベータ? ……あぁ、この子、前にベタな展開に巻き込まれてたポニーテールの女の子か……ベタな展開だからベータね。韻を踏んでるな。やっぱり。


 覚えやすいような処置されてるって事はモブかね?


 あー、どうもよろしく。気にしないでいいよ、あれくらい別に基本だから。人を助けた事一々気にしてる暇ないよ



 さーて、ダンジョンに入りますよ! さぁさぁさぁ、俺の活躍の機会は!?


 ん? え? 魔術適性ないから後衛? 


……


……


……


 アルファって子達が凄い活躍してる……えっと、俺主人公だよね? なんで俺より目立ってるの? 俺、初ダンジョンなんですけど……。


 うわぁ、こういうの嫌いだな。主人公である俺より活躍ってさ。この円卓英雄記って言う世界は俺が主役だから。俺が一番活躍しないといけないんだよ?


 こいつら、もしかして人気投票一位狙ってるんじゃ……いや、そんな訳ないか。そもそもこの世界にそんなのあるわけ無いし。でも、俺が活躍したい。


 あー、もしかして俺が大トリ? 最後の最後に美味しい所を持っていくみたいな? それだな。さぁこい、俺の出番!!


 最深部まで来てしまった。あれ? 俺の出番は……いや、無いはずはない。ここでボス的な奴が登場するはずだ。


 と言うか出てください!! お願いします!! 俺の出番をください!! 主人公が活躍しないっていうのもあるかもだけどさ。流石に何も無さ過ぎでしょ。なんかあるでしょ?


 出番をください!! 主人公である俺の!!!



「――出ろ。居るのは分かっている」



 来い来い、来い、出番来い。骨が出た!


 ――はい来たー。分かってました。明らかなボス。常に準備してたからね。ガンマって子、俺が止めなきゃ危なかったかもね。


 

 おいおいマルマル全員で倒すなんて野暮な事はナシだぜ? どう考えても俺がタイマンで倒さないと主人公の活躍値が稼げないでしょ。



「アア、マッテイタ……」


俺も待って居たぜ? 俺のボスって奴をさ。


「ワガショウガイノテキ……サイセンヲ」

「来い」


 

 さぁ、始めようぜ。まず、多少の流血をして相手にダメージを与えていくぜ。多少の血では驚かない。



「クク」

「ハハハ!!! コレダ! コレコソモトメテイタ!!!」

「あぁ、俺もだ。戦おう、分かっていた、お前が待って居るのはな」



 何だか、こいつも笑っている。いや、俺もちょっと感情が解放されて笑ってるな。もしかして、万が一、億が一、兆が一の確率くらいで出番がないかなって不安だったからさ。



 主人公だよね? 俺? みたいな。出番がやっぱりないとさ不安って言うか。活躍を周りに取られるって主人公として最悪だからさ、ちょっと悩んでた。



 いやでも、ちゃんと出番が来たからスッキリだな。思わず笑ってしまう。血が流れてても気にしない!


 寧ろ、血が沢山流れるほどに強くなっているみたいな気もする!!




 さぁさぁ、戦おうぜ!! 今の俺は血に飢えたバーサーカーだ!!


 あれ? ちょっとキレ落ちてない? 大丈夫? もっと熱くなれよ!! 俺は今バーサーカーなんだよ!! 


 あ、右太ももに剣が刺さって血が噴き出た。まぁ、主人公にとってこんなのは蚊に血を吸われた程度でしょ!!



 じゃ、こっちも右腕貰いまーす! バーサーカーですので!!


 

 頭砕きまーす、バーサーカーなのでこれくらい雑な感じで戦うのが丁度いい


 

 よし、俺の勝ちだな。勝利と血を流して気絶するのもセットだよな。それにしてもエセが凄い良い味出すな。


 解説役みたいな感じで……。今度から行けるんじゃない? あれは○○剣の何々奥義であれを出されたらヤバい!! とか。


 解説役だったかもしれないなエセは……


 まぁ、出血多量で気絶しかけてるときに考えることじゃないかもな。あと気絶したら運んでね?



 出血多量でお休みなさーい。


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