第30話 チロの場合
「早く出てきて顔を見せてね」
そう言ってお腹を優しく擦る女性とそこに寄り添う男性は、誰が見ても羨む美男美女だ。
「エチカ体調はどうだい?」
「大丈夫よ!それよりランバート、貴方は大丈夫なの?働き詰めで心配だわ…」
「この子と1日も多く過ごしたいんだ。その為にも面倒なことは先に片付けてしまいたくてね」
「無理しないでね…ほらこの子も無理しないでねって言ってるわ!」
「どれ?本当だ動いているね!」
本当に見ているだけで吐き気がする。お茶を淹れながら冷めた目で2人を見つめるメイドがいた。名はエマで2年前からこの公爵家にやってきた。
「可愛い子が生まれてきますよ!お二人のお子様なんですから!」
私は愛想笑いを浮かべてエチカ夫人に声をかけると、嬉しそうにありがとうと美しく笑う。あぁ憎たらしい!私は下級貴族の四女として蔑ろにされて育った。親の愛情も裕福な思いも感じてこない惨めな人生だった。
この生まれてくる子は幸せに育っていくのだろう。公爵と王女の子だなんて贅沢な子だ!だがこの子がもし不幸になったらこの2人も私みたいに惨めで悲惨な人生になるのかしら。
そして数ヵ月後
エチカ夫人は元気な男の子を出産した。名前はヨシュアと名付けられた可愛らしい子はすやすやと最高級のベビーベッドで眠ってる。私は夜に子供部屋に忍び込み、寝ているヨシュアを裏口から連れ出した。裏口の門番は私が差し入れであげた飲み物でぐっすりだ。
この憎たらしいガキがいなくなったらあの2人は発狂するかしら?それとも見捨てる?フフ…いい気味だわ!
私は見つからないようにスラム街に逃げ込んだ。そこで死なない程度の面倒を見て物心つくまで面倒を見た。このガキの顔を見るたびあの夫妻の顔が浮かび、腹立つので理不尽に殴った。このガキの大事なもの全て奪ってやった。一番良かったのが大事に育ててたらしい犬を目の前で殺してやった!
だがあの子を見て同情した近所の奴が密告して、ある日沢山の兵士がうちにやってきて私は拘束された。あのガキを殺しておくべきだった!ガキは保護された。
私は湿った地下牢に閉じ込められ激しい拷問を受けていた。私の家族も捕えられ目の前で殺された。私は放心状態で横たわっていると、目の前に憎たらしい夫婦が立っていた。
「エチカ夫人!私をお許し下さい!羨ましかったんです!」
お人好しだから上手く丸め込めば…
「お前は絶対に許さない!楽に死ねると思うなよ!」
エチカ夫人は恐ろしい程の威圧感とオーラでエマに言う。穏やかなランバート公爵も冷酷な目で見下ろす。
地下牢に悲鳴が響きわたる。
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「ねぇチロ…愛しているわ!」
チロを抱えて言うエチカ。
「キャー!チロもあいちてましゅ!」
今度こそこの子を幸せにしていこう!
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