【光輝】第1話:嫉妬

 俺が羽月のことを好きになったのは、中学生になってすぐのことだった。

 だけど、羽月の隣にはいつも優李がいたし、羽月も優李のことしか見ていなかった。


 だから俺は羽月のことを忘れるために、1年の中でもトップクラスで可愛いと言われている女と付き合った。

 周りから羨ましがられようが、手を繋ごうが、キスをしようが、どれだけ数多くのセックスをしようが俺の心が羽月から離れることはなかった。


 中2になった直後に、俺は羽月から優李に告白するか悩んでいると打ち明けられた。どうせだったら、優李と付き合ってくれた方が諦めがつくかもしれないと思い、大丈夫だから告白してみろなんて心にもないアドバイスをした。


 その結果案の定あいつらは付き合うことになったのだが、俺は諦めるどころか嫉妬心がより強くなってしまった。どんなに可愛くて、俺のことが大好きだったとしても、俺が好きになることができなかった女と中3の夏に別れた。


 月日は流れて、冬休みに入ったくらいに、親父の仕事の関係で引っ越すことが決まった。卒業式までは引っ越しを待ってくれることになったので、最後の数ヶ月だけ全然知らない人たちと過ごして卒業を迎えるということは回避できたようだ。


 引っ越すこと自体には特に何も感じなかった。

 高校に進学したとしても、俺は羽月や優李、奏のように頭の出来が良くないから、どうせ俺だけ別々の学校になることは分かりきっていたことだしな。


 そんなことより、引っ越すことを聞いて最初に思い浮かべたのは、最後に羽月とセックスをしたいということだった。

 今までは親友の優李の顔がチラつくから、積極的に羽月に手を出すことはできなかったが、引っ越しをしてもう会うことがないなら最後の最後に足掻いてみたい気持ちになったのだ。


 そうして俺は卒業式の2週間前に、羽月だけを花咲公園に呼んで思いの丈を伝えた。ダメ元ではあったのだが、羽月も了承してくれたので、そのまま俺の家に行って羽月のことを抱いた。

 2回目をしようかと思ったときに、親から『これから帰る』とRINEが届いたときは焦った。流石に俺と羽月が部屋で一緒にいられるところなんて見せることができない。結局俺は1回セックスしただけで羽月を家に帰した。


 俺しかいなくなった部屋のベッドに一人で寝転びながら、さっきまでここで羽月のことを抱いていたんだと思うと笑いが止まらなかった。

 今まで元カノと散々セックスをしてきたが、羽月とのセックスは気持ち良さが比較にならない。元から好きだった女を抱いているという事実はもちろん、正直顔以外全てにおいて負けていた優李のことを、初めて出し抜いた気分になったのだ。身体的な快楽だけではなく、脳が麻痺するような快感に俺が病みつきになってしまった。


 何度も抱きたいと思ったが、流石にこれ以上すると羽月を追い詰めてしまい、優李にバレる可能性があったので諦めることにした。それが原因でもしうちの親にバレでもしたら、シャレにならないからな。




 -




 そして俺は中学の卒業と同時に引っ越しをして、新しい生活が始まった。


 当たり前だが、進学した高校には知人なんて一人もいない。だからそれを良いことに、クラスで一番可愛い女の子に声を掛けて、すぐに告白をしたら簡単に付き合うことができた。

 高校生になったら彼氏を作って、リア充したいなんて思ってる女の子は結構多くいるので、ちょっと顔さえ良ければ彼女を作るなんて簡単なことだった。


 そして、普通に何度かデートなどを繰り返したら、俺の家に誘ってセックスをした。相手は初めてだったみたいだが、まぁ何とか問題なく行為を終えることができた。


 しかし、羽月とのセックスに比べると、気持ち良さが全然違ったのだ。俺は羽月としたときのことを思い返していた。そして、あのときは身体だけではなく、脳が溶けるような快感が襲ってきたことを思い出した。



 ひょっとしたら、彼氏がいるやつを抱いた方が気持ちいのか……。



 そう思った俺は、彼氏がいる女を狙って落とすことに決めた。

 その方法は、ホームレスに金を渡してその女を襲わせて俺が助けるというものだ。

 まぁ、よくありそうな感じではあるが、普通にナンパしたって断られる確率の方が高いしチャラ男認定されるに決まってるんだから、ちょっとしたドラマを演出してやれば良いと思ったのだ。


 実際に試してみると、あっさりと連絡先を交換することができた。

 あっちから「今度お礼をしたいので連絡先を教えてください」と言ってくるんだから、正直チョロすぎて笑いが止まらない。


 そうして、何度かやり取りをして、お礼という名のデートを何度かしたら、セックスというパターンを何度も繰り返した。

 普通に彼女とセックスするよりも、遥かに気持ちがよかった。だけど、羽月には及ばない。違いは恐らく、相手に愛情を持っているか、彼氏のことをよく知っているか否かだろう。


 羽月を抱いたときは、元々愛していた女だったことに加えて、親友の優李の女というのが最高スパイスだった。俺はその快感を忘れられなかった。こっちで何人もの女を抱いても満たされることはなかったのだ。


 気付いたら俺は高2になっていた。

 そして、父親からまた以前の街に戻ることを聞かされる。



 そのことを聞いた俺は、優李から羽月を奪えるチャンスだと考えて笑ってしまった。

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