幕間
いつからだろう【梢の視点】
私が三島くんのことを好きになったのはいつからだろう?
一年生から三年生までずっと同じクラスだったけど、正直苦手なタイプの男の子だった。私一人だったら絶対に話しかけることはなかったと思う。
私が三島くんと話すようになったきっかけは、私と一番仲良しの奏ちゃんと幼馴染みの山岸くんがとても仲良しだったから。三島くんは山岸くんととても仲が良かったんだよね。
高校三年生になって、私たちの関係にちょっとした変化があった。
以前よりも奏ちゃんが山岸くんと一緒にいる時間が増えたのだ。
あまり詳しいことは分からないし、直接話は聞いてないんだけど、どうやら山岸くんと坂下さんはお別れしてしまったらしい。だって同じクラスになっても、二人とも全然喋らないんだから人間関係に興味がない人以外全員が察したよね。
元々奏ちゃんは山岸くんのことが好きだと思っていたので、私は心の中で『奏ちゃんチャンスだよ!』って心の中でガッツポーズをした。
私たち4人が以前よりも仲良くなったのは、期末テスト前のことだった。三島くんが期末テストに自信がないから、山岸くんに勉強を教えて欲しいと懇願していたのを見て、私から4人での勉強会を提案してみたのだ。
人に教えることで私も理解が深まるし、苦手だった教科を山岸くんが教えてくれるので、私にとっても予想以上に有意義な時間になった。それからというものの、この4人で集まって頻繁に勉強会をするようになった。
そのときに、いつも巫山戯てばかりだった三島くんが、物凄い集中力で勉強に取り組む横顔に気付いて、私は少しの間見惚れてしまったのだ。そんな私に三島くんが気付いたんだけど、その時の私は今思い返しても挙動不審だったと思う。
『ん? 俺の顔に何かついてる?』
『えっ? あっ、つ…いてないよ。何も着いてないから安心して! 綺麗な
顔してるから大丈夫』
「き、れいな……顔?」
「違う、違うの! 違わないけど、違うんだよ」
三島くんは私が何を言っているのか分からず、ずっときょとんとした表情をしていた。
「あー、もう! 気にしないで。ほら、ちゃんと勉強しないとダメだよ! 三島くんこの問題解けるの?」
私は自分でも分かるくらい顔を真っ赤にさせて、無理やり三島くんに『この問題を解きなさい』と指示をしていた。そんな私のことを奏ちゃんと山岸くんがニヤニヤ見ていることに気がついて、さらに照れてしまい当分顔を上げることができなかった。
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私が三島くんのことを本格的に意識するようになったのは、奏ちゃんが「高校時代ずっと同じクラスだった4人が、大学まで一緒だったら凄いよね」と言ってから。私は三島くんと同じ大学に通って、一緒にキャンパスを歩いている姿を想像してしまったのだ。
それは私が今まで思い描いていた大学生活よりも、全然魅力的で楽しそうな未来だった。
(あっ、私は三島くんのことが好きなんだ……)
そう気付いてからは、三島くんのことを見るたびに胸がドキドキするし、話し掛けられるだけで嬉しくて舞い上がってしまった。
だけど私みたいに、休日は一人でずっと小説を読んでいるような根暗は彼に相応しくないので好かれるわけがないし、フラれるって答えが分かっているのに告白でもして、今の4人の関係が崩れてしまったらと思うと怖くて自分から動くことは出来なかった。
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そう言えば夏休みに一回だけみんなと遊びに行った。
プールに行ったんだけど、水着姿を見せるのはとても恥ずかしくて、私がモジモジしてると、三島くんが「可愛い」って言ってくれたのが本当に嬉しかった。私はテンションが上がってしまい、本当に久しぶりに心から笑えたかも知れない。
そうして夏休みも終わって二学期になり、少し経ったら高校最後の文化祭が始まった。
私たちのクラスは、ハロウィン仮装喫茶をすることになった。
クラス全員が仮装をしたんだけど、狼男になった三島くんを見て、『はわわわわ、可愛すぎるよぉ』と柄にもなく浮かれてしまい、奏ちゃんのことを抱きしめながら『キャーキャー』と心の中で飛び跳ねてしまう。
奏ちゃんは何も言ってこないけど、多分私が三島くんのことが好きなことはバレバレだったと思う。それくらい私は三島くんのことで一喜一憂していた。
文化祭は両日とも目立った混乱もなく終わったが、これから受験の追い込みが始まると思うとちょっとだけ億劫になってくる。だけど、同じ目標を目指している、いつものメンバーがいるので高校受験のときに比べたら意気込みが全然違った。
文化祭が終了して簡単な片付けだけをすると、みんながキャンプファイヤー目的に校庭へ向かって行った。それは私と奏ちゃんも例外ではない。そういえば、三島くんと山岸くんの姿が途中から見えなかったんだけどどこに行ったんだろ? 本音を言うと、三島くんとも一緒にキャンプファイヤーを見たかったな。
