第11話:期末テスト直前

「優李ぃ〜、ここの問題分からないから教えてくれよぉ〜」


「だめだよ、三島くん。もうちょっと自分で考えないと」


「なんだよ、田貫さんは意地悪だなー!」


「意地悪で言ってるんじゃないんだよ。そんなこと言うなら、これから何聞かれても教えてあげないよ?」


「あっ、嘘。嘘です! 田貫さんごめんなさい!」


「あははは、2人とも仲良しさんだなー」



 高校の仲良し4人組は、ファミレスで合同勉強をしていた。

 なぜこのようなことになったかと言うと、それは放課後まで遡る。




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「優李、頼む! 今回のテスト本気でヤバイから勉強教えてくれ!」



 放課後になり、俺と奏が帰り支度をしていると、悟が猛ダッシュで俺たちの方に走って来た。そして、開口一番の言葉があれだ。



「あっ、悟くんずるいんだ! 私がいつも勉強教えてもらってるんだからダメだよ! 自分で頑張りなさい」


「奏、自分のこと棚に上げすぎだろ」


「私はいいの! ね、梢ちゃん」


「うーん。私に聞かれても困るけど……。あっ、じゃあ今日はファミレスにでも行って、みんなでお勉強するとかはどうかな?」



 田貫さんの提案に、悟と奏は目をキラキラとさせて「行くっ!」とハモって答えた。こうして、俺たちはファミレスに勉強をしに来たのだが、開始10分くらいで悟がもうグロッキー状態になってしまったというわけだ。




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 奏と悟が分からない問題は、俺と田貫さんのどちらかが教えて、俺が弱い教科を田貫さん、田貫さんの弱い教科を俺が教えるという最高のフォーメーションが気付いたらできていた。


 田貫さんの成績はもちろん良いのだが、とにかく教え方がとても上手い!

 本当に凄いと思ったので、素直に田貫さんのことを褒めたら、向かいに座ってる奏が俺の脛を蹴りながら、「ゆーくん何デレデレしてるのかな?」と怖い笑顔で俺のことを見てきた。

 これは嫉妬かな? そう思うと膨れっ面の奏がとても可愛く見えてしまう。だけど、ずっと脛を蹴り続けるのはやめてください、奏さん。


 そんな感じで、勉強をしていたら、気付けば3時間が経過していた。周りにお客さんは少ないし、オーダーもちゃんとしてるからお店の人に注意されることもなかったので、集中力が切れることがなかったのだ。



「あー、もうこんな時間じゃん。こんなに勉強したの久しぶりだわ」


「確かにな、今日の勉強は田貫さんのおかげでめちゃくちゃ捗ったわ」


「私こそ、山岸くんに教えてもらえたから、問題の理解度が深まったよ」


「むぅ〜。また良い感じになっちゃってぇ! だけど、今日は本当に良い感じだったね! また明日もこのメンバーで勉強会したいな」


「うん、私もみんなと一緒にまた勉強したい! だけど、お金が掛かっちゃうし、いつもファミレスってわけにはいかないよね」


「優李の家だと俺と田貫さんの通過駅だからさ、お前の家はどうかなって思うんだけどダメかな?」


「俺の家か? うーん、悪い。ちょっと厳しいわ」


「そっか、じゃあ仕方ないよな。問題は場所どうするかだな」



 悟に悪い、と思いながらも、正直家の中にまだ奏以外をあげる勇気が俺にはなかった。しかも、男2人と女2人だと、否応無しにあの忌まわしい日を思い出してしまう。

 すると目の前から視線を感じたので、見てみると奏が心配そうな顔で俺のことを見ていた。俺は奏を安心させるように笑顔を作って、一回小さく頷いた。


 4人で集まって勉強したいけど、毎日ファミレスに行くのは厳しい貧乏学生の俺たちは、結局これからは学校の図書室で勉強することにした。




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「ねー、高校最後の夏休みだしさ、1日くらい4人でどこか遊びに行かない?」



 勉強道具も片して、ドリンクバーでまったりとしていると、奏が思い出したように提案をしてきた。



「うん、賛成! せっかく仲良しになったんだし、この4人で夏の思い出作りに行きたいよね」


「はいはいはいはい! じゃあさ、みんなでプール行かないか? でっかいウォータースライダーがあるプール行こうぜ」



 悟……やるじゃない!

 俺は隣に座っている、最高の提案をした悟の方を見ると、悟も振り返り自然とハイタッチをしていた。



「ちょっと2人とも馬鹿なんじゃないの? けど、プールかぁ。楽しそうだね」


「うん。今年は海も行けなさそうだし、プールも良いよね」


「よし、じゃあ決まりだな! 優李は夏休みの予定ってどうなってるんだ?」


「俺は塾も行ってないし、基本は家で勉強だな」


「私もゆーくんの家で勉強してるよー!」


「私はまだ正確なスケジュールが分からないんだよね」


「じゃあ、田貫さんの予定が分かったらグループRINEに入れてくれな」


「うん。分かった。ふふっ、なんか楽しみになってきちゃった」



 夏休みの予定も決まってキリも良くなったので、俺たちは荷物を片付けて帰宅することにした。

 一足先に片付けが終わった俺は、みんなが楽しそうに笑ってるのを見て、心が暖かくなってきた。あのとき失われたものは戻っては来ないけど、こいつらといれて、心から幸せだなっと実感した。




 -




 今日はだいぶ遅くなってしまったので、奏を家まで送ることにした。

 隣を歩いている奏は鼻歌を口ずさんでいて、見るからに上機嫌だった。



「なんか楽しそうだな」


「だって今日のお勉強会とっても楽しかったんだもん。さらに夏休みの予定まで決まるなんて最高だよね」


「だな! とりあえず俺は奏の水着姿楽しみだわ、うん」



 俺はわざと奏が恥ずかしがるようなことを言ってみた。

 すると効果は覿面で、見る見るうちに顔を耳まで真っ赤にさせた奏は、俺の肩をボスボスと叩いてくる。



「ゆーくんって、そんなに恥ずかしいこと言っちゃう子なんだね」


「だって、奏の水着姿なんて、土下座レベルで見たいからな」



 真顔でそういうと、ついに堪えきれなくなった奏が、「うわぁ〜」と言いながら走ってしまった。俺は奏を慌てて「ごめんごめん」と謝りながら、必死に奏の後を追った。

 やっとのことで奏に追いつくと、顔を真っ赤にしたままで、「……なら、………良いよ」と言った。

 俺は聞き取れなかったので、「なんて言ったの?」って聞くと、奏は少しの間を開けてはっきりと口にした



「ゆーくんになら、たくさん見せてあげてもいいよって言ったんだよ!」



 奏の発言に、俺は自分でも分かるくらい顔を真っ赤にしてしまった。まさか奏からこんな逆襲が来るとは思わなかった。そんな俺を見て奏は満足したのか、「何真っ赤にしちゃってるのかな?」とめちゃくちゃ煽ってくる。



 俺はもう大丈夫。

 だって、今がこんなにも楽しいって思えてるんだから。




***後書き***


水着回はないです、ごめんなさい……。

夏休みのイベント色々と考えていたのですが、この物語は純粋なラブコメではないので、ストーリーの本筋から外れる内容は極力避けたいと思います。

なので基本的にこれから先のストーリーはどれも必要だと思っていて、蛇足は一切ないって考えています。

間もなくストーリーが徐々に動いてきますので引き続きよろしくお願いいたします!

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