ローテーション家族
柴野 メイコ
0日目
第1話 上島家(1)
「
日曜だというのに、階下から大声で何度も声をかけられ寝ていられなくなった三哉は渋々身体を起こした。
カーテンを開けると光が射し込んでくる。
三哉は、僕の気持ちと裏腹によく晴れてるな、と寝ぼけた頭で考えた。
窓の外からは、近所の小学生のはしゃぐ声やピアノの音、名前の分からない鳥の鳴き声などが聞こえてくる。
平和な日常だけど三哉は『明日からまた学校』と考えると日曜日が憂鬱で仕方なかった。
『サザエさん症候群』という言葉が有名だけど、朝から落ち込む僕の場合は違う言葉で説明するのかな?窓の外を眺めながらぼんやり考えていると再び「三哉ー!!」と呼ばれたので、ノロノロと部屋を出ることにした。
リビングには、母・
「おはよう。パンあるから食べてね。昼は昨日の残り!お母さん仕事行くから。」
恵子は近所の弁当屋へ週に3~4回パートへ行っている。
三哉はパンをモグモグと口へいれながら「皆は?」と訊いた。
「お父さんは草野球、
じゃあ仕事行くからね。どっか出かけるならおじいちゃんに声かけてくのよ~」
恵子は朗らかにと答えるとコロコロと太った身体を揺らしながら慌ただしく出て行った。
「出かける予定なんかないよ。」三哉は悲しそうに呟き、パンを飲み込んだ。
ーここで
父・
母・恵子は井戸端会議好きで大らかな性格をしている。前述の通りパートに出ており、常連客とのお喋りを楽しんでいる。
太っているが、今さら痩せる気はない様子だ。
長女・一音は進学校の女子高に通っている。外ではクールな美人で通っているが、家では弟たちに罵詈雑言をあびせる姿が多く、クールというより、冷血と言った方がしっくりくる。
長男・健二は友だちには優しいのだが、その他に対しては短気である。高校生になり、少し丸くなったのだが、中学生の頃は、ケンカっ早く両親を心配させていた。
勉強は苦手で、進級できるか心配されている。
姉弟と違い顔は地味だが頭は金髪で派手である。
末っ子の三哉は、顔はイケメンだが、とにかく性格が地味で暗く大人しい。
最初は顔を見て話しかけて来る女子たちも、あまりにも会話が続かないので去っていく始末。人前で話すのも下手くそで友達もほとんどいない中学二年生だ。
そして、将太の父で3姉弟の祖父・
以前は高校で化学教師をしていたのだが、退職してからは狭い庭にプレハブ小屋を建て日夜、怪しげな物を作っている変り者だ。
ーさて、朝食を終えた三哉は祖父のプレハブ小屋へ向かった。
晃太郎は確かに変人であるが、三哉は祖父の事が嫌いではなかった。
人付き合いが苦手な三哉のことを穏やかに見守ってくれているからだ。
と言うより晃太郎自身、人付き合いに対してアドバイスが出来ないだけであるが。
プレハブ小屋の中は穏やかな日曜日に似つかわしくない緑や青、黄の混じった変な色の煙で充満していた。愛用の大鍋で何か煮詰めているようだ。
「おじいちゃ~ん!大丈夫?」三哉はむせながら煙に向かって声をかけた。
「三哉か?もちろん大丈夫だ」晃太郎の自信満々な声が聞こえてくるが煙のせいで姿は見えない。
だんだん目が痛くなり涙が出てきた。「今度はなに作ってるの?」目を擦ると余計にしみる。
「今に分かる」ガハハハと豪快な笑い声が煙の向こうから聞こえる。
涙が止まらなくなった三哉はケホケホと咳き込みながらプレハブ小屋の外へ出た。
この時、「何を作っているのか」厳しく問い詰め、鍋をひっくり返してでも止めさせる事ができる性格だったのならあんな事にはならなかったのだが、この時の三哉は勿論知る由もない。
祖父とゆっくり話も出来そうにないのでリビングに戻ることにした。
2時間ほどゲームをし、昼を食べ、宿題を済ませると、することが無くなった。
遊ぶ約束もない、見たいテレビも無い、晃太郎もプレハブ小屋から出てこない。
起きていて憂鬱になるくらいなら寝ていた方が有意義だ。
三哉はソファーに寝転がった。
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