第8話 久々の対面
2階の入院患者の中におばあちゃんの部屋があった。
ナースステーションで体温などを書き込んでいると後ろに父が立っていた。
1週間ぶりに父の顔を見て、また泣きそうになった。
早く、書かなくてはいけない欄を埋めた。
はち切れそうなほどドクンドクン鳴っている心音が耳を搔き立てながら、
私は、おばあちゃんの病室に入った。
あまりにも見ていられなかった。
あの、元気だった時のおばあちゃんとは全然想像がつかないほどに”弱っていた”。
そこには何本ものチューブが繋がれて無機質な機械音が規則的に鳴っていた。
人工呼吸器は外されていたものの兄によると安定しているから大丈夫らしい。
あまりにも衝撃的過ぎて思わず立ち尽くしてしまった。
父や兄、叔父たちに『もっとそばに寄っていてあげなさい』と言われた。
私は戸惑いながらもそばにあったイスに座りおばあちゃんの手を握った。
頭の中で話しかけたかった言葉が1つも出てこなかった。
言ったらまた、涙が溢れてきそうで口が動かなかった。
ただただ、温かいしわしわな手をひたすら握りしめていた。
おばさんはずっと見守りながらハンカチを握りしめて時々、目元を拭っていた。
おじさんは気を遣ってか、病室から退出していた。
兄はおばあちゃんに
「大丈夫かい?」
「聞こえる?」
などたくさん話しかけていた。
兄は私にもやってほしいと言ってきた。
意識はなくても感覚はあるらしい。
特に聴覚が1番最後まで機能するため声をかけると良いと言われた。
しかし、私はこんな時に思ったことは今となれば少し腹が立つ。
”声をかけるのが恥ずかしい”
そんな思考が声を出させなくしていた。
自分の無力さや自分勝手さなどを痛いほどに感じた。
しかし、ただ黙っていても何も進まない。
感覚があるならと思い、肩を揺すぶりながら小さい情けない声で
「おばあちゃん」
と声をたった一声だけかけた。
それを見た兄は
「おばあちゃん、聞こえる?やっと札幌から到着したよ?
これから、みんな集まるからもうちょい、頑張ろうか」
と言った。
私も、それを聞いて少しは元気が出た。
「おばあちゃん、もう少しだよ、もう少しでママたちとお兄ちゃんが来るから」
手を握りながら肩を揺すぶり話しかけると、
意識がない中で寝言なのかはわからないが声を発した。
久しぶりに聞いたおばあちゃんの声だった。
言葉はわからなかった。
「あぁ、、、」
と、ただ呟いただけだった。
それでも、おばあちゃんの声を聞けて感極まった。
「少し、休んでくる」
そう言って私は退出した。
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