第12話 魔狼
森には入った俺は超微弱な魔力を放つ。これは指向性を持たせた魔力をソナーのように利用し感知する技だ。
この世界に生きる生命はすべて魔力を宿している。つまり何らかの生物の魔力に俺の魔力が反応し、場所を特定が可能という事だ。
この技には苦労した。指向性を持たせるのも、それを一定の速度、範囲で広げるのも。これが少しでもズレると距離感が変わる。
あれ?思ってたより遠いな、なんてことになるからな。
あと、放出する魔力の量、強さも苦労した。これが強すぎると自分の場所を大声で叫んでいるのと同じだからな。気づけば魔物が大集合みたいなことになるし、他人を威圧し兼ねない。
自分を中心に水の波紋を広げる感覚を掴んだら楽だった。完成形は頭の中にあったしな。使う魔力も極少量なので使い勝手が良い。
まだこの魔法が未完成の頃、大気中の魔力にも反応した時はコンセプトごと失敗なのかと焦ったが、これは体内魔力、つまり生物が内包する魔力と大気中の魔力の違いを判別する事で事なきを得た。親父が言うには体内魔力をオド、大気中の魔力をマナと呼ぶらしい。
今では魔物は疎か冒険者や騎士のような戦闘慣れしている者にも気づかれないようになった。感知能力がずば抜けて高いか、達人級の魔力の扱いができるのなら気付けるかもな。
俺の
森の浅い所を一通り探したがあの辺りは弱い魔物しかいなかった。気配を消して森の奥へと進む。
「お、七つか。群れのようだな。ウルフ系か?」
暫くして魔力波に七つの比較的大きめの反応があった。対象の風下に移動し、気配を極限まで無くして何の魔物か確認する。
見たところ狩りの最中のようだ。六匹の群れでボア系の魔物を襲っている。
これはCランクのグレーウルフ、ん?ボスはBランクのホワイトウルフのようだな。群れとしてはBランク上位ってところか。
相手はBランク下位のビッグボア、この調子だとすぐに狩りは終わりそうだな。
あの連携は並みの冒険者じゃきついだろうなと思いながら観察していると魔狼たちが遠吠えを上げ、ビッグボアが力尽きた。
ふむ、危なげなく勝利したな。上位の魔物が率いる群れは厄介という事か。
このまま気付かれていない内に不意打ちで減らすか。森林火災を起こしたいわけでもないし、水の魔法でいこう。
右の掌に魔力を変換し前世の野球ボール程のサイズの水球を生成、そのまま魔力を操作し極限まで圧縮。
狙いをグレーウルフに定め、二体が直線上に重なるタイミングで約1mmの穴を開け圧縮された水を解放。
放たれた水は寸分の狂いなく二体のグレーウルフの頭を撃ち抜き、その先の木をも貫通し木々の中に消えた。
脳を破壊された二体の魔狼は己の死を自覚する事なくどさりと突然力が抜けたように倒れる。残りが二体の異変を感じ取り近づくが、その身体は既に生命活動を停止している。
仲間の突然の死を驚き戸惑うグレーウルフ。
ここだな。すぐさま
群れの頭のホワイトウルフが俺に気づき、吠えるが三体のグレーウルフは状況を把握していない。奴らが俺に気づいた時にはあと少しで俺の間合いというところまで来ていた。彼我の距離を詰めながら穿牙を横薙ぎに振るうため構える。
ホワイトウルフの号令でほぼ反射的にすぐさま後ろへと回避しようとするが、更に一歩踏み込み空中で避けようの無いグレーウルフ達の首を纏めて刎ねる。
首から上を失った体は電源が切れたおもちゃのように倒れた。この世界でいうと魔力を失った魔道具か?
「さあ、あとはお前だけだ」
「ッガァァ!!」
咄嗟の出来事に硬直していたホワイトウルフは怒りを露わに襲い掛かってくる。
グレーウルフよりも大きく強靭な身体はそれだけで危険だ。さらに長く生きて知能が高い個体なのか戦い方が老練だ。魔物にしては、だが。
ホワイトウルフの攻撃を躱し、時に受け止め、時に受け流す。こいつの強さはよく理解した。苦しめずに終わらせてやろう。
「ハァッッ!!」
「ッッ!!?」
バックステップで距離を取り、こちらを追撃しようとするホワイトウルフに魔力を解放し叩き付け、威圧する。もろに受けたホワイトウルフは驚き動きを止める。
俺の魔力は龍のものと同義だ。生命として圧倒的上位者の威圧と殺気はホワイトウルフをその場に縫いつける。今まで気配と魔力を抑えていたのも一役買っているだろう。
硬直したホワイトウルフに倒れそうなほどの前傾姿勢で踏み込み、神速で接近。その勢いを穿牙に乗せ下から掬い上げるように一閃。ホワイトウルフの首を切断した。
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