第6話 たかが石ころ
朝の日差しが俺を照らす。その明るさに目を覚ます。孤児院のベッドから体を起こして着替えを済ませる。
日課のトレーニングの為に庭に出る。素振り、反復横跳び、筋トレをこなす。朝は多少の涼しさがあるからトレーニングが捗って気持ちがいい。
二年間、朝のトレーニングは毎日欠かさず行う事にしてきた。主人公だからだ。日々の積み重ねは大事。
当たり前のことだ。二年間もやり続けてきたからか、俺の体も大分引き締まっている。二年前よりは格段に強くなっているだろう。無論、これからも成長をしていくが。
体が引き締っているからな。ポージングとかすれば絶対に絵になるやつだな。これは。そんな事を考えながらトレーニングを済ませて、布で汗を拭う。
それが終わったら、朝食をするために食堂に向かう。孤児院の子達は全員同じ時間に同じものを食べる。
席は自由であり、俺はいつもと同じように端っこに座る。大体、俺の側には誰も座らないのだが、偶にレレとマリアが座る、今日はその日のようだ。
俺はいつもよりも多くご飯を食べる。今日から円卓の騎士団、仮入団団員として活動を開始するからだ。いや、ついにこの日が来てしまったな。
ふっ、一体全体どんなことになるのやら楽しみだ。
「ふぇい、きょうから、えんたくのきしだん、かりにゅうだんだんいんなんでしょ?」
「あぁ」
「きゅうりょうももらえるの?」
「そうだな」
「ぼくけんがほしい!」
「……俺が給料入ったときに何か出来るようになっておけ」
「そしたら、かってくれる?」
「……あぁ、だが勘違いするな。それを手に入れられるかはお前次第だ」
レレは素直で可愛いなぁ。マリアにやったぁと喜びの声を向けているのも可愛い。そして、マリアも可愛い。
俺が優雅に食事の時間を過ごしていると、
「ちょっと、私がトゥルーにするのよ!」
「わ、ワタクシですわ!」
「ふ、二人共落ち着いて」
金髪に碧眼のツンデレ系の少女、レイ。お嬢様口調で青髪青眼のアイリスがどちらがトゥルーに朝ごはんをあーんするのかと言ういつもの激闘を繰り広げていた。
……俺にもああいうのがいつかあるのかな?
それにしてもトゥルーって、噛ませっぽいのにヒロイン枠みたいなのが二人も居るんだよなぁ。まぁ、俺にもいつかできるんだろうけど。
朝食を終えて、身支度を整える。そして、孤児院を出る。
「ふぇい、がんばれー」
「いってらっしゃい」
俺の見送りはレレとマリアだけだ。トゥルーは他の孤児達からの激励の言葉を聞いており、まだまだ出発に時間がかかるようだ。
王都ブリタニア。レンガで作られた家が多く、二階建ての家もあるが大体がそういう家は商人の物だ。出店とかも多少あり、活気がある。
偶に豪華な服を着ている者が居るが、あれは貴族か? 一応聞くところによると封建制度らしいけど、主人公である俺が貴族と関わるイベントもありそうだな。
クールに歩きながら、目的の場所に向かう。そこは騎士団本部より少し離れた場所。空地のように僅かな雑草と三本の木。それだけしかない。
俺が一番乗りか。あ、ふてぶてしく遅れても良かったかもしれない。遅れてやってくるのも主人公っぽいよな。
いや、集合場所に遅れるって言うのもそれはそれで……良くないような。主人公としての集合の仕方について悩んでいると。
「あ、フェイ」
「……アーサーか」
「一番乗りなんだ」
「あぁ」
アーサーが来た。その後、トゥルーと二人の女の人もやってくる。
◆◆
アーサーが仮入団団員として最初に活動するための目的地に到着すると、既に誰かが自分より先に居るのが分かった。三本の木が生えている、その内の一本に背中を預け、腕を組んで、眼を閉じている。
「あ、フェイ」
「……アーサーか」
「一番乗りなんだ」
「あぁ」
沈黙。互いに多くを語ることがない性格。故にその沈黙とは当然の物であった。
(……フェイって、何歳なんだろう。聖騎士は十五歳からなれるけど、ワタシは17歳だし)
「フェイって、何歳?」
「……十五だ」
「あ、そうなんだ」
(大人っぽいから、もっと上の年齢だと思ってた)
なんて言おうかなと頭で考える。だが、彼女は極度の言葉足らず。発した言葉がフェイにとってその通りに通じるかは分からない。
「フェイって、良い意味で老けてるよね」
「……さぁな」
明らかに、侮辱でもあるがアーサーは天然なのだ。フェイの内心は嫌味を言われたと感じている。
(ワタシって、子供っぽいなぁ。フェイと比べると)
「ワタシは十七歳だけど、まだまだ、ぴちぴち。フェイと比べると」