私たちが校庭に出ると、カウントダウンの大合唱が始まっていた。全員のテンションが徐々に上がっていくのが伝わって来る。
そして、キャンプファイヤーに火が灯ると、みんなの興奮は最高潮に達した。私は元々人混みで騒ぐのは苦手なタイプだったので、みんなみたいに盛り上がることは出来ないけど、それでも気分が高揚しているのが分かった。隣を見ると奏ちゃんも楽しそうに笑っている。
しばらくキャンプファイヤーの火を見ていると、奏ちゃんが「梢ちゃん、ちょっと着いてきてくれないかな?」と声を掛けてきた。私はどこに向かうのか分からなかったけど、「いいよ」って言って奏ちゃんの後をついて行った。
上履きに履き替えて校舎の中に入ると、私たちの教室にどうやら向かっているようだった。
「何か忘れ物でもしちゃったの?」
私がそう聞くと、奏ちゃんは「ん〜、そんな感じ」と言って何も教えてはくれなかった。あまり誤魔化すようなことをしないいつもの奏ちゃんと違うので、私はちょっと不思議に思ったけど、そのまま大人しく後をついて行く。
そして私たちはついに教室の前に到着した。
「梢ちゃん。黙ってここまで連れてきてごめん。教室に梢ちゃん一人で入ってくれないかな?」
「え? どうしたの? なんで一人で教室に入らないとダメなの?」
「お願い! 入ったら分かるから。絶対に怖い思いとかはしないから」
「う、うん、分かった。けど次からはちゃんと事前にお話してね?」
「うん! ありがとう」
私は扉を開くと、教室の中でキャンプファイヤーを眺めている人がいた。
私はその横顔を見た瞬間に、心臓が跳ね上がったのが分かった。
(三島くんだ!)
キャンプファイヤーの明かりに照らされる三島くんの横顔は、とても幻想的で物語の主人公のようだった。私はドキドキしながら三島くんの元までゆっくりと歩いていく。
「おっす。後夜祭の途中なのに教室までわざわざ足を運ばせてごめんな」
「ううん。大丈夫だから気にしないで」
「美山さんにも協力てしてもらってここまで来てもらったのはさ、田貫さんにどうしても伝えたいことがあったからなんだよ」
「……うん」
私は彼から目を離すことが出来なかった。
彼の真剣なんだけど、どこか不安が入り混じったような目に、私は吸い込まれそうな錯覚をしてしまう。
「田貫さん。俺は君のことが大好きだ。俺はガキだし、うるさいし、今までもたくさん田貫さんに面倒を掛けてきたけど、これからはもっと大人になれるように努力するから…………どうか俺と付き合ってもらえないでしょうか」
私は三島くんの言葉を聞いて信じられない気持ちでいっぱいだった。驚きのあまりに、何も言えないでいると三島くんが不安そうな顔をしていた。
「やっぱりダメかな?」
「ご、ごめんなさい。そうじゃないの。嬉しくて……とても嬉しくて、だから驚きすぎちゃって声が出なかっただけなの」
「嬉しかった?」
「うん。三島くんの言葉とても嬉しかった。だって、私も三島くんのことが好きだったから」
三島くんは真剣な顔をして、私が次に言う言葉を待っていた。
「だから、私とお付き合いしてください。あと、無理に大人になろうとしないでください。だって、私が好きになった三島くんは、ちょっと子供っぽいところがあるけれど、いざという時は凄い集中力を発揮して真剣に頑張れるところなんだから」
こうして恋人同士になった私たちは、手を繋いでキャンプファイヤーを教室から少しだけ眺めてから教室の外へ出た。
すると廊下には、奏ちゃんと山岸くんの2人が待ってくれていた。
私は奏ちゃんの顔を見ると抱きついて、「私、三島くんと付き合えたよ」と言うと「おめでとう。良かったね、梢ちゃん」と自分のことのように喜んでくれた。私としては、奏ちゃんと山岸くんも付き合って欲しいと思うのだけど、坂下さんのこともあるし中々第三者が口を挟むことが出来なかった。
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あれから月日が経って、私は大学3年生になっていた。
「なぁ、梢は今日何限まで講義あるんだっけ?」
「4限までだよ。悟は5限までだよね? 私が先に帰って料理の準備とかしておくね」
私たちは大学3年生になったと同時に同棲を始めた。正確に言うと、お互いが同じマンションで一人暮らしをしたんだけど、ほとんどどちらかの部屋で過ごしているから、同棲という表現がピッタリって思ってる。
そして驚くことに奏ちゃんと山岸くんも、私たちと同じマンションで一緒に一人暮らしをしているのだ。私たちの関係は高校生の頃から変わらず、ずっと仲良しのままだった。悟は山岸くんのことを『親友』と呼んでいるし、私も奏ちゃんのことを一番大切な『親友』だと思っている。
私の今の夢は、この4人でずっと仲良く一緒にいれること。
大学を卒業して社会人になっても、結婚をして子供が生まれても、そしておばあちゃん、おじいちゃんになってもずっとずっと仲の良い『親友』でいられることを私は願っている。
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