第10話 牙の縁


「何の用だって言われてもな。ここは武具工房だろ?防具を買いに来たんだ」

「それもそうだな。ん?そいつは穿牙せんがじゃねぇか!」

「おっさん、こいつを知ってるのか?」

「知ってるも何も、依頼で穿牙と崩牙ほうがを作り上げたのはわしだからな!それにしても何でお前が持ってる?あれらは辺境伯の知人から依頼された物だったはずだ。それに崩牙をどこにやった?」


 へぇ、双龍牙そうりゅうがを打ったのはここの工房だったのか。それに目の前には打った本人。これも巡り合わせかもな。


「落ち着けよ。崩牙はアイテムボックスの中。俺がこいつらを持ってるのは親父から貰ったからだ。」

「何?親父だと?お前さん、まさか龍とその巫女の子供なのか??」

「その巫女ってのは知らないが、俺が龍の血を継いでいる事は確かだ」

「ほう!こいつは凄え!わしの最高傑作とその使い手に出会えるなんてな!お前さん名前は?」

「俺はスターク、龍人だ。おっさんは?」

「スタークか、良い名前だ。わしはシュミット、見ての通りドワーフでここの工房長だ」


 確かにシュミットと出会いは僥倖だ。双龍牙のメンテナンスも頼めるし、腕の良さはもう既に理解している。


 ちなみに龍と龍の巫女というのは両親達の呼び方で、二人をモデルにした本や絵本がこの国では沢山あり、新しいが一般的な物語らしい。


「話が盛り上がって忘れる所だった。防具を探してるんだったな。お前さんの戦闘スタイルは何だ?」

「本気の時は双龍牙を使っての二刀流だ。相手が弱い時みたいに場所と状況に応じて穿牙と崩牙を使い分ける事も多い。攻撃は回避か受け流すことが多いから動きが阻害される物は勘弁だ」

「なるほどな。武器に重量がある分、防具は軽い方がいいか。よし、ついて来い」


 店に並んでる商品はスルーなのか?良い品が多いと思うが。


「ん?あぁ、表に出してあるのは弟子達が作った物だからな。うちの工房では中堅どころだな。わしが手を加えた物や出来の良い弟子達のやつは裏に置いてあるんだ。わし達が客を見極めるためにな。それにわし達が認めた奴は大体欲しい物が決まってるからな。受注生産が多い、奥の保管庫に通すのは稀だ」


 なるほど、相応の使い手でなければ売らないのか。前世の工場見学みたいでワクワクするな。

 工房内にはシュミットの弟子と思われる人が沢山居り、グループや個人で作業をしている。

 それぞれの作業毎に部屋が別けられているらしい。そして、弟子の一人がこちらに気づき話しかけてきた。


「あれ、親方、休憩おわりですか?その方は?」

「いや、客だ!驚け、双龍牙の使い手だぞ!」

 

 シュミットの一言で工房内がざわつく。双龍牙はこの工房の全員が知ってるようだ。

 弟子達の目がキラキラしているな。


「えぇ!親方の最高傑作の!?ぜひ、是非見せてくれ!!」


 十五人の汗臭い男たちに群がられ、気分は最悪だ。これどうすんだ。


「わりぃな、スターク。見せてやってくんねぇか?」

「分かった。その間に防具見せてくれ」

「任せておけ、とっておきのやつがあるぞ」


 穿牙を腰から外し、崩牙をアイテムボックスから取り出す。双龍牙をミシミシと音を上げる作業台の上に置く。


「傷付けんなよ?」

「はい!もちろんですとも!うひょーー!」


 テンション高えな、全員武具オタクってところか?


 シュミットに連れられ保管庫にやって来た。ここにある武具は彼の言う通り、店に並んでいた物よりも高品質な物ばかりであった。

 なかでも最奥に保管されている革の防具一式は双龍牙と同じ感じがする。


「おっ、やっぱり気付くか。あれは凄えぞ!なんたって双龍牙の時の余りの素材、竜の牙を使ってあるからな!試しにと思って弟子と作ってみたがとんでもない物が出来ちまった」

「へぇ、親父のを……」

「ああ。双龍牙と同じで、ある意味お前さんのための品と言えるな」


 シュミット曰く、黒い革のコートとベスト型の胸当て、ズボン、ブーツ、この一式は伸縮性抜群のブラックドラゴンの革を使っており、裏地にはレッドシルクワームが出す高品質の糸を使った生地。

 それぞれ、龍の牙を超高温で溶かしミスリルと混ぜ合わせた合金で必要箇所を補強してあるようだ。話を聞いただけでも素晴らしい品だと分かる。

 いいな、こいつが欲しい。


「シュミット、これにする。いくらだ?」

「おぉ!そうか!値段は、そうだな。金貨二十枚って所だな」


 金貨二十枚なら払えるな。よし……


「ちょっと待ってくれ!!」

「ん?どうした?」

「この一式を金貨十五枚にする代わりにお願いしたい事がある」


 シュミットに頼まれたのはとある依頼だった。俺はそれを快諾し、金貨十五枚を払った。


「良し、受け取ったぜ。ありがとうなスターク。お前さんなら安心して任せられる。防具はサイズを少し調整すれば良いだけだから明日には渡せるぜ。よし、採寸だ」

「気にすんなよ。いい防具が買えて、面白そうな依頼も出来るんだ。俺にとっちゃ良い事尽くめだからな」

「ついでに双龍牙も研いでおいてやろうか?刃こぼれの心配は無いが研いで損は無いだろう?」

「そうだな、頼む。助かるよシュミット」


 良いってことよ、と白い歯を見せて笑うシュミット。ナイスミドルだな。


 採寸を済ませた俺達は、女に群がるゴブリンのような弟子達を無視して双龍牙を回収しシュミットに預け外に出る。


「それじゃ、明日の朝の二回目の鐘9時以降に来てくれ」

「おうよ、またな」


 シュミットと別れ、俺は薬系の買い出しに向かった。

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