「……そうだな」
ぶっきらぼうにフェイは呟く。アーサーは気付かないが、フェイの眉間にはしわが出来ている。
時間は過ぎていき、二人の空間に新たな人物がやってくる。
「あぁ!? んだよ。一番乗りじゃねぇのか!」
「「……」」
腰まで伸びる赤い髪。眼も紅蓮のような赤。八重歯が鋭そうなまさしく、自由と言う言葉が似合いそうな一人の女の子。そんな彼女が二人を見ながら寄って来る
「あ! お前、試験の時の!」
「……誰だ」
「ボウラン! アタシの名前だ、憶えておけ! 三下!」
「……そうか」
フェイはクールに流す。彼女は円卓英雄記と言うノベルゲームで、アーサー、トゥルー、とスリーマンセルとして特別部隊として活動をする少女。ボウラン。ガサツな言動が目立つが、鬱ノベルゲーなのでその内死亡する少女だ。
「あわわわ! すいません! 遅れてしまいましたか!?」
彼女が来た後すぐに、銀髪に碧眼、小さい背にアーサーより凹凸のある体。ロりのような少女が現れる。
「す、すいません……教師なのに、遅れてしまいまして……」
「遅れていない……」
アーサーが教師と名のる、その白い少女にフォローを入れる。
「よ、よかったぁ」
「でも、私とフェイはかなり前から待ってた」
「わわわ、ご、ごめんなさい!!」
「別に、謝る必要はない」
アーサーは淡々と事情を話して、落ち着いてもらおうと思ったのだが、逆に慌てさせてしまった。そして、ボウランは教師と名乗った少女に対して疑問を向ける。
「教師!? お前みたいなチビが!?」
「あはは……すいません。チビで。えっと、ボウランさんに、アーサーさん、そして、フェイ君ですよね? あと、トゥルー君……はまだのようですね」
教師役と言う事で全員が僅かに驚く、明らかに教師と言うよりも生徒と言う程に幼さを感じたからだ。
「あ、誰か来るぞ?」
ボウランが目を向ける。そこには、トゥルーの姿があった。彼は素早い身のこなしで三本の木のふもとに到着する。
「お、遅れてすいません」
「いえいえ、私も今来たところです!」
五人、本来なら四人であったその場所にフェイと言うイレギュラーが入った事で物語は大きくねじれていく。
「自己紹介をしましょう! 私は、ユルル・ガレスティーア、皆さんの教師として一緒に活動をする十二等級聖騎士です! よろしくお願いします!」
鬱ノベルゲーと言われる円卓英雄記で一番最初に酷い目に遭ってしまう。ユルル・ガレスティーアが挨拶をした。
彼女に言われ、全員が挨拶をする。知っている者、初めて見る者、さまざまに交差する。そして、ある程度談笑を済ませると、早速教師であるユルルが一つの白い水晶を取り出す。
手の平に収まるサイズ物だ。
「早速ですが、訓練を開始します。聖騎士についての詳しい授業はまた次回に。皆さんは仮入団とは言え、聖騎士として活動をする道を選びました。これは相当な覚悟を持っているからであると私は考えます」
先程までのゆるキャラみたいな、ほわほわした感じとは違い、凛々しくなったユルル。
「私以外にも皆さんを担当する教師の方々は居ますが、取りあえず、私は主に剣術について、皆さんに指導をします!」
やる気、やる気! そんな感情が彼女からは伝わってくる。
「と、言っておいてなんですが……」
やる気の顔から、少し、何とも言えないような顔に変わる。若干苦笑いも混じり、厳しい空気が霧散した。
「これは、魔術適正を測ることが出来る水晶です。まぁ、私は魔術担当ではないのですが……ワタシとは別に皆さんを担当する魔術の先生が事前に測っておいて欲しいと言われているので、測りましょう!」
やる気満々と言った具合で彼女は水晶をボウランに渡す。
「それを手の平に乗せて、
「……」
「火、水、土、風。そして誰もが持っている無属性。持っている属性に対応するように、それを連想するような光がそこから溢れてきます。まぁ、大体の人は無属性にプラスして、四属性の内の一つしか獲得している属性はないんですけど」
ユルルが淡々と説明をしていく。聖騎士になった者なら、必ず学ぶことになる魔術と言われる超常現象。元々、学んでいる者、知っている者でも基礎から再び学ぶことになる。
魔術とは超常的な現象。何も無い所から火を水を。吹くはずのない場所に風を。そう言った現象を起こすことが出来る。だが、無制限に何でもできると言うわけではない。
これには属性があって、その属性を持つ者にしかその系統の魔術は使えない。火の系統の魔術なら、火の属性が、水系統の魔術なら、水の属性が必要。
「……まぁ、アタシは自分の属性既に知ってるんだけど。折角だから見せてやるよ」
ボウランの手の平の水晶から、淡い光が溢れ出す。炎、水、土、を連想する光が現れる。
「ええぇぇぇ!? う、うそ
「当然だぜ。アタシは天才だからな!」
そう言いながら不敵に笑って、水晶を返す。アーサー、トゥルー、フェイは次はだれが測る? と視線を互いに投げる。
「――俺は最後で構わん。先に行け」
唐突に、フェイがそうつぶやいた。それならと、トゥルーが今度は水晶を受け取る。そして、それに力を注いでいくと。先ほどのボウランとは比べ物にならない程の、炎、水、風、土のような光が輝く。
「
「次はワタシ……」
驚く、ユルルを差し置いて、アーサーがその水晶を持ち、同じように力を加える。すると……二人とは全く違う、光。輝かしく、猛々しい。星のような光であった。
これは、先ほどユルルがあげた例のどれとも違う。
「……
ユルルも驚きを隠せない。通常、
多くの物は、無属性に四属性の内一つだけ。だが、稀に、二つ、三つと属性を併せ持つ者が居る。それが
これだけでも、ユルルの理解を大きく超えていた。だが、さらに、アーサーは
そして、劣等感を覚えた。自分は……無属性しか持って居なく、そのことでずっと馬鹿にされるような事もあったからだ。彼女の場合、様々な事情が重なってしまっているから、バカにされる理由はそれだけではない。
だが、その一つであることに間違いはなかった。
まさか、最後の人も……とユルルはフェイに顔を向ける。アーサーから水晶を受け取る。
ゴクリとユルルは唾を飲む。
そして……
■◆
ユルル先生、ゆるキャラ先生と俺は心の中で命名している。その話を聞いていると、面白そうなイベントが起こった。水晶による、適正テスト。
ふふふ、遂に来たな。俺の隠された力を紐解くイベントが! あー、今までは自分ではどうしても、実力を測りかねていたんだよな。
やっぱり、自分の力ってさ、良く分からないんだよね? ほら、自分の体の事は自分が良く分かるって言うけど、あれってちょっと違くない?
だってさ、よく健康だと思っていたけど、人間ドッグをしたら実はそんなことはなかった。みたいな、さ。人間では分からない事も、無機物的な調査で分かるって言うのはよくあるよね。
よっ! 水晶最高!
ようやく、俺のイベントが来たな! あー、実は入団試験でそんなにいい格好が出来なかったら心配してたんだよ。あんまりカッコいい場面無いなって。
やっぱり、俺としても、最高の主人公を目指したいって言うか?
――あ、俺は属性テスト測るの最後でいいよ。
だって、俺がいきなりとんでもない感じの結果出したら、後の人可哀そうじゃん?
やりずらいって言うか。そんな気がする。さて、全員が測り終わったようだな!
そして、アーサーから水晶を渡される。
へぇ、三人共、まぁまぁじゃん? 結構凄いんじゃなかったっけ? 先生メッチャ驚いてるし。あんまり魔術知識ないから知らんけれども。
さーてと、やりますか。星元。実は殆ど感じ取れないんだけど。指先に少し集めるくらいなら行けるから……よし!
どうですか? ユルル先生!?
「フェイ君は……無属性しか、持ってないみたいですね……」
なんだと!?
ど、どう言う事だ!? 俺は慌ててしまう。う、嘘だろ!? マジかよ!?
俺は主人公、俺は主人公。落ち着け、冷静に考えよう。
……
……
……
まぁ、そもそも元も子もないけど、こんな石ころに俺の実力は分からんよね。自分の体の事は自分が一番分かっているって言うか? 無機物なんかに繊細な人間と言う無限の生命体の可能性を測るって無理だよね。
納得。俺がうんうんと頷いていると。ユルル先生が俺の耳元で小声で話す。
「あ、あの、元気出してくださいね。実は私も、フェイ君と同じで無属性しか持ってないんです」
「……そうか」
あ、このタイミングで俺と同じ境遇の先生。これは俺の強化フラグかもしれないな……。師匠ポジみたいな。
『無属性の可能性……貴方にだけ、教えますよ。フェイ君』
あー、これだ。流れが見えたな。俺はこの人に色々教わるとしよう
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モチベになりますので、面白ければ、星、感想をお願いします。
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